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第一話「世界の縫い目」③
道場に入ると、ゼータは板張りの床を素足で踏んで、首だけを静かに動かして室内をひととおり確認した。
「道場」
「そうだ」
「古い」
「そうだ」
ゼータは特に感想を続けなかった。夜久は縁側に腰を下ろした。ブーツの底が縁側の板を鳴らした。
「どこへ連れて行くと言った」
「別の世界」
夜久は少し間を置いた。
「……別の世界」
「ん」
「この世界以外に、世界があるということか」
「ある」
「お前は見たことがあるのか」
「ある」
夜久はゼータの横顔を見た。嘘をつく必要がない顔をしていた。というより、嘘をつくという発想がない顔をしていた。
「なぜ俺が行かなければならない」
「知らないおじさんがそう言っていた」
「……それだけか」
「それだけ」
夜久は少し考えた。考えても答えは出なかった。
そのとき、門の方から声が飛んできた。




