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第六話「閂の向こう」④
「下がれ」
と夜久は小声で言った。
捕虜たちが壁際に寄った。夜久は扉の脇に身を潜めた。
足音が近づいてくる。一人分だ。扉が開いた。
松明を持った男が入ってきた。
焚き火を囲んでいた三人のうちの一人だ。
室内を見回して、捕虜たちを確認した。
夜久は扉の陰に貼りついて、息を止めた。男の視線が捕虜たちの上を流れた。夜久のいる方向には向かなかった。
男は捕虜の中からリナの母親を、松明の明かりで照らした。
「お前だ」
と男は言った。低い声で。
「来い」
恐怖か、あるいは別の何かか。
リナの母親は動かなかった。
「来いと言っている」
男が手を伸ばした。
夜久の体が動いた。
扉の陰から音もなく出て、男の手首を掴んだ。
松明を取り上げて、腕を背中側に素早く捻り上げる。男が短く声を上げようとした。夜久はその前に、男の首の後ろに鋭く手刀を打ち込んだ。
男が音を立てずに崩れ落ちた。気を失っている。死んではいない。
静寂があった。
松明の明かりの中で、七人の捕虜たちが夜久を見ていた。
誰も声を出さなかった。ただ、その目が——初めて、何かを信じようとしていた。




