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第六話「閂の向こう」③
女性だった。
三十代くらいに見える、痩せた女性だった。
髪が乱れ、麻の作業着に汚れがついていた。片方の袖が破れていた。でも目は生きていた。
その目を見たとき、夜久は思った。
大きな目だ。亜麻色の髪。子どもっぽく見えるほど真っすぐな視線。
リナと、同じ目をしていた。
「あなたの娘は」
と夜久は小声で言った。
「亜麻色の短い髪で、大きな目をした女の子か」
女性の表情が、一瞬で変わった。
「リナのお母さんか」
と夜久は続けた。
「……どうして、リナの名前を」
「村で会った。あなたを探してほしいと頼まれた」
女性が口を押さえた。
震えていた。泣くまいとしているのが分かった。
娘から受け継いだ我慢強さか、と夜久は思った。
「他に怪我をしている人はいるか」
と夜久は周囲に向けて聞いた。
「一人、足を痛めている」
と中年の男が小声で返した。
壁に寄りかかって座っている男で、右足をかばうように伸ばしていた。
夜久は状況を整理した。捕虜は七人。
外の焚き火を囲む賊が三人、望楼に一人。
建物がいくつかあることを考えれば、他にも賊がいる可能性は高い。
全員を連れて今すぐ脱出するのは、綱渡りになる。
まず動ける者だけ先に出すか、それとも全員まとめてか。
判断を固めようとしたとき、扉の外で足音がした。




