第三話「村と賊と報酬の話」⑤
ディルクの話は、確かに長かった。
この大陸はグランヴェルドと呼ばれていた。
いくつかの国が並立していて、それぞれが緩やかな同盟を結びながら、しかし水面下では牽制し合っていた。
そして魔法は存在した。
使える人間は少なく、使える者は貴族か軍に属することがほとんどだった。
街道の賊については、ここ数年で急に増えた、とディルクは言った。
「以前はこんなではなかった」
ディルクは言った。
「何かが変わってきている。この大陸のどこかで、力を溜めている者がいる、という話も聞く。噂だがな」
「どんな噂だ」
と夜久は言った。
「国々の統一を目指している者がいる、という話だ」
ディルクは苦い顔をした。
「各国をひとつの旗の下に束ねようとしている何者かが、裏から手を回しているらしい。賊もその一部ではないか、と言う者もいる。俺には分からんがな」
夜久は黙って聞いていた。
統一。
その言葉が、頭の中で小さく引っかかった。なぜ引っかかるのか、自分でも分からなかった。ただ、引っかかった。
蒼依が夜久の顔を見た。夜久は軽く首を振った。今ではない、という意味で。
ゼータは相変わらず杯を持ったまま、ディルクの話を聞いていた。表情は動かなかった。でも夜久には、ゼータの灰色の目が、「統一」という言葉のところで、ほんの少し、止まったように見えた。
「ゼータ」
と夜久は小声で言った。
「ん」
とゼータは答えた。
「何か知っているか」
ゼータは少し間を置いた。
「……分からない」
「分からないか」
「でも」
ゼータは杯の水面を見たまま続けた。
「聞いたことがある気がする。その話」
どこで、とは言わなかった。言えなかったのか、言う必要がないと思ったのか、夜久には判断できなかった。
窓の外で、風が鳴った。
村の平和な午前が、ゆっくりと流れていた。




