第三話「村と賊と報酬の話」④
「報酬の話をしよう」
とディルクが切り出した。
テーブルに水の入った杯が置かれた。夜久は杯を受け取ったが飲まなかった。
蒼依はひと口飲んで「水だ」と小声で言った。ゼータは杯を両手で持って、中を見ていた。
「俺はディルクという。街道を行き来して荷を運ぶ仕事をしている」
ディルクは言った。
「さっき話した賊の件だが、俺も困っている。この先に届けなければならない荷がある。だが一人では不安だ」
「護衛を頼みたいということか」
と夜久は言った。
「そうだ。ここまでの道は安全だった。人が消えているのはこの先の区間だけだ。だからここまでは一人で来られた」
ディルクは続けた。
「だがこの先は話が違う。お前たちが何者かは知らない。だが」
ディルクは夜久の持つ影桜に目をやった。
「その刀、ただの飾りではないだろう」
「飾りではない」
「ならば話は早い。報酬は金と、この村と次の街の間の情報だ。地図も出す。お前たちは土地勘がないと見た」
夜久はディルクを見た。悪い話ではなかった。むしろ、今の状況で望めるものとしては十分すぎるくらいだった。土地の情報も地図も、今の三人には何より必要なものだ。
「蒼依」
と夜久は言った。
蒼依はすこし考えてから、小声で返した。
「賊がどのくらい危ないか分からないうちに受けるのは……。情報だけ売ってもらうことはできないの」
「こちらが何も差し出さないことになる」
「うーん」
蒼依は口をへの字にした。
「夜久が怪我するのは嫌だけど」
「する気はない」
「する気があってするやつはいないでしょ」
夜久はゼータを見た。
ゼータは杯の水面を見たまま、少し間を置いた。
「……賊が出るなら、夜久の刀が役に立つかもしれない」
「お前の意見を聞いた」
「それが意見」
夜久はディルクに向き直った。
「受ける。ただし条件がある」
「聞こう」
「この世界の基本的な事柄を教えてほしい。地名、国の名前、この辺りの力関係。俺たちは本当に何も知らない」
ディルクはしばらく三人の顔を見た。地図に載っていない場所から来た、という言葉を思い出しているような顔だった。
「……本当に何も知らないのか」
「本当に」
ディルクは息をついた。杯を持ち上げて、ひと口飲んだ。
「長い話になるぞ」
「構わない」
と夜久は言った。




