第二話「剣と魔法と知らないおじさん」⑤
旅人は、三人が森の縁から出てきたのを見て、最初に剣に手をかけた。
警戒している。当然だ、と夜久は思った。見知らぬ人間が三人、森から出てくれば誰でもそうする。
夜久は影桜を左手一本に持ち替えて、右手を上げた。
敵意がないことを示す、どの世界でも通じるはずの仕草。
旅人は三人を見た。夜久を見て、蒼依を見て、ゼータを見た。ゼータの素足と薄い服に、一瞬目が止まった。
それから旅人は口を開いた。
言葉が、聞こえた。
分かった。
「……通じる」
と蒼依が小声で言った。
「この辺りの森から来たのか」
と旅人は言った。男の声だった。
三十代くらいに見える、日焼けした顔をしていた。
「あの森は獣が出るぞ。・・珍しい装いをしているな、三人とも」
「遠くから来た」
と夜久は言った。
「この辺りの地理を教えてほしい。報酬は出す」
旅人は夜久の持っている影桜を見た。黒い鞘の刀。
彼の携えている剣が西洋風の直剣であることから推察するに、こちらの世界では見慣れない形だろうと夜久は思ったが、旅人は特に怯まなかった。
「遠く、とはどのくらい遠くだ」
夜久はわずかに間を置いた。
「地図に載っていないくらい」
旅人はしばらく三人の顔を見回した。それから、ゆっくりと剣から手を離した。
「近くに村がある。まずそこへ行く。話はそれからだ」
旅人は踵を返して歩き始めた。ついて来い、という意味だと、夜久は判断した。
蒼依が夜久の隣に並んだ。
「報酬、何で払うの」
と小声で聞いた。
「考える」
と夜久は小声で返した。
後ろでゼータが言った。
「お金、持っていない」
「分かってる」
と夜久は言った。
三人は旅人の背中を追って、草原の道を歩き始めた。石造りの建物が、少しずつ近づいてくる。旗が風を受けて、音を立てた。




