桜庭 琴葉:4
お母さんが死んで、おうちが無くなって…
それから…それから…それからどうなんだっけ…。
「…こういう世界よ」
ドリンクバーから飲み物を持ってきてくれたお姉ちゃんがわたしの目の前にグラスをひとつ置いた
そうだ…確かあの後消防団の人の話を聞いて、家だったところの前で紺色の制服の人たちとお姉ちゃんが軽く話して
そのまんまこのファミレスに連れてこられたんだった…。
「これからどうしよう…元のわたしが帰ってきた時にはもうお母さん居なくて…
家も燃えちゃってて…」
「…大丈夫、こっちはお父さんもいないし、こういうことはある程度覚悟はしてるはずだから」
「でもっ!」
「まあ今回に関してはデカめだったけど、多分ね、こういうことここから増える」
涙が止まらなくて声を荒らげたわたしにお姉ちゃんはピシャリと言った。
「これは予想だけど、ここまでデカイことやらかしてきてるんだから、ここからはもうこの地区もそこまで安全って訳ではなくなるよ」
「なんでっ?!なんでこんな事?なんでわたし達なのっ?!」
「巻き込むつもりもなかったし、あっちの琴葉がサクッと終わらせてくれるの想定して黙ってるつもりだったんだけどね」
一瞬だけお姉ちゃんは黙り込んで、わたしの前では珍しくタバコを取りだして火をつけた
「アンタがこの地区に潜伏してる反議会派のリーダー格の一人だからよ」
ありえないことを言われて目の前がクラっとした
お母さんが亡くなって、家が燃えて、もう現実からとっくにかけはなれていたわたしの頭の中が、その一言で真っ白を通り越して透明になった。
「は…え?」
「まあ他人に迷惑かけたくない、巻き込みたくないって事で群れてはなかったけど」
「待って…でもここは!議会派地区でお母さんも議会派で!」
「だから私とアンタは二人で黙って潜伏してたってわけ」
「わたしが悪い人ってわけわかんないよっ!!」
「悪い人…まあ確かに人殺してりゃあそういう判断になるかもしれないけど
なんて言うか二極化で判断できないのよね」
「なに…それ」
「まずね元のアンタの目的としては議会になる事、その為に力をつける必要があった
その為には属性強化しないといけなかったけど決して議会派ってだけで手を下したりもしてなかった」
タバコの煙をスパーっと吐き出してお姉ちゃんは淡々と続けた 。
「アンタの対象はやたらに属性を振り回して殺人や犯罪を繰り返す奴ら
議会派とか反議会派とか関係ない
そういう類の反議会派のやつは少なくは無いけどアンタもそういうタイプだった」
「…それでどうしてリーダー格なの?そんな両方攻撃してたら…どっちからも狙われるよ…」
「それがそうでもない、キチンとした信条の元動いてるってのが反議会派にも議会派にも伝わってこの地区での抑止力になった
しかも圧倒的に力をつけていってるんだからアンタに表立って意義を唱えるやつも少なかった
それで紛れ込んでる反議会派はアンタに感化されて各々団結したりして着々とこの街で勢力を広げてるのを議会派はそれをよく思ってない
つまりは…あー…アンタの世界の話的に言うとヒーローってことかな?」
「…それでわたしはどうなったの?」
「知らない、滅多に私に助けを求めることもなかったし、ほとんど1人で色んなとこ駆け回ってたからね」
「なんでそんなわたしが急にわたしと入れ替わろうなんて思ったの?」
「それも聞いてない、ただアンタが入れ替わるから守ってあげてとしか言われてない」
「そんなの勝手すぎるよ!」
「ソレ、本当にソレ、マジでそれに関しては怒っていい」
ついつい声を荒らげたわたしにお姉ちゃんは宥めるでもなくわたしと同じように同調した。
「まあけど今回ウチが燃やされたって事は議会派がアンタの排除に動き出したってわけよ
素性がどこでバレたかはしんないけど…
って言うよりこのタイミングで狙われるってのもおかしいんだよね…
誰かに別世界線から来たとか言った?」
「言ってない…」
「学校では?」
「前話した通り」
「まあそれだけじゃ判断材料に欠けるし違うかぁ…」
お母さんが亡くなって、家が燃えて僅か数時間なのにお姉ちゃんはいつも通り飄々としていて
けどわたしはもう色んなことでぐちゃくちゃで整理が上手くできなくて。
「まあアンタが叩かれたって事はもう議会派は確実に動き始めるし、多分反議会派にもその情報は行ってるから報復なりなんなりで動くだろうね」
「そうなっちゃうと…?」
いや、もう分かってる
この世界のこと、さっき起こったこと、けど《《そんな事》》起こるなんて信じたくない。
「戦争だね」
でもお姉ちゃんはオブラートとかそんなの気にしないでそのまんまの現実をわたしにくれた。
「この地区の長らくの平和も終わり、多分これからもっと危険なことがバンバン起こる
最初話した時の危険より数倍デカイ危険が常に付きまとう」
どうしようもできない、逃げたい、帰りたい
けどどこに?
「今この場で急に襲われる可能性だってある
私すら明日には死ぬかもしんない」
「や…やだ…やだよ…?」
淡々と突きつけられていく話に心が痛くなって涙が溢れてくる
もうこれ以上は周りの誰かに居なくなって欲しくない。
「まあそうならないように動くし、アンタの事はキチンと守る
けど覚悟と準備だけはしておきなね」
「お姉ちゃんが居なくなるなんてそんな覚悟したくないよっ!」
「まあそれもして欲しいんだけど、そうじゃなくてさ
これから覚悟決めるのは昨日までの平和はもう無いってこと」
今日でもうイヤってほど心に大きなトゲがたくさん突き刺さってるのに
これ以上がある、それを覚悟しとかないといけないなんて…。
「帰りたいよ…お姉ちゃん」
「……ゴメンな、帰ってきたらさすがにボコボコにしとくから
それまでは耐えて生きてほしい」
■■■■
ファミレスから出てお姉ちゃんの車の中
カーナビのテレビをぼんやり眺めながらこれからのことについてようやく考えれるようになっていた
わたしも戦うのかな?これからどこで暮らすんだろう?お姉ちゃんは大丈夫かな?
浮かんでくるのは疑問だけで、答えなんて全く出てこなかった
「とりあえず家、警備団が宿舎用意するってことだったけど適当にはぐらかしてるしそこには絶対行かない
行ったらなにされるかわかんないし」
「じゃあ今どこ向かってるの?」
「友達んとこ」
「大丈夫なの?その…戦いとか襲われたりとか…」
「無い、向こうももちろん反議会派だし付き合いも長い、あと強い
あー…あと学校ね、さすがに諦めてよね」
「それは…分かってる…」
車の中で揺られて大体20分くらい経った頃
目的地に着いたみたいでエンジンが止まった
「…ここ?」
「うぃ。ここ」
私の家よりかなり広くて大きな和風のおうちの門の前で車を止めて、お姉ちゃんはスマホを取りだした
しばらくすると門が自動で開いてお姉ちゃんはそのまま車で中に進んでいく。
「とりあえずここまで来たら一安心、尾行もなかったし」
「ここ普通のおうちだよね?」
「そうだけど?なに?その微妙な顔」
「いやだって…反議会派の隠れ家的なとこだと思ってたから…」
「いやいや、議会派地区でそんなデカデカとそんな建物建てれるわけないでしょうが」
「でもそれにしてもここかなりお金持ちの家って感じで…想像と違うって言うか…」
「木を隠すには森の中って言葉そっちにはなかったの?」
「あったけど…」
「どんな想像してたかしんないけどさ…割かし反議会派って言っても潜伏勢はこんな感じよ、普通に暮らして普通の家に住んでる」
車の中でそんな会話をしていたら車の窓がコンコンとノックされた
中から誰か迎えに来てくれたみたいで
「ギリギリ今日かぁ!あちゃー…ならまた明日じゃなくてまた今夜…って言っとくべきだったー!」
「あっ…えっ?!」
窓をノックしていたのは同じクラスの山峰さん
予想外すぎた再会にわたしの頭が今日何度目かわかんないけど止まった。
「あ!琴乃の姉さんもお久しぶりでごぜぇますねぇ…いやはやちょっと見ない間に大きくなって…」
「親戚のおばさんみたいなのやめな、しかもこの前会ったでしょうが」
「まぁそんな化石時代の話は置いときまして…
ウチの姉ちゃんが飯作って待ってるからさっさと入ってちょ」
「はいはい…。ほら、行くよ」
「ほらほらことこと!この美しすぎた反議会派…エリちゃんと美味しいご飯食べて積もる話でもしよーぜー」
「積もる話?」
「そりゃあ決まってんじゃん!学校では話せないような…あんな事とかぁこんな事とかぁ…あと恋バナ」
「ウチの妹までバカ移るから最低でも3mは離れてよね」
「ひっどい!!バカだったらここまでピンピン生きて来れないですぅー!」
「そりゃあアンタんとこの姉貴のおかげでしょうが」
「それはそう、一理しかない
ってかことこと早く来なよー!すっごい大きい唐揚げ一個だけ作ったから見て欲しい!」
2人に促されるままにわたしは車から降りて、まだ状況も掴めないままわたしはお姉ちゃんの友達のおうちにお邪魔することになった