六里 誠:1
イカれた女が次のターゲットを無茶苦茶にして、気色の悪い快楽に浸っているあいだ、私は1人外で本を読んでいる。
銀河鉄道の夜、私が一番最初に読んで今も体の一部のように持ち歩いているお気に入りの本。
どこが好き? とか何が好きなの? とかそんなのどうでもいい。
私はその質問をされる度に、その人たちにこう質問しかえしている。
「貴方は自分の心臓のどこが好き?」
大抵は黙る、私を変わった人間だと言って離れていく
それでもいい、わかりきった結末を繰り返す人たちを見ていても何も面白くないから。
それなら私は本を読んで暮らしていたい、目の前にその光景が広がらないことは少しもどかしいけど、頭の中で想像にふければそんなに大きな問題ではない。
ずっと繰り返しの毎日が変わる、そんな予感がしたのは昨日の夜。
私の属性は『第六感』
お守りの形をした武器と、ただ人より少し感が良くなるだけのそんな能力
挙句発動タイミングすら自分で操作できない。
ふとここ危ないなとか、今日はちょっとだけ家を遅れて出ていった方がいいなとか
本当にそれだけの能力。
けどそう思った時は必ず当たる、勘の赴くままに行動して損をしたことは今まで1度もない。
そんな私が感じた繰り返しの毎日が終わると言う予感は警備署の爆発が合図になった。
人生で1番胸が高鳴ったかもしれない、その初めて見る光景に、初めて聞く音に、本でしか見た事のない表現に。
逃げ惑う人々、廃墟みたいに静まり返った街並、遠くから上がる白煙、文字でしか見ていなかった世界が五感全てに訴えかけてくる
私が登場人物になったみたいなこの非日常感がたまらなく脳に訴えかけてきた。
『図書館に行けばきっといいことが起こる』
パッと浮かんできたこの言葉、確か図書館は緊急避難所だったはず
それに私の職場でもある。
そこに行けば今以上のものが見れるの?
今以上にワクワクできるの? 今以上に初めてを味わえるの?
だから私はこの女を図書館に引き入れた。
結果、起こったのは大量虐殺、イカれた殺人鬼が無差別に人を殺して回るだけのB級スプラッタ小説のありがちな展開。
それにこの女は地区長の娘、意外な人物が凶行に走るっていうのもあまりにも安直。
確かに初めてのものは見れたけど、あの夜の爆発よりは胸が高鳴ることはなかった
むしろ予想しきっていた展開であまり面白くない。
でも私は気になってしまった、この女の末路が、この女がどうやって死ぬのかが。
イカれた殺人鬼の最期は大体悲惨な死を迎えるか人の心を取り戻し後悔して死ぬか死なずにどこかへ去り同じことを繰り返すか
ならこの女は?
結末はどうなるの?
武器を大量に食わせたけれど、私の感はそれに関しては働くことはなかった。
だから私はこの女と行動を共にすることにした
どんな結末が待っているか少し気になったから。
■■■■
そういえばシュウはなにしてるんだろ、最後は酷く怯えてたけど。
でもあの子は怯えながらもいつもなんとかしてそれなりの成果を出してくるから面白い。
私と初めて会った時も怯えながら「その本何が面白いの?いつも読んでるよね」って
だから私はいつもみたいに「貴方は自分の心臓の何が好き?」って聞いてやった。
こんな怯えた人間がこんな質問されたらそそくさとどこかに逃げるように移動するだろうって。
けどシュウはこう言った。
「が……頑張って働いてるから」
その素っ頓狂な答えを聞いて、初めて人前で吹き出してしまったからまだ鮮明に覚えている。
まだ属性も何も付与されていない小学生の頃だけど、そこからシュウは事ある毎に私に付きまとってくるようになった
私がどれだけ本の世界に浸っていても、どれだけ人付き合いが下手でも、時には冷たく突き放しても、シュウは何故かべったりだった
言ってしまえば腐れ縁ってやつなんだろう。
『どこまでもどこまでも僕達一緒に進んで行こう』
昔の事を思い出しながら時間潰しに読んでいた本の一説が、その一瞬だけ私には光って見えた、そんな気がするとかそう言ったいつもの勘ではない 。
何かこうもっと別の、確信めいた何かが私を包み込む。
属性を強化すると能力が強くなったりできることが増えるっていうのは知っていたけど、これがそれ? けどこの一説が何になるの?
初めてのこの現象は何故かイヤに脳裏にこびりつき、いつもの嫌な予感とはまた違った不快感と虚しさを混ぜ合わせたねっとりとした粘液のようなものが脳を汚染する。
心が。凄くざわついた。
「……出ない」
こんなことは滅多にないのだけど、私は急いでシュウに電話をかけてみる
けれどシュウは出ない、もしかしてこの騒動の中で何かに巻き込まれて死んだ?
いや、違う。そうじゃない
この脳にへばりついてる予感はきっとそういうことじゃないって気がしてる。
じゃあなんなの? 初めて感じるこの予感に私の心は嫌にざわついた。
そう言えば……
私は確かシュウに電話でここに避難するように伝えている
この嫌な予感はもしかしてシュウが中に居るってこと? あの光った一節はシュウの言葉?
いや、それはもう予感の域を超えて予知になっているからきっと違う。
それに私の予感はまだシュウが死んでいないって、私に不確かな確信を持たせてくれている。
でもどうして私はさっきからシュウのことを心配しているの?
展開に脈絡も何も無いぐちゃぐちゃの文を読んだ時みたいに私の頭はこんがらがる
ただの腐れ縁のはず、それ以上もそれ以下もない
「おい、何固まってんだ?」
思考の海に沈んでいた私の意識は、イカれた女の声に引き上げられた。
■■■■
「終わったの?」
「さすがに人が多すぎるな」
所々敗れた服に、大小様々な傷
おそらく中で反撃を受けたみたいね。
「何人かは取り逃しちまったけど、図書館の時よりも最高だったなァ」
「そう、それは良かった」
この女は図書館に今の高校を経てかなりの武器を食ってきている
雪だるま式に強力になっているんだから逃げれた人はとても幸運。
「お前も武器回してやろうか?」
「いいえ、結構」
別に強化したとて私の属性はそこまで役に立たない気がしていた
それにさっきみたいに急に新しいことをされても混乱してしまうだけ
勝手に発動する属性だからこそ舵を取れないのが歯痒いところ。
「ねえ、中に銃口がやたら横に広い武器の男は居なかった?」
「んあ?んなん覚えてねえよ」
「そう」
あぁ、良かった
『シュウはまだ死んでいない』
そんな予感が私の脳裏をカメラのフラッシュが光るように広がった。
「知り合いでも来てたのかァ?」
きっと次に言おうとするのはじゃあもう死んじまってるかもなぁ?なんて挑発
イヤにニヤついている女が次の言葉を紡ごうとする前に私は言った。
「腐れ縁、知り合いなんていいもんじゃない」
「ハッ……んだよそれ」
「ご期待に添えなくて残念」
この女はどうも私の表情を崩したいみたいだけど、そんな挑発もからかいも幼少期の私が既に通ってきた道
今更それしきのことで心が揺れ動く私ではない。
「おい、次の避難所は?」
「警備署が無くなってるからもう無い」
「だったらアタシ様はどうすりゃいいんだ?」
「避難せずに家に籠ってる人でも探していけば?」
「派手にやりてぇんだよなァ」
「そう、残念」
ここから女はきっと民家へ向かって一つ一つ人がいるかを確認して凶行を繰り返していくんだろうけど、長くは続かない気がする。
それになんとなくだけどここにまだ少し残っていたほうがいい気もした。
「ねぇ、休んでいかない?」
「もう用はねぇんだし行くぞ」
私一人でもここに残ることは出来たけど、それをしてしまうとこの女の末路を見逃してしまいそうで嫌だった。
何となく本に挟んでおいた栞をブランコの上にソッと置いて私は立ち上がる。
「人がいそうな民家なんて探す宛はあるの?」
「でけぇ家見つけたら片っ端から攻め入りゃ何人かはいんだろ」
本当に行き当たりばったり、計画性もなくただ目についたものを殺すだけの化け物
その化け物の最後を見たいが為だけに狩場を教えている私も相当な化け物になりさがっているんだろうな。
根が似たもの同士な私たちは2つ目の避難所も惨劇の舞台へと変え終え、そのまま落ちる日の方向へと何かを話す訳でもなく。
お互いの欲を満たすためだけにただただ歩んで行った。




