内海 シュウ:2
「てかオマエ何が出来んの」
避難所までの道中はすごくすごくすごく暇で退屈で息苦しくて緊張していた
目の前には世紀末を擬人化して女子高生と悪魔合体させたような子がいるし、尚更心が引きちぎれそうになる。
「へっ?!」
「属性で何が出来んのかって!聞いてんだけど?!」
「ごめんなさいッ!」
合流して歩き始めてから30分、僕たちは一切会話もしていないし目も合わせていなかった。
それなのに今このタイミングで属性を聞かれるってことは、やっぱり僕は狙われてる?
無害な属性だってバレた瞬間に頭と胴体が綺麗にサヨナラさせられる?
「……ます」
「なに?はっきり喋ってくんない?」
「おっきい龍とか出ます」
「嘘こけや」
「絵とか写真を……出せます」
ここで僕は強い人間アピールをしようとしたけど、3秒で嘘がバレた
そもそも強い属性ってなって考えてもパッと頭に出てこないし、強いって言ったら龍とかになるし
それにまがいなりにもにも警備団なんだからそういう隠れた強者かもしれないぞと言うミスリードも織り交ぜたはずなのに。
3秒で僕の属性は露呈した。
「絵?」
「正確に言うと僕の頭の中で想像した絵です」
凄い気まずい、気まずすぎる沈黙。
相手の言葉を聞かなくても分かる、絶対に雑魚だと思われてる、属性ヒエラルキーの一番底の方だと思われてる。
「ま、まあ……強そーだよな」
「思ってないですよね?!」
「なんかこう、うん。心が華やかになりそう」
まさかの世紀末の擬人化に気を使われている僕
もう惨めすぎて今すぐ砂の粒になって風に吹かれて消え去りたい気分。
「でもそれって掃除とか大変そうだよな」
「あ、それは大丈夫なんですよ。シールみたいに剥せるので」
「模様替えの時とか便利そうだな」
「人の属性のこと便利な壁紙だと思ってます?」
実際のところはそう、仕事以外で僕が属性を使う時って壁紙を変えたり家具の模様を変えたりする時くらい。
一応は否定から入っておきたかったけど実際それくらいしか使い道がないから疑問形になってしまった。
「あの……差し支えなければお姉さんの属性もお伺いしても?」
「あぁ?なに?」
「ごめんなさいいきなり失礼でしたよね、分かりました一思いに怒りのまま殺してください」
「聞き取れなかっただけなんだけど」
「お姉さんの属性のことも知りたいなぁって……」
そう聞いたらピタッと立ち止まられて手にしてるフライパンを構えられた
死因がデリカシーの無さ、距離感バグってすごい嫌だけど、もう甘んじて受け入れるしかないのかな……。
遺書だけは遺書だけは守りたいから命乞いならぬ遺書乞いした方がいいかな?
「見てたか?」
ぎゅっと目をつぶった僕にかけられる言葉。
まだ生きてる? 殺されてない? おっかなびっくり目を開けてみると、あの子は角張った黒い小石を僕に差し出している。
「こういうの作れる」
「なんですか? これ」
「属性で作った燃料」
燃料? ガソリンとか石炭の? ってことは殺傷能力はないってことになるよね
なんだ、この子も僕と同じなんだ。
『ボッ』
「うわっ?!」
同類を見つけれた嬉しさで黒い小石を握る手に力が入ったその時だった。
握りしめた拳が一瞬で熱くなって、拳の隙間から僅かに炎が上がる
僕は熱さと驚きで尻もちを着きそうになったけど、グッと堪えた。
「ごめん、固形タイプのは一定以上の力加えたら燃える」
「それを! はやく! 言ってくださいよ!」
「普通属性で作られたもんなんだからちょっとは警戒しろや! お前も!」
大声に大声で返されたらもう何も言えない。
「適当な小石から作ったからまだ良かったけど、下手したら火だるまだぞ? マジで気をつけろ」
え? なんで? なんで僕が怒られてるの?
多分それそっちの説明不足が7割くらい悪いよね?
なんて僕が言えるはずもなく……。
「スイマセン……気をつけます」
■■■■
「あの……少し休憩しませんか?」
歩き始めて数十分僕の足は非常に疲れていた、軽装ならまだしも有事に備えてフルセットの防備を家でしてきたから身体が重たい。
「体力無さすぎだろ」
「お姉さんと違って僕重装備なんですよ?!」
「じゃあ脱げやそれ」
「それは身の安全のためにも断固拒否します!」
僕が安心して外に出れてるのはこの有り合わせの装備のおかげでもある。
いくら同行者に世紀末感漂う女子高生を連れていたとしてもこれだけは脱げない
脱いだ瞬間に襲われたり、流れ弾に当たる可能性が0ならば考えないこともないけど
この状況では脱いだ時点で死ぬのと一緒だ。
「というよりお姉さんが軽装すぎるんですよ!」
「やめろそのお姉さんっての」
「じゃあなんて呼べばいいんですか」
「燈でいいよ」
「燈さんが軽装すぎるんですよ」
「いや、ガチガチに固めすぎて『もう歩けない〜僕死んじゃう〜』とか言う方がだせぇだろ」
「そこまで言ってません!」
体をクネクネさせながら裏声で僕の真似をされるけど全然似てない、というより無性にイライラする。
僕はちょっと心配性なだけで決してこんなにナヨナヨした男では無い。
「怒んなって」
「怒ってないです」
いっつもそうだ、こういう人のことを虐げる人種は何かあるとこういうことを言う
お前本気にしてんの?みたいなその顔すら思い出しただけで2年は眠れなくなる。
どうせ燈さんはそんな人の気持ちが分からないし、弱者の気持ちなんて分かろうともしない悪辣な人間の1人なんだ。
「休憩させてやるから」
「ほんとですか?」
前言撤回、燈さんはちょっとは弱者の気持ちも分かろうとしてくれる、少しだけいい人なのかもしれない。
■■■■
「これってさぁ、万引きになんの?」
僕たちはちょっと歩いた先にある駄菓子屋で休憩をしていた。
「……ッ?!ゴホッ!」
万引きという言葉を聞いてスナック菓子が喉に詰まる
そうだ、お金を払っていないからこれは立派な犯罪になるのでは?
しかも警備団である僕が気を抜いてこんな小さな犯罪を犯してしまうなんて。
「自首しましょう」
「いやいや落ち着け」
きっと警備団による犯行ということで僕は通常よりも酷く罰せられる
それこそ指の一本や二本無くなるかもしれない。
「緊急事態なんだから特例とか適応されねえの」
「そうか、そうだよね! これは特例」
実の所そんな特例があるかは知らないけど、多分ある
ないと僕が大犯罪者になるから今はあるということにしよう。
「てかさ、警備団員なら避難より騒動鎮圧とかせんでいいわけ?」
「いや……僕戦えないし」
属性は使い方次第、なんて言われたけど僕の属性じゃできることは限られてる
どう使っても壁紙になる程度の役割しかない。
そんな僕が前線に出て迷惑をかけるよりかは大人しく非難していた方が身のためでもあるしみんなの為にもなる。
「なんかそういうとこイライラするよな」
「えっ?」
「だって戦ったことすらなさそうなのに
最初から戦えないから〜とかでうじうじしてるとこ」
「そ……そんなたくさん言わなくても」
いちばん辛いのは僕だ、こんな属性もたされて、いつも誰かの活躍を見てるだけで。
「ま、他人の人生とかどうでもいいけど」
「だったらそういうこと言わないで下さいよ」
傷つける意図がないのは分かっているけど、僕の心に燈さんの言葉は死ぬほど刺さる
刺されば刺さるほど昔の嫌だったことまで思い出して口の中に広がっていたスナック菓子の味すら分からなくなってきた。
「お、このお菓子好きなんだよな〜。何個か拝借していくか」
燈さんは変わらない様子で店内を物色している。
その横で僕はまた1人勝手に落ち込んでいた
さっき言われたことが、今まで言われたことが胸の辺りをぐるぐると回って吐きそうになる。
僕だって戦えるなら戦いたい、守れるなら守りたい
けどその方法を誰も教えてくれなかった じゃないか。
それに僕より使える属性の人はこの地区にごまんといる、なら僕がしゃしゃり出るよりその人たちに任せた方が安全じゃないか。
燈さんはまだ戦えるからいい、僕の立場になったらきっと僕みたいになるに決まってる。
やる気だけじゃどうにかならないことがあるんだって僕がいちばんわかっているんだ、だから身の丈にあったことしかしないようにしてるだけなんだ。
「悪ぃ、なんかヘコんでる?」
「……大丈夫です」
大丈夫じゃない、僕の胸の中では今もずっと蓋をし続けていた感情が渦巻いてる。
どうすればいいかも分からない、名前すらも知らないこの重たくドロドロした感情が。
「ま、言い過ぎたわ、悪かったな」
「慣れてるんで大丈夫です」
「そ?ならいいか、それじゃ結構休憩もしたしボチボチ出発するぞ」
ありったけのお菓子をビニール袋に詰め込んだ燈さんの後ろ姿を見つめながら、僕もすぐに後を追った。
まだ心は痛くて重いけど、大丈夫だ
だってこれが初めてじゃないんだから。
きっとまた数十分もすれば僕はこの感情に上手く蓋ができて、いつも通りの僕に戻れる。
だから今は何も気にしないように、何にも触れないように、ただまっすぐ燈さんの後を追って避難所を目指せばいいだけだ。




