表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/34

紅泉 ルチア:2

 あぁ。気持ちいい

 なんて爽快なんだろう

 お前達はアタシを何度絶頂(きもちよ)くさせてくれるんだ?


 痛みの恍惚からふと意識を戻したらそこはもう既に死体の山。


 時計を見るとまだアタシがここへ来てから三十分しか経っていない、こんなに人がいるってのに誰一人1時間も持たないなんてとんでもない役たたず共。


 この部屋の内部は巨大な生き物の体内のように神経が張り巡らされ、痛みを感じる度に叫ぶように脈打つ

 そしてその痛みはダイレクトにアタシに伝わってきた。


 それなのに生きている人間が居なくなったらアタシに痛みが伝わらない

 アタシはもう気持ちよくなれない。


「戻れ」


 その一言あとにアタシの属性で部屋に敷きつめられていた神経達はシュルシュルと蛇が巣穴に戻るかのように武器に回収される。


 まだ全然楽しみ足りない、ならば次の避難所に向かえばいい。


 こんな小さな図書館より次行く学校の方が人が多く収容されているに決まっている

 そんなとこでアタシの属性をぶっぱなしたらそれはきっと夢のような鮮烈で鮮明な痛みと地獄がアタシを包んでくれるはずだ。


「終わった?」


 アイツが帰ってきた、アタシに場所を与えたあの女が。


「見たらわかるだろ?最高だったよ」


 この惨状にドン引いたのか、それとも元々こう言う表情なのか、アタシの見立てではおそらく後者。


「なら次は男子高」


 切りそろえられた前髪に首筋まであるストレートのオリーブ色の髪の毛

 スラッとした体型に目立つなんて概念を捨てた地味な色合いでまとめたカーディガンとロングスカート。


 明らかにアタシとは正反対の頭をしてそうな雰囲気なのに頭の中はアタシとは別ベクトルで狂った女


「議会派がこんなことしてていいのかァ?」


「地区長の娘のくせに」


 少し表情を崩してやりたくなって嫌味をなげかけては見るが、想像通り無反応。


「道案内しろや、アタシ様のために」


「意外、最後に殺されるかと」


「バカが、そこまでイカれてねえよ」


 アタシをこの図書館に招き入れたのはこの女。

 

 家からアタシが飛び出したあと、とにかくこの属性を使いたくて人が集まってそうな場所を探してたどり着いたのが図書館だった。


 けどアタシが着いた頃には『満員』と走り書きのされた張り紙がドアの内側に貼り付けられ、ドア自体が厳重に施錠されている。


 べつにドアかち割って強引に侵入するのでも良かったが、それで騒ぎが起きて何人かに逃げられるのは勿体ない。


 感じる痛みは最大限でないと満足ができない。


 そんな時にドアを開けたのがこの女だった。


 アタシの手には大きな傷、服は泥と土と血塗れ

 恐らくアタシを見て重症の人間だと思ったのかもしれない。


 そんな優しさが今からアタシの自慰で食い荒らされるのはさぞ絶望的だろうな、アタシを招き入れたことを死ぬほど後悔してる顔を想像するだけで震える。


 なんなら後ろ向いた瞬間に滅多刺しにしてやるか? 最初は死なないように肩や掌から攻めたら面白そうだ。


 けど中に入った時にアタシに投げかけられたのは心配でも労る言葉でもなかった。

「350人は居る」とそれだけ伝えられる。


「あァ?」


「それに寝てる人が多い」


「何が言いてェんだ?」


「そのままの意味」


 アタシからしてもコイツは不気味だった、表情の変わらない顔、ただの一度も合わせようとしてこない視線、アタシを見透かしてるかのような言動。


「それじゃ、楽しんで」


 女はそうとだけ言うと、避難所の奥の扉を開いて奥へと誘い、一人で手をこまねいていた。


 ■■■■


 粗方の武器は強化に使い切った、アタシの武器に死んだやつの武器を当てるとその武器は食われたみたいに姿を消す。


 時たま武器じゃないものを武器と誤認してしまったり、何が武器か分からなかったが、まあここまで食えりゃあ上々。


「おいイカレポンチ、お前も食うか?」


「そう? ならお言葉に甘える」


 こんな死体の山の中で一人カウンターの奥に座りながら悠長に本を読んでいる女にもいくつか武器を渡してやった。


 ざっと数えても300人分の武器、これら全て属性強化に使えるなんて最高だ、アタシは益々痛みを感じれるようになるってことか?


「ていうかオマエ、アタシ様がしようとしてたこと最初から気づいてたろ」


「……だったら?」


 本をパタンと閉じた女は相変わらずの冷たい視線でアタシを射抜くように見つめる。


「コイツら全員殺しちまったけど」


「そう」


「なんとも思わねえのかよ」


「ここでしか見れなかった表現を間近で見れて満足」


 ここ、と言うと女はアタシに見えるように閉じられた本を持ち上げて、指で2回表紙をタンタンと小突いた。


「なんでアタシ様がしようとしてることに気がついたんだよ」


「勘」


 とだけ言うと、女の視線はまた開かれた本に戻っていく。


「名前教えろ」


「銀河鉄道の夜」


「本のじゃなくてオマエの」

 

「六里 誠」


 本から視線を一切アタシに移さず六里は機械のように淡々と聞かれたことだけを答える。


 アタシが見た人間、接した人間の中で始めてみるタイプ

 いや、そもそももうこれは人間なのか?


 こんだけ人が死んでても、アタシが目の前にいても悠長に読書なんてしてられる女は人間として何かが欠けてるのではないか?


 でもそれはアタシが言えたことじゃねえ。


 アタシだって痛みを感じたくて、ただ欲望のままに生きるために家から飛び出してきたんだ。


 だったら六里とアタシはもしかするとどっか似てるのかもしんねえ。


「これ。何の時間?」


 一向に図書館から動こうとしないアタシに対して六里はケツに火を点けようとしてくる。


「休憩、あとは見落とした武器がねえか再チェック」


「意外とマメ」


 ■■■■


 あれから一時間後、大体日付が変わったくらいにアタシと六里は図書館を出て男子校へと向かった。


 話によると1時間は歩かなきゃいかねえらしい。


「……反議会派では無い」


 いきなりそんなことを言われるとは思ってもいなかった

 道中暇だし何か話でもなんて考えてた最中に聞こうとしていたことを答えられるなんて。


「心でも読んだんか?」

 

「勘がいいだけ」


 正直アタシはこの歳になるまでまともな同年代の人間と二人で行動なんてことがなかった

 学校には通っていたが、それも家からつけられた警備団の人間付き

 放課後なんてなかったし、警備団がいる手前アタシに近寄ろうとする人間もいない。


「いくつだよ」


「21」

 

「アタシ様より歳上なんだな」


「そう」


「聞けよ、こういう時って聞き返すもんじゃねえの」


「いくつ?」


「19」


「そうなの」


 会話が全く弾まねえ、何聞いても何聞かれてもお互い話を上手くキャッチボールすることが出来ねえ。


「友達とか居んのか?」


「人並みには」


「付き合ってるやつとかは?」


「居ない」


「幼なじみとかは?」


「居る」


「アタシ様から会話振ってんだからもう少し弾ませろや」


「お話を楽しみたいなら私を連れてきたのは間違い」


 アタシは別に会話を楽しみたいわけではない、あくまで同行人に気を使って会話を振っているだけだ。


 なのにコイツはそれを根本からエグるように殴ってくる。


「なんでアタシ様に協力してるんだオマエ」


「劇的なものが見れそうだから」


 あぁ、多分こいつもアタシと根っこは同じタイプか

 コイツもラッパを聞いて自由になれた人間の1人か。


「似てるな」


「似てない、人を殺したいとは思ってない」


 コイツとはいい関係を築けそうだと差し伸べた手はパチンと弾かれた 。


 まあそれでもいい、アタシみたいなやつが居るってだけでアタシにとっての外の世界はより面白く感じられる。


「まだつかねえの?」


「もう見えてはきてる」


 指さされた先にある小さなシルエット。


 そこがアタシにとっての次の襲撃場所。


 図書館よりも人数が多い、それにアタシの属性も図書館で暴れた時よりも強くなっている。


 となると感じられる痛みは更に倍増してるだろうし、もっと新しいことが出来るかもしれない。


 そう考えるだけで口の中にヨダレが溜まっていくのが分かる。


「走るか?」


「それは嫌」

 

 いても立っても居られない、アタシは衝動のままに走り抜けたいのに、六里はそれを良しとはしない、置いていってもいいがこいつの案内が必要になるかもしれないし、何よりこいつは少し面白い。


 だからコイツはアタシのそばに置いてやっても問題は無い

 それに六里は殺すよりも傍に置いてた方が面白い顔を見せてくれそうな気がする。


 建物のシルエットが近づいて大きくなる度、アタシの胸は酷く弾む、悲鳴と痛みを想像するだけで夢を見ているような気分になれる。


「楽しみだな」


「……そうね」


 好き放題にできる、アタシにとっての鳥かごだった世界が今はアタシが好きかってできる箱庭になった。


 自由という言葉を心の中で抱きしめるアタシの歩みは次の場所へ向けて少しだけ早くなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ