久留間 耕助:4
『パンッ』
相手に向けていた俺の銃は引き金を引いてもいないのに勝手に発砲した。
けれど、やはり俺の目で見るには相手には当たってはねぇ
相変わらず相手は小刻みに左右移動を繰り返して俺に詰め寄ってきている。
「次ぃ……頭狙うからなぁ」
いつもならこのタイミングで回避して相手と距離をとるが、今回俺は足の指ひとつ動かさずその場で相手が来るのを待った。
なのに俺の体には傷一つすら付いていない。
むしろ詰め寄ってきた相手がおもむろに膝をついた
そして数秒の後その太ももにじんわりと赤い穴を伴った血のシミが広がる。
「やっぱりなぁ」
余裕綽々でそう言ってはみたものの、今回は賭けだった
背中には一筋の冷たい汗が流れて脈拍も僅かに上がっている。
俺もやっぱり一人間ってことだなぁ、なんてどうでもいいことが頭が過ぎった。
「おい、とりあえず属性解け」
膝を着いた相手の頭に銃を向ける、おそらくこの角度なら相手が何をしようとしてきても体のどこかしらには当たる
抵抗しようとした時点で終わりだ。
『カチッ』
こいつもそれが分からないほど馬鹿じゃないらしい
聞き覚えのあるスイッチのようなものを押す音が正門前に響く。
「いってーんだよ!!!ボケ!!」
「いや、俺のが重症ね」
寡黙な相手だと思っていたが、第一声はまるでただの学生。
ツンケンした反抗期の男子高校生というテンプレートがあるならそれ通りの声色。
「死ぬことは無いから、その傷じゃ」
ようやくひと段落着いたなぁなんて思いながら俺は自分の血で汚れたタバコの箱から1本取りだして口元に持っていく。
死ぬ前の一服とかではない、タバコには血管を収縮させる作用があるなんて佐田が言ってたのを思い出したからだ。
つまりこれは生きるための止血の一服。
「死体は?」
「校門から仲間に渡したからねーよ」
コイツは顔すら合わせようとしてくれない、それに目出し帽だからどんな表情してっかも分かんねぇはずなのに、何となく俺にはマスク越しの表情が分かった。
「今めっちゃ悔しいっしょ?」
「はぁ?!」
恐らくはめちゃくちゃ悔しがっている、自分の属性が打ち負けないと過信していたやつは大体そうだ。
「まあその属性確かに初見殺しすぎるもんなぁ」
「……チッ」
「ま、形勢逆転ってことで」
吸い終わったタバコを足で揉み消す。
面倒くせぇけどここからは仕事の時間だ。
「答えたら殺しはしねぇでやるよ」
「あ?んなもん誰が信じるかよ」
「ちなみに今答えねぇと、オレのイカれた拷問好きの後輩が来た時に引き渡す」
時間的にそろそろ佐田が来る
拷問好きってのはちょっと盛っちまったけど後はあらかた事実。
「多分毛穴の1本1本にハリを刺された上で殺されちまうだろうな」
「……」
おぉ、睨んでる睨んでる
5秒で考えた大嘘だってのに、単純だねぇ。
「今答えるなら治療もしてやるし、拘留の処置だけで済ます」
「……に」
「ん??」
「なに……答えりゃいいんだよ」
慣れてない子供なんでこんなもんよなぁ
ま、そっちのが俺は楽だからいいんだけど。
■■■■
「名前は喜々津奏君ね」
窮鼠なんとかが無いよう、相手の身体だけ拘束させてもらった上で俺は聴取に入った。
まあ俺のこの怪我の具合から悠長に話聞いてる時間なんて全くないわけだけど。
「仲間は何人?」
「あー……4」
「名前は?」
「祭木、間原、漆」
「属性は?」
「んなもん詳細なんてわっかんねえよ」
やっぱり間原も仲間かぁ、けど漆ってのは聞いた事ねぇな……
こいつら取りまとめてんのはソイツか?
「頭は?」
「漆」
「どんな属性かわかる範囲で話せる?」
「爆弾にすんだよ、切ったヤツを」
警備署の爆発はそれでやられたってわけね
というより今回のこの学校もおおよそ漆とか言うのが絡んでんだろうな。
「他に何となく属性分かるやつは?」
「間原」
「あい、どうぞ。」
「人型のもん動かしたり喋ったりする」
校内での人体模型、おそらくこれが間原の属性か
んじゃもう4人中2人は死んでるわけだしひとりは今こうやって俺に捕まっちまってる
漆とか言うのしょっぴいたらこの騒動も終わりだな。
「どういう計画で何したか知ってる範囲で話して貰える?」
「……クソが」
苦々しい表情でポツポツとしか話してくれなかったけど、情報まとめると割と単純ながら上手く属性を使った犯行だった。
まず、警備署の爆破は間原と漆の犯行、間原の属性で人形に爆弾持たせて、警備署に情報提供のテイで潜り込んで人が集まったところをボカン。
今回の学校に関しては祭木のほぼ単独計画、と言うより城之崎・秋津に関してもほぼ祭木の計画って訳らしい。
「んじゃあ立案とかは全部祭木がやってたんだ?」
「そうだよ、頭回んのアイツしか居ねぇし」
ブレイン役落ちてるってことはますますこの騒動の収拾が楽になるな。
「間原死んじゃってることは?心当たりとかは?」
「ねーよ!俺も迎えに行くぞって言われて来たら死んでんだから焦ったよ!」
話聞く限りだと喜々津君は相当な末端ってことになるか? それかグループ内が祭木の独壇場になって連携きちんと取れてないか。
まあこれ以上聴取しても有用な情報は出てこねぇだろうし、そろそろ俺もクラクラしてきた。
佐田が来るまで俺もちょっとだけ休憩させてもらうかぁ。
■■■■
「このっ!反社会派のゴミクズがっ!!」
「はいはい、未成年なんだからそんな手荒にすんなっての」
佐田到着。
予想してた通りブチ切れた状態で拘束されている喜々津君を何度も殴りつける
傍から見りゃどっちが悪者か分かんねえっての。
「いいや! ここで分からせておくべきであります! 自分の到着が遅かったら先輩だって死んでたでありますよ!」
「まー……生きてるし」
「そういうとこが甘いでありますよ!」
「てか時間制限あるんだから、そう言うの全部終わってからにしてくれねえかな」
俺の体にあった無数の傷は最初から無かったかのように綺麗さっぱり消えている。
けどこれはあくまで時間制限付き、1時間もすればまた元通り。
「あとコイツからまだちょーっと話聞きてえし、関所に連行な、車ん中汚れんのやだしこれも治して」
「コイツは反議会派――――」
「いいから早く」
「っ!」
忌々しそうに喜々津君を睨みつけながらも佐田は喜々津君の太ももの傷も消す
どんなに頭に血昇ってても最後には命令は聞いちまうってのが佐田のいいとこでもあり悲しいとこでもあるよなぁ。
「んじゃあ、とりあえず車行こっか」
「ホントに殺さねぇとか……バカ?」
「口の利き方に気をつけろ?」
今にも殴りかかりそうな佐田と悪態しかつかない喜々津君の間に入りながら、俺は2人を車まで連行して行くことにした。
■■■■
「てか、おっさんなんで俺の属性わかったの」
「ん?場数」
いつもなら俺が運転席、佐田は後部座席の決まった配置、けど今回は佐田と喜々津君隣り合わせたら面倒くさいことになりそうだから佐田を運転席に置いた。
暫くはめちゃくちゃ気まずい雰囲気で車内の雰囲気は最悪、俺にとっちゃ静かでよかったけど、それに耐えかねれなくなったのか喜々津君が口を開いた。
「ああいうのは種割れたら終わりな」
おそらく喜々津君の属性は相手に情報遅延を起こさせる能力。
だから俺がどれだけ相手に合わせて避けても攻撃は当たるし、備品倉庫では触れることすら出来なかったって訳。
「……んで、なんでバレたんだよ」
「撃った時の動き」
頭の中で点と点が繋がったのは俺が立っている喜々津君相手に発砲した時
その時だけこちらに向かってきてる喜々津君が進路を変えた、それでなんとなくの仮説が立った。
「だとしても俺に弾当てるとかどうやったんだよ……」
「そりゃあ俺も属性使ったから」
仮説が立った後に俺が銃に命じたのは『相手が俺の事を刺す瞬間に撃て』これならいくら俺に情報遅延が起こってても銃は命令通りに撃ってくれる。
まあだいぶ駆けだったのは黙っとくけど。
「関所行ったら俺死ぬの」
「そりゃあもう全ての罰を身体で受けた上で――――」
「佐田うるせぇ、死にゃあしないんじゃね?」
「拷問してもさっき以上のは出てこねぇからな」
「それも面倒だからしねぇ」
ようやく相手の心が溶けてきたのか、ツンケンした態度から微かな煙のように恐れが薫る。
「俺。どうなんだよ、じゃあ」
「とりあえずこの騒動終わるまでは俺らで監視、漆との交渉材料にも使えそうだし」
だったら文句ねえよな?と最後に付け足して、なにか言いたそうな佐田に先手を打つ。
「漆だけじゃ……はぁ」
深いため息、漆ってのは信用はされてねぇみたいだな、さっきの話と今の感じを見るに。
「とりあえず自分は関所から緊急手当の道具持ってくるでありますから、先輩と貴様は大人しくしてろであります」
「色々混ざってんぞ、あと俺はいつも大人しい」
見えてきた関所、時間はまだ全然余裕があるみたいで傷口は元に戻ってない。
佐田と俺だけじゃ不安だけど、どうせまだ愛ちんも残ってんだろうし、佐田が反議会派アレルギーで万が一暴走しかけてもなんとかなんだろ。
「中でなんか飲む?」
「ジュース出てくる尋問なんて聞いたことねえよ」
「コーヒーしかないけど」
「じゃあ聞くなよ」
警備署だとカメラもあるし仕事してますよ感を出してたけど、正直これくらいのびのび緩くやれるくらいが俺にはちょうどいい。
あとは何聞いとくかな、もっかい正門で聞いた事聞いて話ブレてないかだけ確認取った方がいいか?
兎にも角にもさっきよりは忙しくなる、ホント……面倒くせぇなぁ……




