桜庭 琴葉:3
はじめての登校日、私はお姉ちゃんの車の中でゆらゆら揺られていた
正直とってもとっても不安、学校に行かない方がいいんじゃないかな…なんて何度も思った
けどよくよく考えてみたら、もし向こうのわたしが帰って来た時不登校だと多分困っちゃうと思う。
わたしがわたしならきっとそういう事になると嫌だと思うから。
「ねぇ、ほんと大丈夫?」
「大丈夫…だよ!属性武器だって持ったし!属性だってちょっとは使い方分かってるから!」
あの入学式の日から3日、わたしはお姉ちゃんが教えてくれる通りにある程度属性の使い方を理解して、それなりに使えるようになった
正直炎とか氷とかちょっとかっこいいのを想像してたけど、それとは全然違っていて、とっても便利な炎も氷も出ないものだった。
「危ないことがあったり巻き込まれそうになったらどうすんだっけ?」
「自分の「移転」で遠くに逃げる!だよね?」
わたしの属性は「移転」
玩具の光線銃みたいな属性武器で何かを撃つとその打った物がピンク色のモヤモヤで縁取りされる
もう1回別の場所に撃つとその場所に最初に撃った物を移動させるっていう使い方が出来るみたい。
「学校だってこの力があればすぐに行けるから送り迎えは大丈夫だよ?」
「いやいや、街中で自分撃ち抜いては数メートルテレポートしてとか目立つでしょうが
そっから属性推測されて襲われたらどうすんの
しかもめちゃくちゃ目立つし」
わたしの属性の基本的な使い方は物のテレポート
けど銃口を自分に向けて撃つと自分のこともテレポートさせることが出来るって言うのはお姉ちゃんと確認済
移動させれる射程はだいたい5メートルくらいで冷蔵庫より重たいものは対象に選択できないってことまではこの3日間でわかった。
「でもテレポートなんてすっごくレアだと思うよ?
空間移動は強いよ!って漫画で見たことあるもん」
「なんも知らないくせに過信すんじゃないわよ
こっちはねそのレベルがバカスカ居んのよ」
「例えば?」
「怪我するじゃん?もうなんか手とかちぎれかけだとするじゃん?
もうね、血もドバドバ」
「うわぁ…やだよ…それ…」
「でも属性使えばそれが元通り、しーかもその傷そのまんま相手に移すことが出来る」
「じゃあ怪我すればするほど強いってこと?」
「そゆこと」
「でもそんな強すぎる属性の人なんているの?そんな人居たら世界が大変なことになっちゃうよ?」
「ん?それが私。あと世界は既に大変なことになってんの」
「お姉ちゃんの属性ってなんなの…なんかちょっと怖いよ」
「んー?『移管』管理を移し替えるだけの力」
私が移転でお姉ちゃんは移管…お母さんは移動だって言ってたし…
もしかしてわたしの家は物事を動かしたりするのが得意なのかな?
「うぃ…じゃあ学校ついたから、終わる頃に迎えに来るわ」
「ありがとお姉ちゃん!」
車のドアを開けて、初めて家以外の建物に向かって歩いて行く
大きくてキラキラしてて校門から見える噴水がとっても素敵な私が夢にまで見た学校、[桜桃女学院]
それなのになんだかちょっと足が重くて嫌なドキドキを感じちゃってる
散々危険だ危険だって聞かされてたこの世界だけどいつもは横に知ってるお姉ちゃんが居たからなんとかなってたんだなって今体感しちゃってるのが分かる。
バッグに忍ばせた属性武器をギュッと握りしめながら私はゆっくりと校門を通り抜けた
■■■■
「ねえ!まだ病み上がりなんだからさぁ!囲むのやめなって!」
「あっ…あのっ…もう元気なんで大丈夫です…」
学校に入ってからそのまま職員室に入って、そこに居た男の先生がそのまま私を教室に連れてきてくれた
腰に筆をさしてる優しそうな人だった。
ドアを開けた先生の後をついて行った私を待っていたのはお姉ちゃんに聞いていた危険な世界とは程遠い普通の学校で
私は初登校ってことで熱烈な歓迎を受けてる最中だった
「てか雰囲気変わったよね?なんか一匹狼みたいな感じだったのにさぁ」
「わかる!中学の時とは大違いで今なんかチワワって感じだよね!」
恐らく前のわたしを知っている人達から話しかけられるけど、どうもこの世界のわたしはとっても強い女だったらしくて…
「え?てか最年少で属性付与でしょ??なんなの〜?」
「ちょっと!やめなって!そんなズケズケさぁ!」
「別にい〜じゃん!同じ志を持つウチらは同士…なんだからさ
それともなに?委員長はこの中に反議会派がいるとでも思ってんの〜
かぁっ!!悲しい、ウチは大泣きだよ」
「プライベートな話だからやめなさいって言ってんの!」
「あ…あはは…大丈夫…だよ?」
この学校に来てわかったことが2つある
1つ目は知ってる人が全く居ないってこと、元の世界の友達とか知り合いは誰一人このクラスにいなかった
多分地区ごとで色々別れてるって話だったから隣町の友達とかはきっとこっちの地区の学校には来てないのかな…って
2つ目は知らない学校が近くにもう一つあるってこと、ここは女子校だから男の子は通えなくて、この地区の男の子が通う男子校も近くにあるみたい。
「あ。ウチは山峰エリね?多分中学はもう一個の方行ってたからわかんないよね?
はいっ!じゃあ次委員長ね!」
「勝手にバトン渡さないでよ、私は城之崎ほとりね、クラス委員長だから困ったことがあったらなんでも聞いて?
例えば山峰さんがしつこいとかデリカシーが無いとか、なんでもいいわ。
病み上がりだろうし無理はしないでね?」
短髪で八重歯があってとにかく元気なのが山峰さんで、頭にお団子がふたつ着いている背の高い人が城之崎さんって言うらしい
2人ともなんだか凄く気を使ってくれているみたいで沢山話しかけてくれている。
「あの…2人はこの地区の人なの?」
「えっ?何聞いてんのさ!モチロンそれ以外無いでしょ!他の地区なんて怖くていけないってばぁ!」
「えへへ…だよね?高校だからさ他の地区から来てる子とかもいるのかなぁ…なんて」
「地区分断化が進む前はあったみたいだけど…今は他の地区から登校なんてほとんど無いわね
関所通らないといけないし、よっぽどの理由がない限りは」
「そうそう、他の地区行こうとか思わねーよなー、比較的ここ治安良いし、それに大体はここで完結するし」
「…ふぅん……大学とかもあるの?」
「ことこと大学行きてえの?!はぁ…志が立派なもんで」
「進学するってことは何か極めたい学問があるの?それか研究者になりたいとか…」
「えっ…いや…このご時世大学いって就職しないと安定した生活がおくれない…からさ?」
「…へぇ?何言ってんの?高校出たら即地区で働くか警備団が安牌っしょ
わざわざ4年も部屋にこもってパソコンの前でカタカタしたくねー」
「こらっ!やめなさい、目標があるって素敵な事じゃない!」
「でも社会に出るのが遅れるだけですぜい?研究者なんて成果あげないと給料高卒以下なんだしさぁ
それにオンラインで部屋にこもって勉強漬けの4年なんて狂っちゃうねウチは」
元の世界とのズレをひしひしと感じちゃった、この世界の人はみんな大学には行かなくて地区だけで本当に完結しちゃうんだ…
でも話を聞いてる限りだとオンラインの大学?はあるみたい。
「でも大学に行くにはリスクもあるから気を付けてね
議会公認をうたってるけど実は非認可でレジスタンス要請組織だったとか議会派の情報を抜く為だけに作られた…とかもあるみたいだし…」
「ことことなら大丈夫っしょ?なんてったって最年少属性付与者なんだからさぁ」
「そのことことっての何よ、勝手にグイグイ行き過ぎよ」
気になることは沢山あるけどこれ以上聞いて変な印象持たれるのも少し怖いからわたしはぐっと飲み込んだ 。
「てか今日って属性授業の日だっけ?」
「違うわ、今日は一般的な座学の日、忘れてると思うけど4限目数学の小テストだからね」
「…ウソっ?!来週じゃなかったっけ?!」
「はぁ…貴方じゃないんだからそんなしょうもない嘘つかないわよ…」
「あのぉ…ほんと差し支えなければぁ…範囲的な物をぉ…」
属性とか地区とか議会とか…そういうのがなければ2人は私の知ってる女子高生そのままで…
ちょっとだけまだ上手くやって行けるか分からないけど…
けど優しいクラスメイトもたくさんいるみたいだから、悪目立ちしないようにだけしてればきっと大丈夫。
■■■
想像してるよりあまりにも元の世界と同じような授業が終わって、気づけば帰りのショートホームルームの時間になっていた
社会の授業はちょっとだけちんぷんかんぷんだったけど。
「じゃあ明日は初めての属性授業の日だからぁ、無いとは思うんですけど…属性武器は持ってくるようにしてくださいねぇ
それじゃあ…今日は終わりでぇす、皆さん気をつけて帰宅してくださぁい」
初めて聞く授業だから何があるのか分からないけど、きっと前お姉ちゃんが言っていた戦闘訓練みたいなこと…なのかな?
けど属性武器って18にならないともらえないんじゃなかったっけ?
「忘れちゃダメよ」
「いくらウチでもそれは無いってばぁ」
パラパラとみんなが教室を出ていく中で城之崎さんが山峰さんにそう言っているのが聞こえてきた
「ことことも一緒に帰るー?」
「あ。わたしはお姉ちゃんが迎えに来てくれるから」
「あちゃぁ…なら仕方ないか」
「あっ!ねえねえ明日の属性授業ってさ…属性がない子はどうするの?」
「え?ことこと寝ぼけてる?それとも眠たい?
この学校入学要項に属性持ちが必須条件じゃん」
「属性って基本は18歳にならないと貰えないんじゃない…っけ?」
「それあくまでの話ね??そこまで弾かれるやつ早々居ないって!
ウチでも15で取れたんだからさぁ」
「…今日は当たり前のおかしなこと聞いてるけど、まだ具合が悪いの?
保健室行った方がいい?」
「ううん!大丈夫!!ほら!わたしなんでも細かく確認しちゃう癖があるからさ!
あはは…なんかごめんね?」
「なんかあれみてーだよな!未知の惑星に着陸した宇宙人!」
「やめなさいよ、そんな別世界人みたいに言うの、同じクラスメイトなんだから
ね?桜庭さん」
「ううん!気にしてない気にしてない!ただ本当に聞きたがりの人なだけっ!
ごめんね!わたしこそ当たり前のこと聞いて!」
「…それじゃあ私たちは帰るけど、桜庭さんも気を付けてね
また明日ね」
「ことことばいばーい!まったあっしたー!」
そう言って2人は教室から出ていった
別世界とか宇宙人とか言われた時はさすがにドキッとしたから…ほんとにこれからは変な事聞くのはやめよう…
変な子だと思われちゃうと学園生活が大変になっちゃうと思うし…
■■■■
「なるほどねぇ、初日は浮きに浮きまくったと」
「もうすっごいドキドキしちゃって…」
「これからはさぁ気になったことがあったら私に聞きなね?」
迎えに来てくれたお姉ちゃんの車の中でホッと心が暖かくなって身体も軽くなった
「だねぇ…あんまり悪目立ちしすぎると元の私が戻ってきた時に大変だろうし…気をつけなきゃだよね!」
「いや…アイツはそんなこと気にしないとは思うけど…ま。馴染もうとするのはいい事じゃない?」
「元の私ってそんなに強いの?」
「強いって言うか…んまあ…なんて言うか…
てかコンビニ寄ってく?今日疲れただろうし、なんか奢るわ」
「ありがと…あっ。この世界のコンビニは普通だよね??」
「いや、琴葉にとっての普通が何か分からんすぎるからなんとも言えない
ジュースとアイスとタバコとか諸々売ってるとこだけど…」
「多分大丈夫だと思う、知ってる範囲の物しか聞こえてこなかったし」
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異世界?のコンビニはわたしが知ってる通りのコンビニとほとんど一緒だった
時々見たことない飲み物とかアイスとかそもそも何に使うかが分からないものとかたくさんあったけど
けど大まかな所は大体一緒で、わたしはお姉ちゃんにアイスを買ってもらってそれを食べながら車内で揺られていた
「今日晩御飯なにかな」
「復帰祝いに唐揚げだって」
「ふふっ…やったー、お母さんの唐揚げ大好きなんだよね
…ちゃんと鶏肉だよね?」
「いや、さすがにビビりすぎ。牛豚鳥はさすがにこの世界にもいるけど」
そんないつものお姉ちゃんと話すような会話をこの世界のお姉ちゃんとしながら家の近くまで来た時だった
「お姉ちゃん…煙だ」
「うわ…マジじゃん…火事?消火隊も来てるみたいだし」
家の方角からもくもくと黒い煙が立ち上っていた
この世界でも消防士は居るんだなんてぼんやり思ってたけど…なんでだろうすごく心がザワザワする
「…ごめん、ちょっとスピード出すわ」
そんな事を言ったお姉ちゃんの顔はどことなく青く見えて
わたしの心のザワザワはもっともっと大きくなって…息が苦しくなって来ちゃってる
「…嘘」
お姉ちゃんがスピードを出していつもより早く着いたわたしの家
けどそこに家なんて無くて
「…話聞いてくる、ちょっとだけひとりで待てる?」
「…うん」
家があった場所にあるのは家と同じくらい大きな炎
まるで暴れてるみたいに囂々と燃え盛っていて…家を食べているみたいに見えた
溶けたアイスがスカートに落ちたけど冷たいなんて思えなかった
それ以上に心臓が破裂しそうで、頭が熱くて… 首から下が無くなったみたいにピリピリしてて
「はぁ…スゥ…。ごめんとりあえず言うことだけ伝えるよ…
…お母さん。死んだって」
お姉ちゃんの言葉すらなんだか英語みたいな理解できない言語に聞こえていた