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桜庭 琴乃:2

「おかえりなさい、琴乃さん。エリさん。」


 私らが家に着いて玄関のドアを開けた瞬間、そんないつも通りの声が聞こえてきた

 多分紗代は私らがいつ帰ってきてもいいようにここで待ってたんだろう、家の門も鍵をかけない状態にして。


「不用心すぎ、こんなことなってんだから門のロックくらいしときなよ」


「大きいとはいえ民家、攻めいられても1人くらいでしょうから」


 勝てるぞ、って事ね。怪我人3人も抱えといてその自信はさすが紗代だわ

 まあ確かに並大抵の人間なら紗代に近づくことすら無理だろうけど。


「おねえぢゃん!!エリちゃん!!」


 奥からもう一人とんでもない泣き顔で駆け寄ってくるのが1人

 足がもつれて2回くらい転びそうになってるけど、それすら気にも留めず私らの元に一直線。


「あのね、死んだ訳じゃないんだからさ」


「だからだよぉ!心配したんだから!」


「私にばっかり抱きついてないで、ほらエリにも行って」


 さすがにこんなにベタベタされるのは琴葉にはちょっと悪いけど鬱陶しい

 それにまだ着替えてすらないからほんのりと血の匂いがするのも嫌だった。


「あ、ウチはやめとく、まだちょっと本調子じゃないから」


「エリちゃんも大丈夫なの?」


「あー、うん平気、体は問題ない」


「エリさんの意識が先に戻ったんですね」


「ん?あのギャルはまだなの?」


「えぇ、定期的に脈と呼吸は確認しているのですが……」


 まあ確かにこの2人は弾が腹部直撃からのすごい血の量だったからな

 あと数分応急処置が遅れてたら多分終わってる。


 現にほぼ死にかけだった片方はまだ目を覚ましてないみたいだし。


「とりあえず皆さん中へお入りください、今後のお話も兼ねてお茶でも飲んで一息つきましょう。」


「ほら、グズグズしてないの、さっさと先行って琴葉」


 まだメソメソしてる琴葉にそう言いながら靴を脱ぐ

 エリも紗代について行くように靴を脱いでから揃えてタタッと奥へと消えてった。


 最後に残った私は玄関の鍵がきちんと閉まってるかだけを確認する 。


 今後の話とは言ってたけど、バチバチの議会派居る前でどう話進めんだろね、ここでまた騒ぎとかになんなきゃいいんだけど。


 ■■■■


 机に並べられたお菓子、それを取り囲む私ら5人

 絵面だけならお茶会みたいなんだけど、話してる内容はそんなファンシーなカラーのものではない。


「それで?こっから逃げ出すって?」


「わたくしは避難するとしても地区外がいいと思うのです」


 このキラキラ委員長ちゃんは気づいてないからあえて伏せてるんだろうけど、私と琴葉はまずこの地区内で避難できない。


 理由は簡単、琴葉のことを知っている人間がいたらその時点でパニックが起こる可能性があるから。


 っていうか恐らく警備団の生き残りもそこに多かれ少なかれいるだろうから選択肢としては論外。


「避難するとしてどこに逃げますの?」


「ここから1番近い地区になると反議会派地区の巫祷区になるかと」


「反対ですわ!反議会派が収める地区なんて」


「でも噂程度に聞く限りじゃ私らの地区ほどではないけど平和なんでしょ?」


「反議会派が収める地区ですのよ?1日1殺くらいのルールは設けられてましてよ」


「あのね、反議会派が全員頭のネジ外れた世紀末集団じゃないっての」


「じゃあ仮になんだけど、ここから近い議会派の地区って?」


「石海区になりますかね」


 案の定反議会派の地区に行くとなると議会派のこの子は断固として拒否

 まあそれは予想できてたし、最悪怪我がある程度治ったら切り捨てるだけの話。


「ではそちらにしましょう」


「いや、関所どうやって通過すんのさ」


 万が一議会派の地区に行くとして、入区の大きな壁になるのが関所。


 私らの地区にもあるけどここを突破できない限りはまず区に入ることは出来ない。


 それにここと一緒なら警備団の腕の立つ奴らが一日中警備してるだろうし、無傷で突破ってのも確実に無理、今日以上の損害が出るのは火を見るより明らか。


「区が乗っ取られたと言えばいいのですわ、同じ議会派なら快く受け入れてくれるはずだと思いますの」


「バカ?それが本当か嘘かも分かんないのに易々と入れてくれるわけないでしょうが」


 まず議会派の区となると出ることすら難しいのに、新しく入るなんてそれこそ議会勅令じゃないと無理。


 大体区間の出入りが認められてる仕入れ業者だって入区と出区毎に1時間の荷物検査、出入りする度に議会承認の通行書ワンセットの申請、挙句入区時間も分単位できっちり決められてようやく出入りできんだから。


「ではここに残って最後まで戦いましょう!」


「勝手にやってなさい、私らは巫祷区に行くから」


 それに比べて反議会派の地区は楽、まず関所はあっても議会派地区ほどの入念なチェックは行われてない

 その地区の基準を満たしてたらスっと入れていつまでもいれる。

 

 議会派の奴らが戦争で住む場所失って反議会派の地区に流れ込んで、思いのほかそっちの生活が良くて派閥替えなんて話も聞くくらい

 まあ、反議会派を議会派地区に変えようと戦争が起こることもあるけど、それはこの世界じゃどこも一緒。


「んまあっ!なんて見下げた精神なのかしらっ!エリさんはどう思いますの?」


「私?んー……」


「エリさんは反議会派地区になんて……行きませんわよねっ?」


「ウチもお姉ちゃん行くなら行くかな」


「人でなしっ!琴葉さんはどうですの?」


「えっと……ごめん、私もお姉ちゃん側」


「んまあっ!金城マユカのこの崇高な議会派精神を理解できる方はいらっしゃらない!ということですわね?」


「あんたタイタニックとかだと最後まで楽団でチェロとか弾いてそうよね」


「では私は同じクラス委員の花園さんと二人で頑張りますわ!」


「ダメですよ、お怪我している方はこちらで引き取ります」


「まっ……」


 なんか知らん間に力関係が構築されてるらしく、紗代の一言でさっきまで騒ぎ立てていたキラキラ委員長が一気に静かになってくれた。


 何とかこれで話は前に進みそうね 、次はこの地区の関所をどうやって突破するかになりそうだけど、それが今んとこ目先のいちばん大きい壁なのよね……。


「じゃ、避難で話はまとまったみたいだし、次はどうやってこの地区から出るか……ね」



 ■■■■


「関所はまだ無事なのでしょうか?」


「関所でドンパチやってる形跡ないからおそらくは無事」


「ということはまだこの地区にも希望があるということですわね?」


「いや、今は一旦その話置いといて」


「恐らく今回の戦争は内部的に計画から実行までが完結しているものなんでしょうね」


「外に情報行って無い分救助も来ないと」


「警備署が1番先に落とされてしまいましたからね」


 となると救助のどさくさに紛れて外に出るって言うのはまず無理。


 それに警備署落とされて学校まで落とされてんだから多分残った警備団員達は詰所と残りの議営の建物を意地でも守りに入るはず。


「地区長さんにお願いしに行く……とか?」


「琴葉それナイスかも」


 地区長にお願いって訳には行かないけど、もしこの地区での戦争が酷くなって地区長が外に逃げるならそのタイミングで紛れることは出来なくもない。


 楽観的な予想だけど地区長守りながら詰所も守る人員はおそらく残っていない……と思いたい。


「じゃあさっそく地区長さんにお願いしに行こうっ!」


「いや、それよりこの戦争激しくなるの待って、地区長の逃亡に紛れ込むのが早い」


「ですが肝心の逃亡のタイミングがわかりませんよ?」


 確かにそれもそう、地区長の逃亡なんて言うデカすぎるイベントは厳重に秘匿されて行われるはず。


 となると――――――


「ごめん、1個だけ最悪の案出たわ」


 ふと脳裏をよぎった最悪の考え、元の琴葉との約束を破ることになるし、今の琴葉にもだいぶ負担を強いることになる。


 けど、いつどこで誰が襲ってくるかも分からない今日みたいな状況じゃ、多分琴葉を守るためにもこれが一番安牌。


「琴葉だけ属性で外出て巫祷区に先に行ってもらうってのは?」


「なっ!何言ってるの?!」


「そこで上手いこと暮らせるなら先に地盤作ってもらいたいし、マジで上手くやれるなら第三勢力こっちに引っ張ってきて欲しい」


「それだったらみんな一緒に行けばいいじゃん!」


「戦争中だけどまがいなりにも詰所、多分警備は強化されてるだろうから全員ってなると時間かかりすぎるんだよね」


「そこは早くできるように頑張るよ!」


「あと琴葉の属性、普通に光るじゃん、目立つ」


 確かに私ら全員琴葉の属性で脱出することもできるかもしれない。

 ただそれはワンチャンスに賭けすぎている、あまりにもリスキー。


 まずそれを決行するなら目立たない夜だけど、琴葉の属性で選ばれたものはピンク色に縁どりされるから目立つ

 それにもし全員分琴葉が残ってテレポートさせていったとしても気づかれた時点で琴葉が叩かれて終わる、それに守るにしても現状まともな戦力は紗代だけ、あとは本調子じゃないエリに議会派の人間

 さすがに詰所警備の人間に1人で勝てる勝算は低い。


 だったらさっき言った通り第三勢力を関所に雪崩込ませて出入りを自由にした方が確実。


 実際の所、私は琴葉一人でそこまでできるとは思ってない、安全に逃げてくれればそれでいいんだけど。


「じゃあさ、私らが安全に逃げれるように琴葉は巫祷区でここの戦争のこと知らせて関所に雪崩込ませてきてよ」


 けどこのまま行っても琴葉は恐らく譲らない。

 今日既にボロボロになっている琴葉に更なる負担を与えたくはないけど。


「……それまで絶対に死なない?」


 こう言えば私が知っているはずの琴葉なら必ず乗る。


 世界を戻すためにわざわざパラレルに消えた妹の選んだ、()()()()()()()()なんだから。


「約束はできないけど、全員死なないようにはする」


 私一人では説得力が薄いか?と紗代にも目配せをした。


「ええ、安心して行ってきて下さいませ、わたくしは強いですから並大抵のことでは死にませんよ」


「……分かった」


 琴葉、本当にごめん。

 今ここで謝ったら逆効果だ、それにこれが最後の言葉みたいになって縁起も悪い。


 だったらサッと送り出して、戻ってきた琴葉に「遅かったじゃん」って言う方がいいに決まってる。


「じゃ、夜のうちにサクッと計画立てて送り出すよ」


 あとは噂に聞いてる巫祷区の場所、目印、その他細かいところを詰めて琴葉を送り出すだけ。


 こういう無責任な言葉本当は使いたくないし嫌いだけど、私は琴葉がやってくれると信じてる

 この子はいつもそういう子だから、今回も絶対にうまくいく。

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