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内海 シュウ:1

「遺書……もう8枚超えちゃったけど……」


 A4の用紙に書き連ねた遺書、最初は周囲への感謝、やり残したこと、幸せだったこと。


 それらをコンパクトにまとめて1枚の仕上がりだった。


 けどそもそもこの遺書誰に届くんだ?両親も親しい人もみんなこの地区の人だぞ?

 見られるとしたら救助に来た別の地区の警備団?

 となると僕と親しい人にしか伝わらないこの微妙なニュアンスの言葉が綴られた遺書って見る人によっては誤解を与えかねないよな。


 この僕が死んでこの遺書が間違った伝わり方をして、それがとんでもない悲劇と誤解をうんだらどうしよう

 もし僕が死んだ後に僕に犯罪被害を受けたなんて嘘をつく人が出てきたら?昔付き合ってた人にとんでもない男に仕立て上げられたら?


 そう考えれば考えるほど不安になって僕は遺書を書き直して、それぞれ最後にまとめて注釈まで入れた。


「……これくらいかな?」


 出来上がった遺書を数えてみると本文だけで12枚、注釈で2枚を超える超大作が出来上がっていた。


 我ながらよく書きあげたもんだな、なんて思いながらも達成感が湧き上がってくる。


 これでいつこの地区の騒動に巻き込まれて死んでも安心

 なわけは全くない、出来れば死にたくなんてない。


 けど昨夜の職場の爆発、先程響いた2発目の爆発音

 確実にこの地区で大きな戦争が起こる。


 そうなれば僕は生き残れる?答えは絶対にNO

 なぜなら僕は全然戦えないから、挙句に運動神経も悪くて身長だって低い。


 人に誇れるのは警備団員ってところだけ、あとはもう何も誇れるところなんてない。


 強いていえば昔付き合ってた人がめっちゃお金持ちくらいの話だけ。


 属性だって『念写』とかいうほぼハズレの分類、武器こそ銃みたいな形をしていて格好いいけど引き金を引いて出てくるのは絵だけ

 警備団員でも内務の方に基本回されてて似顔絵作るくらいしか役に立ったことは無い。


 こんなんで戦争を生き延びろって方が酷だ。


 なんなら昨日爆発に巻き込まれてた方が良かった、だって何も知らずに一瞬で終わるんだから。


 でも無駄に休みを取っていたせいでいつ死ぬか分からない恐怖に襲われながら怯えてその時を待たなきゃいけない状況になっている。


 もしかして僕はなにか悪いことをして罰を受けている?なんて思うくらいには精神がすり減ってるのが胃がキリキリと痛む度にわかる。


 神務局……いや、議会の人でもいい、なんなら生き残った警備団の他の面々だけでこの状況を鎮圧してくれればいいけど多分それも無理。


 神務局は属性付与の時にしか基本は絡んでこないし、議会もこの程度の地区の戦争なら関与してこない、警備団はそもそも通信も連絡も入ってこないからほとんど壊滅してる。


 じゃあ僕が生きれる方法ってあるの?


 無い、多分無い。きっと僕は3日以内に死ぬ。


 ■■■■


 じゃあ死ぬとして何か出来ることはないかって考えて書いたのが遺書。


 けどこれは客観的に見てどうなんだ?あまり僕のことを知らない人がみたらまだ誤解を産む部分があるんじゃないか?


 例えばこの幼少期に飼育していたハムスターの名付けのくだりなんて、『ハムきち』なんて安直な名前は虐待にあたるとか思われないか?

 もしかすると海外の言葉にするととんでもない悪口だったりは?


「あ……もうダメだぁ」


 この遺書全部外国の言葉で訳したらすごい悪口になる気がしてきた、奇跡的な確率で神への宣戦布告とかになってたらどうしよう。


 多分このままだと戦争に巻き込まれる云々を置いといて死ぬ

 僕の胃が雲散霧消して多臓器不全とかで死ぬ。


 そうなる前に僕はスマホを手に取り、まだ生きていることを願いながら通話の緑のマークを押した。


「図書館は満杯、学校は爆破されてる、今は桜木男子高校にみんな向かってる」


「違う!そんなこと聞きたいんじゃないよ!」


 電話越しの彼女は淡々と避難情報を開口一番に伝えてきた。

 多分僕が警備団だから議営の建物に勤務している彼女に連絡をとったと思われている。


「なに?」


「僕の遺書を聞いて少しでも誤解が無いかを確認して欲しいんだよ!」


「へ?」


「やっぱり自分で書いた文書って他人から読むと変だったり誤解を与えたりするってことあるでしょ?」


「それはそう」


「僕をあまり知らない他の人が読んだ時どう思うか考えるととても不安で」


「幼馴染」


「でも司書じゃん!」


「あとそこまで時間とれない」


「僕の遺書が後に神に対する宣戦布告として世界を揺るがし兼ねる可能性だってあるのに?!」


「落ち着いて。宇宙が滅びるよりありえない」


「それに人の声聞いてないと心が落ち着かないんだよ!」


「だったら先輩に連絡したらいい」


「みんな昨日の爆発で死んだんだよ!」


「貴方のように生き残っている人もいる」


「そりゃあいるかもだけど1人は鬱陶しいし、1人は先輩すぎるのと怖いし」


「なら避難を」


「外に出たら死ぬよ!?」


「では」


 幼馴染だって言うのに彼女は非常に非情だ

 あんなに幼少期から一緒にいた人間が死の危機に瀕してると言うのに。


 けど人と話して少し落ち着いたのは確か。


 言われた通りに避難すれば孤独は少しでも紛れるかもしれないけど、けどもしドアをいた瞬間にナイフを舐めるタイプの反議会派がいたら?


 いやでもそもそもこのアパートも安全じゃない、こんな木造の燃えやすそうなアパート火をつけるには持ってこいだし、流れ弾で倒壊する可能性だってある。


 そうなってしまった時僕は遺書と共に燃えて死ぬか瓦礫の下で死ぬかになる

 となるとこの僕の今日までの歴史を綴った遺書は誰の目にも触れることはなくなる。


 そうなると僕が死んだかどうかも分からない状態になって僕に背乗りする人が出てきて僕の名を借りてとんでもない事件を起こすかもしれない。


「歴史の教科書に大犯罪者として幼少期の写真が乗るんだぁ……」


 そんなことにならないためにも少しでも僕とこの遺書を知ってもらわなければならない。


 僕は最大限の厚着をして鍋をヘルメット代わりに武器を片手に玄関の覗き穴からそっと外を見た。


 誰も居ない、ここから桜木男子高校は少し遠いけど

 後世に悪名をとどろかせないためにも僕は避難を決意した。



 ■■■■


 厳重装備で外に繰り出してみると、外は思いの外凄く静か。


 大晦日や年明けみたいに静まり返っていて、避難者どころか反議会派の奴らも全く見当たらない。


 一応は武器を握りしめ片方には鍋の蓋を盾がわりに持っているけど、それすら必要ないようにも思えてくる。


 けど油断はできない、今この踏み締めている地面の下にもしかしたら反議会派が潜り込んでいて、地面を割って飛び出してくるかもしれない、空だって一緒だ。


 警備団の研修の頃最初に言われたのは油断はするな、だった。


 属性という概念がある以上起こりえないことが起こりうることとして常に存在している。


 だからこそ油断をしてはいけない――


「オマエ、何やってんの?」


「うわぁぁぁ!なに?!誰ぇっ?!」


 気を引き締めた瞬間に後ろからかけられる声。


 多分僕の心臓は一瞬止まったし、寿命は2分の1ほどに縮まった。


「議会派?」


 声をかけてきたのはいかにも不良少女って見た目の女の子

 ショートパンツにジージャン、頭のサイドにはガッツリと剃りこみまで入っている

 挙句の果てには殴り心地の良さそうなフライパンまで持ってるし


 もう見るだけで怖い、視覚から攻めてくるタイプの不良。


「えっ……あっ。議会派かなぁ?」


「ハッキリしろや」


「議会派です」


 これ殺されるヤツだ、だってこの子見た目からして反議会派だし、こんな怖い見た目の議会派いるはずがない。


「何してんの」


「避難とか」


「あ?だからハッキリしろって」


「避難及び遺書の死守をしています!」


「遺書?」


「死ぬ前に書くやつです」


「おん、それは分かるけど」


 そこから僕は全てを話した、どういう考えでこうなっているか、今何をしているか、家はどこか、昨日まで何をしていたか

 もう聞かれることはないように全部。


「オマエそういう病気の人?」


「身体は健康ですね」


「いや心の」


「まあいいわ、ちょっとオモロそうだし遺書見せてみ?あんだろ?」


 今、僕は遺書をカツアゲされています

 もちろん断るなんてできません。


「オマエマジで怖いな、狂気じゃん」


「あのー……そういうお姉さんは何を?」


「いや、地区こんなんだしダチとも連絡取れねえしひと暴れすっかなぁって」


「あ、反議会派の人で」


「文句あんのか?」


「いえ、では!ひと暴れ頑張ってくださいね!」


「おい、待て待て待て」


 こういう時は相手を刺激しないのが1番だって、クマにも目を合わせながら後退するのが正解だって読んだことあるのに

 それなのに僕は見事に止められた。


「殺すんですね?!殺すんなら油断してる時にサクッとしてくださいよ!!!」


「オマエ情緒どこ行ったん」


「だって!人殺してそうな顔してるし!反議会派だし!」


「いや、殺したことはあるけどアタシ桜庭信者だから」


「いいや、信じません。さっきひと暴れするって言ってました」


「街で属性ブッパなせる機会なんてねえじゃん、だから」


「そのひと暴れで何人死ぬかわかってんですか?!」


「いや、人がいないの確認してからやっから」


「僕は人間としてみなしてないから殺すってことですか?!」


「オマエのが怖い、何その思考」


「じゃあなんで止めたんですか」


「いや、一人で行かせるん心配だから」


 訂正、多分この子根はいい子なのかもしれない

 人は殺したことあるけど、桜庭信者なら多分大丈夫な気がする。


「ん?桜庭信者?それ言うってことは僕が警備団ってことがバレてる?!」


「遺書の4ページ目に書いてたじゃん」


「危うく思考が盗まれたのかと」


「どうでもいいけど頭の鍋の下にアルミホイルとか巻いてないよな?」


 幸か不幸か外に出てこの子に会って避難所まで送ってもらえることになった

 僕よりは遥かに強そうだし、しっかりしてそうだしこれで道中は安全だと思いたい。


「今避難所どこなん?」


「桜木男子高校らしいです」


「遠くね?なら近くのデカ目の民家で匿ってもらった方がよくね?」


「でもその一家が反議会派で人喰い一族とかだったらどうするんですか?!」


「病気すぎるだろオマエ」


「いいや、警戒に超したことは無いです」


「どうでもいいわ、とりま学校目指しながらブラブラ行くぞ、付いてこい」


「はい!なんかあったら守ってください!」


「自分の身くらい自分で守れアホ」


 そうこうしながら僕はこの子と一緒に桜木男子高校をめざしながら歩いていった。


 この後予想の裏からやってきたとんでもない騒動に巻き込まれるとも知らずに―――――

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