久留間 耕助:3
男だった、俺よりあとに備品倉庫に入ってきたのは、まだ恐らく高校生くらいの男。
一通り体育館を見回ったのか、最初に足音が聞こえてしばらくしてから警戒するようにゆっくりと入ってきた。
ソイツは制服を着てる訳でもなく、Tシャツにジーパン、それに目出し帽とかいうラフさと怪しさが両立した格好だったが
全体的な雰囲気からまだガキなんだなって雰囲気がプンプン臭う。
これなら俺一人でも余裕で何とかなるか?
腰の警棒に手をかけて、相手の隙を伺う。
『カチッ』
目の前の男はポケットに手を突っ込みながら何かを押した
武器か?俺がいるのがバレてる?
こりゃあ早めに飛び出して制圧かけた方がいいか?
けどまだ一般市民の可能性も捨てきれてない
めんどくせぇけど微塵でもその可能性があるなら下手な行動はうちたくねえ。
相手が怪しい行動を見せてくれるなら話は別だが。
「……」
大体5分くらいたった、まだ目の前の男はスマホをみたり辺りを見回したり行動に落ち着きがない。
もう話だけでも聞きに行って、何してるか確認取るか、なんて思った時だった。
男が間原の遺体に手をかけそのままお姫様抱っこの要領で担ぎ上げた。
「おい、待て待て待て。なーにしてんの?」
物陰から飛び出して声をかけるも、男は全く反応
まるで俺の事なんて存在してないみたいに死体をそのまま外に運び出そうとする。
「だぁーかーらー!待てって」
流石にここで易々と見逃すのはいくら面倒臭がりの俺と言ってもありえない。
俺は相手の肩を掴んで動きを止め、ここに俺がいると示したはずだった―――
―――――はずだった。
「あ?」
俺の手は男の肩をすり抜けた。
けど男はまだ目の前にいて死体を担ぎ上げて出ていこうとしている。
目の前に存在しているはずなのに、それは触ることは出来ずホログラムの映像みたいに見ることしかできなかった。
「っ……やられた」
試しに警棒で殴りかかってみるも、警棒に伝わる感触は空気を切る軽い感触だけ。
易々と重要人物っぼい死体を目の前で持ち出されるとはな。
さすがの俺も自分への苛立ちと不甲斐なさで一瞬だけ頭に血が上った。
「わりぃ、佐田か」
けどそれは一瞬のことで、1分もすると俺はすぐに頭を冷やしてスマホから佐田に報告と共有の連絡を入れていた。
「わりぃ。逃げられたわ、どする?また来る?」
今起きたこと、佐田と別れてから目にしたこと、それらを全部伝える
予想通り佐田は大激怒だった。
どうして自分を連れていかなかったのか、どうしてそう思ったならその時点で共有しなかったのか。
ごもっともである。
けど俺が1人になったのにはちゃんとそれなりの理由があっての事だ。
「うし、じゃあさっさととっ捕まえに行くか」
俺は相手がこの学校から出ることは出来ない事を知っている
だって俺がそうしているから。
1回は逃げられたものの2回目は絶対に許さない。
それに相手は明らかに不審な行動を見せてくれた、だったら強制的に制圧しても大義名分が立つ。
おそらく相手は正門付近にいる、佐田が来る前にとっとと仕留めとくことにするかぁ。
■■■■
「お。居た、外は出れんよ、俺の属性で門閉まるようにしてっから」
ドンピシャだ、校門前にあの男がいる。
体育館に入る前に属性を正門に使っておいたのは我ながらいい判断だったと思う
門に下した命令は「俺以外のやつが外に出ようとしたら門を閉めろ」
これで俺が仮に誰かを見逃したとしても取り逃したとしてもこの瓦礫まみれの学校は1度だけ簡易的な牢獄として機能する。
佐田を先に帰らせた理由はコレ、仮に校内で戦闘して佐田や俺が大怪我したとしても、俺以外が外に出ようとすると門は問答無用で閉まる
そうなると外に出るのが遅れて最悪手遅れになる。
まあ、佐田の属性を考えると門はあってないようなもんだけど、俺と佐田両方がワンチャン死にかけた時が辛い。
この状況で一つ気になる点があるとするなら間原の死体だけはそこに見当たらないということだが、尋問するなら死体より生きてる人間に話を聞いた方が早い。
「死体はー?」
ホルダーから拳銃を抜いて、相手に尋ねるが無反応
ただ備品倉庫の時とは違い明らかに動揺しているの分かる。
「また無視?もしかして俺死んでる?」
軽口を叩いてみても反応がない。
こいつも人体模型とかの類か?
いや、けど明らかに要所要所で見せてくる反応は明らかに人間じみている。
『カチッ』
「お、また属性つかった?」
備品倉庫で聞いたあの音がまた俺の耳に入った、属性を使ったってことはおそらく相手も観念して仕掛けてくるつもりだろう。
『パンッ』
『パンッ』
相手がそのつもりなら先手必勝に限る
俺は2発相手に向かって発砲するが、備品倉庫の時と同じく相手に反応は無い。
というより弾自体が男に当たっていない。
「さっきからなんで当たんないかなぁ」
そうぼやくと共に目の前の目出し帽の男は軽やかな身のこなしで横に走り出し、俺にジグザグに射線を切りながら走り寄ってくる。
「おっとぉ?」
恐らく追い詰められたから俺を倒すしかないという判断に至ったのだろう。
けど無駄だ、身体能力なら警備団に入ってから無駄に訓練を受けている
この程度の攻撃なら余裕で避けれるはずだった。
「あ?」
確かに相手の攻撃は避けた、現に相手はさっき俺の居た場所にナイフを持って突っ立っている。
それなのに何故俺は刺されている?
「え?俺ちゃんと避けたよね?何その属性」
相手は慣れていないのか、食らった一撃は致命傷にはなっていない
それでもこれを何回も繰り返されたら流石に死ぬ。
軽口こそ叩けて余裕ぶれているが、脇腹から流れる血まではカバーしきれない。
「……」
どうも相手は俺と会話するつもりなんて毛頭ないらしく、間髪入れずに二発目を仕掛けてくる。
脇腹をかばいながらの行動になると初撃の時より反応は遅れるが、それでもまだ避けれないことは無い。
「カハッ!!」
そのはずだったのに二発目もまともに食らった。
状況はさっきと同じ、相手は俺の元いた場所に立っているのに少し離れた場所の俺に攻撃が直撃している。
しかも今回は正面から刺された、口から血が吹き出てきたことを考えると胃をやられている。
「ゲホッ……マジで何その属性。無敵か?」
さすがにこうなると余裕綽々とは行かない。
『パンッ』
ナイフ自体が伸びてるとか、相手の速度が急激に上がっているとか、そういう訳では無い事は確か
現に傷口の深さは相手の持っているナイフの目測通りの深さだし、避ける時も相手がこっちに向かってくる速度は一定から変わらない。
だとすれば属性は自己強化系でも物に作用するタイプでもないのか?
恐らく長々と考えたところですぐに答えは出ないだろうと俺は身体に任せて1発だけ発砲した。
「やっぱ当たんねぇのな」
けど相手は予想通り無傷、それに加えて3発目を繰り出そうとそのまままた俺に直進してきている。
「ん?」
腹部と脇腹を切り捨てて、先程よりも早い速度で回避にあたる中
相手の動きが少しだけ変わった。
直進していた相手が大きく右に逸れてそのまままた直進してくる。
「あー、ダメか……」
相手の3発目は俺の左肩に直撃した、無論相手と距離はとっているのに。
更に手負いの体を無理に動かして回避に当たった為、出血がさらに酷くなってきている。
「こりゃ……死ぬか?」
口の中にも広がる鉄の匂い
脇腹と腹部から湧き出る血液
おそらくこのままだと何もされなくても出血多量でジワジワと死ぬ。
このまま交戦を続けたとしても身体的なキャパを考えると持って二発か三発
当たり所を考えると一発でアウトも十分に有り得る。
『パンッ』
だから俺は銃を持つ手を右手に変えてもう1発発砲した
これは決して自暴自棄になっているわけではない。
予想が正しければ、次は体の右側のどこかを刺されるはずだ。
「やっぱりそういうことか」
俺に4発目を当てようとする目の前の相手はまたバカ真っ直ぐに俺に走ってくるが、先程と同じように途中で大きく進路を左に逸らした。
そして案の定俺の右胸にナイフが刺さったみたいだった。
「つくづくめんどくせぇ属性だな」
今この土壇場にはなるが、俺の頭の中で相手の属性に関してある程度の推測が立った、そして同時に攻略の目途も
いくら面倒くさがりな俺とてなあなあで伊達に場数を踏んでは来てない。
俺の考えが間違ってないのであれば、次の一撃で勝負は決まる
備品倉庫でのあの動き、そしてここに至るまでの相手の動き方。
属性を割り出すためのヒントは存分に出揃った。
ならば余裕がなくなりつつある今、ここで決める他ない。
それに脇腹に腹部に左肩に右胸、俺の身体もこれ以上は無理は効かない。
「――――――」
手袋の甲に付いている歯車を回しながら俺は囁いて銃を構える。
「ほら、俺の事殺さねえとこっからは逃げれねえぞ?」
今相手は自分が優位だと思ってんだろうな、次で俺を殺しきれるとまで思ってんのかもしんねえ。
けど属性ってのは使うやつが賢くなきゃ、どこからでもちゃぶ台はひっくり返されんのさ。
かかってこい、ちゃんとここで仕留めてやる。
次はジグザグに動き回って走り寄って来る相手を見据えて俺はほくそ笑んだ




