桜庭 琴乃:1
「最悪だ、ここまで用意してたとはね」
本当に最悪、この状況が、ここまで予測しきっていなかった自分が、エリを守り切れるか分からないという不安を感じていることが
何もかもが最悪、けどここで立ち止まっているわけにもいかない。
前に進まないといけないという状況を強制されるこの居心地の悪さも最悪だ。
「エリー?治療終わったけど生きてる?」
返事は帰ってこないけど弱々しいながらに脈はある、息もしているからまだ死んではない、ただ恐らく血を失いすぎている
治療とは言ったものの傷口を完全に塞いだけで失った分までの血液は補給できてない
あくまでも応急処置、救命処置ではない。
「どーしろっての……はぁ」
エリを見つけたまでは良かった、掃除用具入れのロッカーを横に倒してそこにエリを押し込んだ
もし残党がいたとしても遮蔽物で囲ってるエリは早々狙われないだろうという判断で
そこから迅速に治療に移り、完了した矢先の爆発だった。
不幸中の幸いとしてロッカーに囲まれているエリは瓦礫の直撃は受けていないし、私自身も足を軽く怪我しただけで済んでいる
ただ瓦礫のせいで出口が塞がれているからここから出ることもできない
挙句の果てにスマホに瓦礫が直撃したのか、外部との連絡もまともにとれる状況でもない。
「こんなことなら紗代連れてきた方がよかったかなぁ」
紗代の属性なら、紗代の武器なら瓦礫くらい砕いて簡単に外に出れてたっていうのに。
「とりあえず…ここにいるわけにもいかないし」
とは言ってみたものの……。
目の前の怪我人置いて校内歩き回るわけにもいかないし、怪我人背負って歩き回れるほどのバイタリティも持ち合わせてない
前に進まないといけない状況なのに進路が全く見えてこない。
行ってしまえば詰んでいるようなこの状況で必死に私は頭を回した。
「瓦礫を砕く……ってもなぁ」
辺りを見回してみても爆発と爆風でほとんどの物が壊れてしまっている
この状況になると自分自身の骨を砕くことでもしない限り、まず私の属性は役に立たない。
「大人しく助け待つ?エリはどう思うよ?」
勿論答えは返ってこない、けど口を動かしていないと頭の回転が止まってしまいそうだったから何でもないように私は一人で話し続けた。
「……」
「お!エリ?!」
エリが目を開けた、意識が戻った
そうなると話は変わる、エリの属性でも時間はかかるかもしれないが瓦礫を除去することができる。
「あ…あぁ」
「今状況的には詰んでる、学校がどっかーんよ、んで私たちは閉じ込められてるってわけ」
「そっかぁ」
「幸か不幸か私らはでかい怪我もなく生き残れてるけどね」
「う…ウチ?はもう元気だからありがとう…えーっと」
エリの様子がおかしい、なんかボーっとしてるような、ふわふわとした何かの違和感がずっと付きまとっている
「なに?なんかボーっとしてておかしいけど?」
あー...まだぼんやりしてて、なんかこう上手く色々頭が回らなくてぇ」
「私のこと誰だかわかる?」
「琴葉のお姉ちゃん…だっけ?」
記憶を失ってる?今までも死にかけてた人間の応急処置は何度かしたことはあるけど、それでもこんなことはなかったはず
頭を打った?いや、撃たれただけの話しか聞いてない、というより怪我人が多すぎて詳細に確認する暇がなかった。
「とりあえず外出たいんだけどさ、動けそうなら瓦礫とか壊してもらっていい?」
「壊す?どうやって?」
「いや、武器で」
「あ…あぁ」
起きたばかりの人間に少し重労働すぎるかもしれないが、次何か起こる前に外に出ておきたい。
「ごめん、無理」
「さすがにまだ動けない?」
「うん、まだちょっとね」
バッドに手を伸ばしたエリがそっとバッドから手を放して、ゆっくrと目を瞑る。
当然の話だけどまだ本調子ではないみたい。
「ごめん、本当にごめん」
「いや…しゃーない、まだ死にかけてたところから戻ったばっかだし」
「それに多分色々思い出せないっぽいかな」
「何言ってんの?記憶喪失ってこと?」
「そう、多分そんな感じだと思う」
意識は戻ったけど記憶は一部戻ってないとかいう状況
命がある分まだましだけど、何をどこまで覚えているか確認する必要があるかもしれない。
いざというときに肝心なことを忘れていてそれが大きな損害につながりましたってのは嫌だから。
「おっけ、なら自分の名前は分かる?」
「わかる」
「属性の使い方は?」
「わかんない」
「城之崎ほとりのことは?自分のお姉ちゃんのことは?」
「友達、警備団だったから殺された、お姉ちゃんのことはよく思い出せない」
「私の妹のことは?」
「琴葉はロッカーとか瞬間移動させれる」
なんかもう色々と断片的に忘れてたり覚えていたり
恐らく何かを紐づけて忘れているというよりかは、穴抜け状態のパズルに等しい状況。
「記憶が無くなってるとか以外に体におかしいところはない?」
「今の所平気かな、まだちょっと動きづらいってだけ」
どの道この状態のエリと一緒に外に出る方法は無いか
まあけど無事意識が戻ったってだけでもよしとして、あとは誰か来るの待ってた方が良いかな。
多分紗代も琴葉も死ぬほど心配してるだろうけど。
■■■■
スマホも何もかも壊れているから時間は分からないけど、多分爆発から一時間くらい経っている。
さっきと比べてエリも安定して受け答えを出来るようになってきていて、ある程度は回復しているみたい
一日もすれば軽く動けるくらいには回復するかな。
「誰か―!誰か居るでありますかー??」
エリと軽い談笑をしながら煙草を吸って時間を吸って時間を潰していたら、瓦礫の向こう側から声が聞こえてきた
思っていたより助けが来るのが早いな、この状況だとそれほどありがたいことはないけど。
「こっち!!怪我人二人!!」
瓦礫の向こう側に聞こえるように大きな声を出す。
「居るでありますね!!怪我はどういった状況でありますか!?」
「一人は死にかけだったのを処置して意識は回復!!私は足軽く怪我してるだけ!!命に別状はない!!!」
「わかったであります!!」
「てかお兄さんたちどういう感じの人!!?」
助けに来たってことは祭木とかの仲間ではないことは確かだろうけど……
けどこの状況で警備団とか来ててもダルい、私はただでさえ琴葉の姉ってことでマークされてんだから。
「警備団でありますよ!!」
最悪だ、命助かったとしても拘束される可能性が高いな
そうなるとまたこっち側の話が無茶苦茶にこじれるわけで
琴葉のことは紗代に任せてるから良いとしても、全部知ってるわけではない紗代にずっと任せっきりは無理だ。
「おっけー!ありがとー!!」
「助け来たの?」
「あー、うん。警備団の人ね」
「そっか、良かった」
状況打破できる点で見るとまあこれほど嬉しいことはないんだろうけど、この後の事とかいろいろ考えると少し頭が痛くなる。
「じゃあ!いまから!!瓦礫を壊すでありますから!!なるべく瓦礫から離れてもらえるでありますか!?」
「わかった!!離れたら合図する!!!」
とりあえず退路を確保してからこの後のことは考えよう
今ここで餓死と衰弱死を待つよりかは活路を見いだせてたほうが百倍はマシ。
「エリ。いったんドア閉めるよ」
エリを横に寝かせて入れているドアを閉めて、私もロッカーの後ろの開いているスペースに身を入れて屈む
「準備できたけどー!!」
「じゃあ!今から!救助しに行くであります!!!」
■■■■
そっから救助はめちゃくちゃに早かった、瓦礫は綺麗さっぱり取り除かれている
というより私の入ってきた正面玄関までの道に落ちているであろう瓦礫が一切見当たらない
「さあ!これでもう大丈夫であります」
声が聞こえて、私はロッカーの影からスッと顔を出す。
「って―――桜庭琴乃!!!」
「あはは、どーも」
「貴様がこのようなことを企てたのか!?」
「いやいや、巻き込まれただけね」
まあこうなるよね、予想はできてた。
何があってもいいように武器だけポケットで握りしめて私は平静を装った。
「ん、もう一人は?」
奥からのっそりやってきたやる気のなさそうな男は別に私を見ても表情を変えることはない
けど怪我人を心配してるっていう風にも見えない、ただただダルそうだった。
「この中」
私がロッカーの扉を開けるとまた目の前の熱血系って感じの男の表情が変わった。
「あ…どうも、はじめ…まして?」
「君は!!!」
「あ。あの時の」
「え?何知り合い?」
ロッカーの奥で横になっているエリをみて二人はまるで知っているような反応だった
けど私みたいに敵意を向けられてるわけでもない。
「事情聴取の時にお会いしたでありますな!」
「あー、話は聞いてるわ。なんかすごく熱心に取り調べしてた人でしょ?
で、奥のはこれまたいろいろ事情聴取してくれた人だっけ?」
「ん?そうだけど、初めましてってこの子記憶でもなくしてんの?」
「みたい、断片的に穴あき状態」
「ふーん…ま、話はとりあえず外で聞くわ」
「エリ、動ける?」
「大丈夫!背負っていくでありますよ!」
話に聞いてた通り、一人は激熱のうっとおしい男ともう一人は人殺してそうな目つきのダルそうな男
まあけどこの状況から助けてくれたことは感謝ね。
それにいま敵意を向けられてるのは私だけみたいだし、とばっちりがエリに行くこともないでしょ
最悪エリだけ家に帰して私はのらりくらり撒いてあとから合流することもできるしね
琴葉の事だけ黙っときゃ、私も尻尾掴まれる心配はないことは今までの生活で確認済だし。
ここは適当に話し済ませてさっさと帰ろうと、私は最後尾で三人にゆっくりと付いていくことにした。




