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祭木 静:2

 完全に、完全に油断していた

 相手の能力は把握してたはずだった、厄介な3人も先に蹴散らせた。


「なん……で?」


 あとは桜庭琴葉を落としきってお終いのはずなのに。


 それなのに私の視界は急に切り替わって、目の前に広がっていたのは青い青い空だった。


 落ちてる、でもどうして?

 地面にたたきつけられるまでに必死に頭を回転させる。


 桜庭琴葉の属性に物体を動かすなんて情報は一切無かったはずなのに。


 相手は不安と恐怖で今にも潰れそうだったのに。


 だから私に向かって走って引き金を引いた瞬間、勝ちを確信したのに。


 これじゃあ用意してた奥の手も使えないまま死ぬ

 いや、別にいい私が死ぬのは計画の内だ、戦えない属性(ちから)なんだからこんなことをしでかしたら死ぬに決まっている

 けど妹だけは生かして逃がす算段だったのに。


 これができないと妹まで危険になる。


 ポケットに忍ばせたスイッチを探るよりも先に地面は私に近づいてきていてーーー


 ■■■■


 私の両親は警備団に殺された。


 まだ妹が小学生の頃に、反議会派の疑いをかけられて。


 聴取に行ってくるだけだから、夜には帰ってくるから

 なんて言っていた両親が帰ってきたのは3日後だった。


 警備団の人間にお前らは変なこと企てるんじゃないぞと投げられた袋の中に二人はいた

 20本の手の指だけの姿で。


 両親は模範的な議会派だったはずだ、そんな2人がこんな目に遭うなんておかしい、聴取だけじゃなかったの?

 どうしてこんな仕打ちを?

 殺さなきゃ行けなかったの?


 その日から私は秩序や平和という言葉が何もなく暮らせている人間だけのために作られた都合のいいだけのまやかしなんだと思うようになった。


 そして何も知らない妹に両親はいつ帰ってくるのか、なんて聞かれる度に吐きそうになった

 帰ってこないよ、死んだんだよなんて伝えれない。


 だから必死で嘘をついた

 妹の不安の色はそれでも薄れ無かった、日に日に恐怖と不安に染っていく妹のことを直視することも怖くなったある日のことだった。


「え?……なんて?」


「だからね!おとーさんとおかーさんはね!幸せの国に行ったの!」


 妹から不安も恐怖も悩みも、全部の色が無くなった

 それと同時に妹は妙なことを言うようになってしまった「お父さんとお母さんは幸せの国でまた皆で暮らす準備をしているんだ」って。


「そうだよ……ちょっと時間がかかるから、迎えに来るまで待ってようね」


 目の前の妹が怪物に見えた、意思疎通の取れない別の生き物に

 だから私は嘘をつき続けた、壊れてしまった妹が少しでも幸せに過ごせるように、少しでも夢を見てられるように。


 でも、そんな生活も長くは続かなかった。


 ■■■■


 当時学生だった私に収入を得る方法なんてない、まだ小学生の妹と学生の私では到底生活が立ち行かなくなった。


 私がもし戦える属性(ちから)なら通り魔でも追い剥ぎでも強盗でもして生計を立てれていたのに、私はあまりにも非力だった

 私一人の属性(ちから)じゃ何も出来ない。


 このまま生活が立ち行かなくなったら私達は、いや。妹は死んでしまう

 だから私は地区の施設に連絡を取って救助を求めた

 正直血を吐くまで悩んだ、死ぬほど嫌だった、議会派に妹を託すのは。


 けど妹の命を守るためには仕方ない、ここよりいい生活ができる

 それに反議会派に傾いた私と一緒に暮らしていれば影響されて妹まで両親のようになってしまうかもしれない。


 だったらいっそ、私とは別々に暮らした方がいい。


「これからね、■■ちゃんは新しいお父さんとお母さんができるからねぇ、大丈夫。元のお母さんたちが迎えに来る間の話だからねぇ」


 不安を隠すように、とびきり優しく諭すように、涙をこらえて震える声では少し不格好な喋り方になってしまったけど。


「おねーちゃんは?」


「お姉ちゃんはね、強くなるためにちょっと修行をしなくちゃいけないのぉ……終わったらちゃんと迎えに行くからぁ」


「そっか!またね!おねーちゃん!」


 それが妹と一緒に暮らしていた時の最後の会話だった。


 それから程なくして地区の人間が来て妹を連れて行って、自分が希望した通り私も別の里親の元へと連れていかれた。


多分もう会うことはきっとない。


 ■■■■


 里親は両親と同じように模範的な議会派と言った形で私は両親の死んだ不幸な子として手厚く育てられた。


 けど私の心に黒く根付いた感情は日に日に実をつけてどす黒く育っている。


 里親に引き取られてから私は必死に両親に合わせ、取り繕うことを覚え、幸せな子供を何年も何年も演じ続けた。


 そんな私が22歳になった時、街で彼を見つけた。


 挙動不審で不安の色を一際濃く出している、浮浪者みたいな格好の男。


 何が不安なのか分からないけど、良くないことをしでかそうとしてるのは私の目からはあまりにも明白だった。


「何してるんですかぁ?」


 だから声をかけた、何も警戒していないような穏やかな声色で。


「カンケーねえだろ」


「ごめんなさい、つい気になってしまってぇ……」


「ウルセーな、俺なんかに構ってないでどっか行けよ」


 相手はちゃんと私の目を見ている、色も薄くなっている

 あと何回かの会話でこの男は落ちる。


「何かお手伝いできることがあったらぁ、教えてくださいねぇ?」


「アぁ?」


「何か困ってるみたいですしぃ……」


「んじゃあ今からここで無差別に人殺すったら協力してくれんのか?あ?」


 やっばり、事件を起こす前の反議会派か、だったら都合がいい

 この男はきっと|利用でき(つかえ)る。


「いいですよぉ?」


「は?」


「けどやるならもっと派手にやりましょうよぉ」


「んだよ……それ」


「この地区を乗っ取っちゃう……とかぁ」


「バカかよお前」


「バカに見えますかぁ?」


 また不安の色が男から出てくる、けどその不安さえ抑えてあげる

 その代わり私の復讐ゆめに死ぬまで付き合ってもらう。


 ここから私の復讐がゆっくりと動き始めた。


 ■■■■


 あれから私と男は何回もひっそりと顔を合わせ、地区を乗っ取るなんていう到底荒唐無稽な計画を練った。


 まずは仲間がいる、使える属性(ちから)なら尚良、けど仲間が増えすぎても管理ができるのか?

 考えることは山積みだった。


「そういやぁ、お前妹いるんだよな?」


「居ますけどぉ……」


「反議会派なの?」


「まだ全然小さい頃なので分かりませぇん」


「地区乗っ取ったとして妹が議会派だったらどうすんだよ」


 この男は変な所で気を使う、無骨で粗野で普段は何も考えてないのに

 確か出会った時の犯行の動機も祖母が見殺しにされたから……だったっけ?


「どうしましょうかぁ……」


 良くも悪くも向こう水で人の為にしか動けないような頭の悪い男。


「連れてきた方がいんじゃね?」


「それこそ議会派だったらどうするんですかぁ?別れたお姉ちゃんが対立陣営なんてぇ」


「んじゃあ確かめに行く」


「だからぁ、そこで議会派だったらどうするんですかぁ?」


「そん時は……反議会派にする!」


「どうやって?」


「アイツらが最悪の団体だって、俺らでもっと正しい世界を作るんだって話すんだよ!」


 正直妹に会うのは怖かった、最後に見た妹は壊れてしまっていたから。


 里親の元で上手くやれているかも分からない、私の選択は間違いだったのかもしれないって。


「どっちの中学か分かるか?」


「知りませんよぉ」


 この男はそうと決めれば絶対に動く、不安からでも悩みからでもないその行動を抑えることは出来なかった。


「とにかく探すぞ!顔覚えてんだよな?」


「まぁ……一応はぁ」


 地区占拠計画から別れた妹に会う計画にすり変わってしまっているけど、妹に会うのもありかもしれないな。


 なんて私は《《電源の切れたスマホの画面を見つめながら》》男の話に相槌を打ち続けた。


 ■■■■


 妹とは割と簡単に会えたのを覚えている。


 だってあの子は私より先に私を見つけて駆け寄ってきたから。


「迎えに来てくれたんだね!」


 それが最初の一言でーーーーー


 ■■■■


 ーーーーあとは地面に叩きつけられるだけのはずなのに、時間は無限に感じられた。


 死ぬ人間に走馬灯が巡るなんてよく言うけれど、ちゃんと本当だったみたい。


 多分もうスイッチを押す時間もない、だったら最期は幸せな走馬灯で終わらせてくれていればいいのに。


 神様はきっと意地悪なんだな、いや。当然の報いか

 何人殺したかも分からない私が最期だけ幸せな夢に逃げるのは許されないか。


 不思議と怖くはなかった。


 まだやり残したことが沢山あるのにやりきった気持ちになるのは私も壊れてしまったのかもしれない。


『パンッ』

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