桜庭 琴葉:7
「お姉ちゃん!わたしも学校に行く!」
「いやだからマズいんだって、わかる?なんかあったらどうすんの?」
「エリちゃん達が大変な目に合ってるかもしれないんだよ?」
「まあまあお二人共落ち着きましょう、それにエリさんは強いですからきっと大丈夫ですよ」
昨日の夜、エリちゃんと花園さんが学校に行くって言った時、わたしは怖くて何も言えなかった。
だから眠れなかった、エリちゃんが帰ってこなかったらどうしよう、エリちゃんが死んじゃったらって。
「それでも嫌なの!何も出来ないのが嫌なの!」
「だーかーら!今のアンタが行っても足手まといでしょうが!」
「何かあったら絶対に後悔しちゃうもん!お母さんの時みたいなのは絶対に嫌だもん!」
「あのね!そろそろ本気で怒るよ?!」
「わたしだってこの世界の住人なんだよっ!このまま何もしないままで居るのは絶対に嫌!」
この世界で生活を始めてから1週間くらい
わたしはこの世界が危険だってことは痛いほど分かっている
誰かが、自分が常に死ぬかもしれないって言う可能性と隣り合わせの世界。
わたしは今まで横に居てくれた人、助けてくれた人、大好きな人、その人たちが死んでしまうだけなのを見るのが耐えられなくなってきていた。
お母さんだって、城之崎さんだって、秋津先生だって、もっといっぱいお話したり笑いあったりしたかった、でもそれはもう二度と出来ない。
もう人が居なくなる度に押しつぶされそうになるのは嫌
それだったら何も出来ないかもしれないけどわたしは私ができることを精一杯したい。
わたしの力だってきっとなにかに使えるかもしれない
わたしがみんなが少しでも悲しむことを減らせるかもしれない。
少しでも希望があるならわたしはそれから目を逸らさず、どんなに危険でもその希望を掴み取りたい
逃げるだけで希望から遠ざかっていくだけなんてもう嫌だ。
「お姉ちゃんが反対するんだったら!」
わたしは自分の武器をこめかみに当てて引き金を引いた。
「1人でも行くから!」
「なっ!ちょっと!!」
ピンク色にうっすら光る私の身体、このまま外に向かって引き金を引いたら誰にも止められることなくわたしは外に行ける。
「まあ……」
「一人で外でたら本気でぶん殴るよ?!」
「ぶん殴られる前に逃げるからっ!2人ともわたしの事捕まえれないことぐらいわかってるもん!」
私の瞬間移動にこの2人は絶対について来れない。
「……どうしますか?」
「もうこうなったら言う事聞かないわよ」
今まで怒っていたお姉ちゃんがガクッと肩を落としてため息をつく。
「まあ確かにここまで騒ぎ起きててアンタが動いてないってなると更にあいつら調子付くかもしんないしね」
「それに避難もできないような状態ですし……」
「分かった、行ってもいいわよ。けど私たちもついて行くからね」
「ほんとっ?!」
「だからとりあえずそれ降ろしなさい」
「それはやだ!お姉ちゃん降ろした瞬間に飛びかかってきそうだもん!」
「アンタ私のことなんだと思ってんのよ」
「頼りになるけどすっごい意地悪な時あるお姉ちゃん!」
「あのねぇ……」
「姉妹同士理解があるんですね、うふふ」
そのままお姉ちゃんは車のキーを取りに行って、凄く嫌々だったけど私たちを車に乗せてエンジンをかけてくれた。
「ほんっとに!バカよアンタは!」
「バカでもいいもん!」
■■■■
「無理はしないで!これ絶対だから!」
「もう何回も聞いたよ、大丈夫!」
「紗代には悪いけど最悪無理ならエリとか見捨てて逃げなさいよ!」
「……うん」
「それ出来ないなら今すぐにでも帰るからね」
「琴葉さん。大丈夫ですよ、こんな状態ですから自分の身は第一です、家族でもない限りは皆さんそうしますから」
「出来るね?」
「出来る……」
「わたくしたちも乗り込みますか?」
「いや、なんかあった時のために出入口張る」
出来るとは言ったけど嘘
多分そういう状況になったらエリちゃん達を逃がしてからわたしが最後に逃げる。
「学校でなんかおこってんだったら逃げようとする怪しいヤツとっ捕まえれるし、増援来たんだったらそれに対処できるでしょ」
「そうですね、でしたら琴葉さんの連絡先を教えてもらっても?」
「あ……はい」
「これでお外で何が起こったとしてもすぐに情報を連携しますので、いつでも見れるようにしておいてくださいね」
車の速度が段々遅くなっていく、もうすぐ学校につくんだ
あれだけ夢に見ていた高校が今はそびえ立つ悪魔のお城に見えてくる。
目の前に近づく学校を見つめながら、わたしは武器をぎゅっと握りしめた。
■■■■
「わかった!エリちゃんに合わせるね!」
エリちゃん達を見つけたと思ったら既に大変そうなことになっていたから、わたしは咄嗟に教室内の掃除用具入れを壁としてみんなの前にテレポートさせた。
初めましての女の人は怪我をしてるみたいだったけど、まだ誰も大きな怪我とかはしてないみたいで良かった。
「えいっ!」
そこから合流したエリちゃんの言うことに従って、カウントの終わりにわたしは体を出して頭のない人体模型に向けて引き金を引いた。
『バゴォンッ』
「やった!」
引き金を引いた瞬間に隣にいたエリちゃんは人体模型の前に移動して、人体模型はそのままバットを当てられて凄い音と一緒にバラバラになった。
「最高!イエイイエイイエイ!!やっぱ楽勝なんだよなー!」
飛び散った人体模型のパーツを蹴飛ばしながらエリちゃんがこっちに向いてピースしていた。
「上手くいって良かった……」
ほっと一息つけた、人をテレポートさせるのは初めてだったけど上手くできた
そんな時だった。
「いや待って!エリリンヤバいかも!」
花園さんが大きな声を出した。
「へ?」
エリちゃんが蹴飛ばしたはずの人体模型の内蔵が不自然に動いている
まだ生きてるんだ!。
わたしは急いでもう一度エリちゃんに銃口を向けるけど。
『パァンッ』
何発目かの銃声と一緒にエリちゃんのお腹から赤くて細いものが飛び出した。
「エリさんっ?!」
「ゴッド桜庭!キララの事飛ばして!!」
頭が真っ白な中で言われた通りにわたしは花園さんを飛ばした
それと一緒に力が抜けて地面に倒れそうになってーーーー
■■■■
「ちょっち!しっかりしろってば!」
エリちゃんが撃たれた、それだけが頭の中でいっぱいで。
「あー!もう!」
ほっぺたに衝撃が走った
何が起こったのかしばらく分かんなかったけど、叩かれたんだ。
「ねえ!今無事なん2人しかおらん感じなんだからさ!マヂでそれやめて!」
「ご……ごめんなさい」
「とりあえず模型はもう動かんから!」
視線を前にやるとばらばらになった模型はキラキラにデコレーションされていたカタカタと震えていた。
「こうなったら解除するまでは動けんから」
「どうしますの……」
「とりま一旦引かんといけん感じ」
エリちゃんは花園さんが運んで来てくれたけど、お腹から下は血でベッタリと濡れていた。
「桜庭!外に2人いんだよね?」
「はいっ」
「治療出来るやついる?」
「……確かお姉ちゃんなら!」
「どっち居んの?!正門?裏門!」
「正門です!」
「おっけ……運ぶわ!ここからならまだ近い!」
「手伝いますわ」
「血がヤベェな……待って穴空いてるくらいなら」
花園さんが携帯のストラップをちぎってエリちゃんの腹部に押し当てると、一瞬でえりちゃんの胴体がキラキラの石みたいなので包まれる。
「あとはこのまんま運ぶだけ!桜庭!」
もう1回エリちゃんに銃口を向けたその瞬間
『パァンッ』
また銃声だった。
エリちゃんの後ろにいた花園さんの身体がビクンッと跳ねる
「えっ?!」
遮蔽物があるのに、なんで?
人体模型模型は動けなくなってるのにどうして?
エリちゃんに覆い被さるようにして花園さんが倒れた時にその理由が分かった。
「どうしましょうかぁ?3人ともまともに戦えなくなりましたねぇ」
後ろだ、逆方向の階段から祭木先生が降りてきたんだ。
「まだ3人とも生きてるみたいですけどぉ……時間の問題ですねぇ」
どうしていいかわかんない、こういう時お姉ちゃんは逃げろっていってた。
けどこのまんま逃げたら確実に3人とも死んじゃう、それだけは絶対に嫌。
「なんですか?それ?」
わたしは祭木先生の方に走った、走りながら祭木先生に向けて引き金を引いた。
上手くいくかは全然わかんないけど、上手くやらないとみんなのことを助けられない。
だったら絶対になんとかしてみせる。
「わたしのこと!絶対に殺せないです!絶対に!」
これが挑発になってるかは分からない、けど、無事なのはわたしだけなんだからきっと私を狙ってくれるはず。
いや、狙ってくれなくてもいい
とにかくわたしが上についたらこの最悪な状況を終わらせれる
3人がトドメを刺されるより先に少しでも早く上に行かなきゃ。
何とかなるなんて確信は持てないけど、わたしは呆気にとられている祭木先生を置いて必死に階段を駆け上がった。
■■■■
何とか3階まで階段を駆け上がった
いつもこんな運動なんてしないから息が切れて心臓が別の意味で痛くて。
「はぁ……ふぅ。」
とりあえず息を整える。
「自分の属性の使い方……忘れちゃったんですかぁ?」
階段の踊り場から縁どりされた祭木先生の姿が見えて声が聞こえてくる
よかった……追ってきてくれてるんだ。
「間違ってません!」
「でも……あの状況なら。あ、そういうことですねぇ、お友達思いだからこそ1人を選べなかったんですかぁ?
そうですよねぇあの距離なら1発は撃てますからねぇ」
何を言ってるか全然分かんない、わたしが《《やろうとしてる事》》は上手くできている。
「賢いですねぇ?少しでも時間を伸ばそうとしたんですねぇ?」
わたしはとにかくいちばん近くに在るある物を探した、まだ祭木先生は踊り場にいる。
「でも放っておいたら確実に2人は死んじゃいますよぉ?」
だったら走らなくとも確実に近くの窓には間に合う。
「それに桜庭さんはお怪我すらしてないのに私を撃って何を入れ替えるおつもりなんですかぁ?うふふ……パニックなんですねぇ?見えてましたよぉ?」
わたしは急いで窓から銃を持ってる手を出した。
「っ……ほんとにごめんなさいっ!」
そしてそのまま銃を上に向けて引き金を引いた。
数秒後、窓の向こう側からすごい速度でなにか大きいシルエットが落ちたのが見えた。
『パンッ』
銃声に似てるけどそれよりも乾いていて何かが地面に叩きつけられる音
《《祭木先生だ》》
「あっ……」
だめ、まだダメなのに急に怖くなって足が動かなくなる
ちゃんと覚悟はしていたつもりなのに。
今、わたしが人を殺したんだって、みんなを助けるために、1人死なせてしまったんだって。
でもこんなとこで立ち止まってたらせっかくみんなを助けれそうなのに、その時間が無駄になっちゃう。
それなのに足がもう動かなくて。
わたしはその場に立っていることすら出来なくなって、震える手でスマホを取り出した。
「もしもし……お姉ちゃん?」
ちゃんと喋れてるかも怪しいけど、3人の位置と状況は伝えれたはず。
お姉ちゃんはわたしのことまで聞いてくれたけど、それを答えようとすると酷く声が震えて何も喋れなくなった。
大丈夫、みんな助かる、仕方なかった、わたしは頭の中で繰り返されるその言葉だけを聞きながら、握っていた武器からゆっくりと手を離した。




