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秋津 彩人:3

放課後

 僕より先に美術室に来ていた祭木先生と合流して胸像の前に立つ


 多分いつも通りならこれで胸像は話しかけてくるはず


『100点満点ですぅ』


 来た、予想通り胸像が喋った

 いつもみたいに間延びした口調で


『祭木先生…でしたっけぇ?』


「はいそうですよぉ、初めましてですねぇ」


 祭木先生は驚くこともなく、僕達や生徒達に話しかけるみたいに

 いつも通りに挨拶を返した。


「驚かないん…ですね?」


「まぁ…色んな属性の子とか見てきましたからねぇ…」


 まあ僕も一緒だ、最初胸像に話しかけられた時も嫌に冷静に対応できた

 こんなこともあるんだろうなと


『それじゃあ早速ぅ…お話に移りたいんですけどぉ…何するかは話してますかぁ?』


「…いや、話してないよ」


 言えるはずがない、生徒を暗殺する計画があるので手伝ってください。なんて

 そもそもこんなことに巻き込む事態間違いだって言うのに


「…何かするんですかぁ?」


『生徒の暗殺…ですねぇ』


 いくらなんでも直球すぎる

 こんなの驚かれるに加えて僕まで共犯者だと思われかねない

 最悪だ…、これで警備団に駆け込まれたりなんてしたら一発で拘束されるに違いない


「どうしてですかぁ?」


『反議会派…なのでぇ』


「そうですかぁ…そうなんですねぇ」


 予想に反して祭木先生は表情一つ変えることは無かった

 生徒に話を聞くがごとく淡々と話を掘り下げて内容を把握しているように見える


 こんなとんでもない話を持ちかけられているのに…だ。


「冷静…ですね」


「議会に反する人間が居るということは他の生徒が危ないってことでもありますしぃ……

 詳しくお話は聞いておかないとぉ…」


 こんな異常な状況下でも生徒の安全が真っ先に出てくるあたり、多分僕とは心の根っこの部分から違う

 胸像と話を始めてから3日、僕は1度もそんなことを考えたことは無い


「それで…その子って誰なんですかぁ?」


 そう、僕が1番聞きたかったことだ

 その反議会派の生徒が誰なのか、僕は一体誰を殺すことに協力しようとしているのか


()()()()()()さんですぅ』


「城之崎ほとりっ?あの2組の?」


 意外過ぎて聞き返してしまった

 城之崎ほとりといえば1年の中でも成績優秀、中学時代から優等生の現クラス委員の1人

 そんな絵に書いたような生徒が反議会派?


『はい、上手く潜伏していますねぇ』


「…んー、城之崎さん…ですかぁ」


「心当たりでもあるんですか?」


「いえ…そういうことでは無いんですけどぉ…」


 いや、この反応は多分確信まではいかずともなにか思うところは有る人間の反応だ


『それをぉ…明日の放課後…殺害しますぅ』


「明日?!」


『でも大丈夫ですぅ…すべて私がやるのでぇ…先生方は言われた通りにぃ…動いてくださぁい』


 いや、さすがにいきなりすぎる

 それに僕自身彼女が反議会派という確信がないのに凶行に踏み込むなんてリスクが高すぎる


「秋津先生?」


 固まる僕の顔を祭木先生が覗き込んでくる

 きっと今の心情も祭木先生には見えているんだろう

 だからこんなに心配そうな顔をしているんだ、こんな状況なんだから僕より自分のことを心配すればいいのに…


『協力してくれなくてもぉ…決行はします、けどその場合はぁ、反議会派の処分に協力しなかったとお二方のお名前をぉ…警備団に報告しますぅ』


 最悪の脅迫だ

 彼女が議会派だったとしても反議会派だったとしてもどの道逃げ道はない


 議会派なら彼女が死んだ時点で暗殺を知りながら止めなかった

 反議会派ならさっき胸像が話した通り

 どの道警備団がやってきて僕は終わる


 つまり胸像に協力するしか道は残されていない。


「何をすればいいんですかぁ?」


『簡単ですぅ…秋津先生はぁ属性で私を透明にしてくださぁい、祭木先生はぁ…その時間その近辺にもし生徒がいる場合は追い払ってください…』


「……」


 けどまだ了承は出来なかった

 人を殺す、それも生徒を

 僕がどんな状況であれそんなの易々と首を縦に振る訳には行かない。



「分かりましたぁ」


 けど少しの沈黙の後、祭木先生は首を縦に振った


「もしこれで本当に城之崎さんが反議会派だった場合…他の生徒に何かあった時私は後悔してしまいますからぁ……」


「もし…違った場合は?」


 怖いのはそこだ、違っていた場合、その場合は無闇にひとりの生徒を殺すことになる


「その時は自首しましょう…正直…断るって選択肢は無いみたいですからぁ」


 真剣に覚悟を決めた表情で祭木先生は僕を見つめる。


 たしかに、確かにそうだ、どの道逃げ道がないんだったら、他の生徒を守れる可能性が残っている道に賭けるしかない


 それに、実行するのは僕達ではないんだから、何かあったとしてもバレる可能性なんてのも確率としてかなり低いはずだ。


「…分かった、僕も協力する」


 降った首はいつもよりかなり重たく感じた

 けどもう僕も覚悟を決めるしかない状況に追いやられているんだ。


 ■■■■


 知らされた計画はかなり簡単なものだった。


 僕は美術室に来る実行役を属性で透明にするだけ、その後は犯行が行われるタイミングに合わせて職員室に戻る


「…はぁ」


 けど本当にこれでいいのか?なんて気持ちもまだ心の片隅に残っている

 それに何かずっと、ずっと違和感がある


「なんか…()()()()んだよな」


 一人暮らしの狭い部屋の中で僕は独り言をいいながら缶ビールのフタを開ける


 何がおかしい?

 属性が把握されてること?城之崎さんがどうして反議会派だと把握されたか?

 いや、違う


 もっと根本的に何かがおかしい

 けど何がおかしいかまではたどり着けない

 むず痒い、どうしようもなく気付かなきゃいけない部分がある気がするのにそれに気づけない。


「…っ…はぁー」


 缶ビールを流し込んで一旦考えるのを止める

 多分これ以上考えていても時間が過ぎるだけで答えは出てこない


 それに明日が終われば胸像の目的も終わるわけだから、僕はまたいつも通りの生活に戻れるはずだ


 なら明日を終わらせることだけを考えよう

 誰か一人が死んで、それだけで終わり


 何もおかしい事じゃない、そんな事この世界のどこでも日常のように起こっている事だ

 重く捉える必要なんてない、ただ当事者になるだけ

 いつかは起こりえたことが今起こっているだけなんだから。


 ■■■■


 暗殺当日、僕はいつも通り職員室のデスクで朝の缶コーヒーを飲んでいる

 大丈夫、きっと城之崎ほとりは反議会派で僕達はその芽を摘むだけだ、と言い聞かせながら。


「おはようございますぅ、秋津先生」


 そんな僕のデスクへ祭木先生がいつもと変わらない様子で挨拶へ来た

 ここ3日毎朝のことだけど、日に日に他の男性職員からの羨望の視線が強くなってきている気がする。


「ああ…おはようございます」


「……今日ですねぇ」


 一際声のボリュームを落として目配せをするように祭木先生は僕を見る


「…はい」


「大丈夫です…大丈夫、きっと全部上手くいって全部元通り…ですよ」


 根拠の無い一言だったけど、その言葉だけで僕の心はかなり和らいだ

 きっと一人だったら押しつぶされていたかもしれない


 そう考えると祭木先生には悪いけど、巻き込んだ相手が祭木先生で正解だったのかもしれない…

 僕一人じゃこの重荷を背負いきることは到底無理だっただろうから


「後で良いので…これ…」


 そう言って僕に隠すように渡されたメモ用紙

 デスクの下でそっと開いてみると中に書かれていたのは端的な文章だった



『放課後、全部終わったら会えませんか?』



「それじゃあ…今日も一日頑張りましょうねぇ」


 短すぎる手紙の意図を尋ねる暇もなく、祭木先生はそそくさと自分のデスクへと戻って行った。


 これがこんなことに巻き込まれて無かったら、きっと垂涎ものなんだろうけどなぁ…

 けど多分僕が、いや。この学校の男性職員が想像しているような意図の手紙ではないんだろう


 そう考えると特に気持ちが浮き足立つなんてことも無く、僕はただただその時間が来るまでの時をいつものように過ごすことにした

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