桜庭 琴葉:1
2025年 4月
長い長い春休みが終わって、今日からわたしは高校一年生になる。
わたしは頭もそこまで良くないし、運動だって得意じゃない、けれどきちんと志望した高校には入学することが出来た。
制服が可愛くて、プールの授業ないらしくて、部活動に可愛いものを集める部活の雑貨部があるって言うわたしの希望が詰まりに詰まった夢みたいな高校
ちょっとだけ偏差値が高くて去年の冬は教科書と塾と教科書しかない生活をしたけど、そのおかげでわたしは今こんなにも可愛いキラキラした制服を着ることができてる
襟元の赤色のリボンが大きくて、スカートは控えめだけどふわっと広がっていてお嬢様みたいな素敵な制服。
早起きが苦手なわたしなのに2時間も早く目が覚めて、髪の毛をいつもよりサラサラになるように梳かして、あんまり上手じゃないけど少しだけお化粧もした
ビニールから畳まれた制服を出した時、袖を通す時に匂った新しいお洋服の匂い、全部が全部とっても嬉しくて夢みたいな気持ちに包んでくれた。
お母さんもお父さんもお姉ちゃんもこの格好をみたらきっと可愛いねって言ってくれるはず
鏡の前でもう一回だけわたしの今世紀1番の可愛い姿を上から下まで見ておかしな所がないことを確認して、自分の部屋のドアをゆっくりと開けた。
■■■■
「おはよ、気合い入ってんねー?」
大学の春休みに入ってるお姉ちゃんがコーヒーを飲みながら私をチラッと見てまたスマホに視線を戻した
ちょっと意地悪なお姉ちゃんがわたしを正直褒めてくれるなんて早々ない事だからなんだかちょっと朝からいい気分。
「ことはちゃん、今日からバスに乗って通学なんだから乗り遅れないようにね?」
キッチンにいるお母さんが心配そうにそう言うと、朝ごはんの乗ったトレイがふわふわとわたしの手元に移動してくる
「早く食べちゃってね、最寄りのバス停はわかる?定期はちゃんとチャージできてる?」
「うん!大丈夫だよ!ありがとう!」
浮いてるトレイをキャッチしてそのままテーブルにーーーーー
「ひゃっ?!?!」
あまりにも皆が、この場所が普通すぎて、新しい制服に浮かれすぎて、色んなことで夢見心地で
わたしは明らかにおかしい出来事に気づけなかった。
「ちょっとー!落とさないでよ!って…制服汚してんじゃん…」
「まっ…ことはちゃん大丈夫?!火傷してない!?やだぁ!制服にお味噌汁が…」
トレイが音を立ててカーペットの上に転がって、その上に乗っていたお母さん特製の栄養満点バランスメニューもリビングの色んなところに散らばっていく。
でもそんなこと気にするほど余裕は無くて…
わたしはまださっき起きた事をきちんと受け止めきれないでいた
「……なに?ボーッとして。はい…これタオル」
「お姉ちゃん?…い…今の見た?みてた…よね?」
「へ?キメに決め込んでたアンタが案の定ドジやらかして制服汚したこと?」
「そうじゃなくてっ!トレイ!こうさ…なんか…羽が生えたみたいにふわふわふわ〜って…」
「いや、お母さんの属性アトリビュートでしょ…てかいつもの事じゃん」
全然理解できなかった、夢かな?なんて思ったりもしたけど多分夢じゃない
だってお味噌汁をこぼした太ももはじんわりと熱くて痛い。
「ねぇ…ことは?大丈夫?」
「えっ…あっ…うん」
お姉ちゃんがスマホを置いてじっと私を見てて、わたしは頑張ってこの状況を飲み込もうとしてフリーズしちゃってる。
多分おかしいのはわたし…で、けど…属性とか全然わけわかんなくて
何回も何回も頭の中でさっきから今までを反芻するけどそれをすればするほど身体も頭も重たくなってくる。
「あっ…」
キッチンの方から聞こえてきた手拍子の音で考え事をしながらもどこか遠くに行っていた意識がスっと戻ってきた
「火傷は大丈夫?ここはママが片付けておくから、ことはちゃんはお着替えしてきて」
リビングの色んなところにちらばったお野菜に目玉焼き、お味噌汁の具材までふわふわと浮かんでキッチンにあるゴミ箱へ戻っていくお皿やトレイは同じように流し場にひとりでに入っていった。
「ねぇ〜ほんと大丈夫?…今日送ってくわ」
「助かるわぁことのちゃん。ことはちゃんも早くお着替えしてお姉ちゃんに送ってってもらってね」
まるでおかしなことになってるのにいつも通りの今日
「アタシも準備するからサッサと着替えてきて」
お姉ちゃんに急かされるがまんまに私はスカートを着替えにリビングを出た。
■■■■
「んじゃ、行く?休む?」
助手席に座るとお姉ちゃんは車のエンジンをつけながら、私の方を向いた。
「体調は悪くないから…大丈夫…ごめんね?」
「いや。体調が悪くないのはわかってんのよ
さっきみたいな不思議なことだらけの中でやってけんの?」
お姉ちゃんはいつもみたいにくすくす笑ってカーナビのテレビをつけてくれた
「琴葉だけど琴葉じゃないでしょ?アンタ」
お姉ちゃんのその言葉にカーナビのテレビの音が遠くなって、頭が熱くなってるのに顔は冷たくなって行った
暑くて寒くて汗が止まらない、訳のわかんない状態だった。
「えっ…あっ…」
「ビビんないでいいわよ、大丈夫だから、こっちも大方察しはついてるし」
「お姉ちゃん?だよね」
いつもの匂いにいつもの口調、車も知ってるしテレビで話してるアナウンサーだって見た事あるのに、どれもこれもがわたしの知ってるものじゃない感覚が柔らかくわたしを包んでいるような気がした。
「おっけ。んじゃあどっから説明しようかな…っても多分全部わかんないよね?
元々どんな生活してたかわりかし丁寧に説明してもらっていい?」
「名前は桜庭琴葉で今日が高校の入学式で、お姉ちゃんは大学生でした…」
「大丈夫、そこは全部知ってる、昨日何食べたとかそういうのも教えて貰える?」
「昨日は入学式の前の日のお祝いにお母さんとお父さんとお姉ちゃんでお寿司食べに行って。
帰ってきて…シャワー浴びて…友達とやり取りして…寝て……」
「だいたい分かったから、まず一番デカめのことから言うね?
ウチん所はお父さんはだいぶ前に死んでる、んで、琴葉に関してもそんな仲良く連絡とる友達はあんましいなかった」
お父さんが死んでて、友達が居ない?全く理解できなくてお姉ちゃんの言葉が頭の中をグルグルグルグル回転する
「で、ごめん。びっくりしてるだろうけど入学式もあるし続けるね」
「う…うん。」
「こっちではだいたい18で属性って言うのと属性武器ってのが渡される
あー…国から。保険証とかみたいな感じで」
「属性?」
「だよね?そうだよね…マジで説明ムズいんだけど
簡単に言うとその人の家系とか人格とかなんか諸々で扱えるその人だけの超能力みたいなやつね」
「超能力?えっと…じゃあわたしはまだ16だから…」
「いや…琴葉は13の時点で使えたけど…
うわ…そっか!こっちの琴葉はなんもしてないのか…」
「属性っていうのは何かしないと使えないん…ですか?」
「さっきさ送られてくるって言ったじゃん?
それ使わんとマジでどうにもならんのよ…」
「じゃあ…わたしって今は…」
「めちゃくちゃ有り得んくらいに無属性、なんかあったり巻き込まれたらすぐ死ぬ」
「死ぬ?」
「多分元の世界と全く違うんだろうからマジで説明できん…時間が全くない…
琴葉がそこら辺なんとかするって言ってたんだけど…。
あ、琴葉ってアンタじゃない方のね」
「あ…はい…」
「とにかく多分今の琴葉からするとめっちゃこの世界は危険なわけね
正直一旦家帰って状況整理した方がいいとは思う
てかなんか置き手紙的なのとか見てないの?」
「制服とメイクで…ちょっと忙しくて…すいません」
「とりあえず敬語やめな?あー…おっけ。一旦帰ろ、良くないわ、目離せない」
車は急にUターンして、お姉ちゃんはそれからも色々と説明をしてくれた
正直まだ何が何だか分かんなかったけど、とにかくいつもより必死でなんだか大変なんだってことは伝わってきていた
もし良かったら次の話も読んで貰えると嬉しいです!
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