表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

第006話 ヴァルデン王国の影

お立ち寄りありがとうございます。

ゆるっと更新続けます。

無理せず水分補給していきましょう。

※毎日11:00更新予定。

夕刻、港町を離れた街道は小麦色の草原に溶けて、陽が落ちると同時に風だけが残った。焚き火を囲む饗狼傭兵団は、いつものように固い黒パンを割り、煮込みの順番を待っている。

 その輪から少し離れた屋台で、ミーナが両手をほくほくさせて戻ってきた。「ね、ね、今日は奮発して買ったの。王都風のチーズ蜂蜜パン!」

 焼きたての生地に濃いチーズをのせ、蜂蜜を垂らしただけの一皿。香りが風に乗って団員の表情がほどける。

「甘いのかしょっぱいのか、どっちだ」バルドが眉を寄せる。

「両方です。ほら、元気になる味だから」ミーナが胸を張る。

 ヴォルクは小さく頷き、一口。塩気の芯に、遅れて花のような甘みが追いかけてくる。「……悪くない。腹が覚える味だ」

 笑いが戻ったところで、ライラが低い声で切り込んだ。「それ、三つ買った領収……じゃない、屋台の男から聞いた。昼間、兜を脱がない騎士団風の連中が町を嗅ぎ回ってたって」

 風が止む。焚き火がはぜる音だけが近い。

「ヴァルデン王国の正規か?」ヴォルク。

「紋章は隠してた。けど、靴の泥の落とし方や背中の癖、軍営帰りの足取りだった。ついでに“狙撃手”の噂を尋ねていたそうよ」

 全員の視線がカイへ。若手狙撃手は肩をすくめ、蜂蜜の糸を指で切った。「有名税、ってやつ?」

「税は払いたくねえが、面倒は買って出る性分でな」バルドが立ち上がる。

 ライラは手早く布切れを広げ、町外れの路地図を描く。「明日の夜明け前、あの古井戸の裏で張る。もし本当にヴァルデンの影なら、こちらから“話”を用意する」

 ヴォルクは残りのパンを二つに割って皆に回した。「聞け。俺たちは仕事で動く。腹を満たすために、だ。噂で剣は抜かない。まずは尻尾を掴む」

 カイが頷き、弓弦を軽く鳴らす。「風は東寄り、夜明けは遅い。蜂蜜の匂いはもう消えた。行けるよ」

 ミーナは皿を両手で抱えたまま、少しだけ不安げに問う。「敵、なのかな」

 ヴォルクは焚き火越しに目を細める。「敵か味方か――決めるのは、あっちの腹具合だ」

 夜は静かに深まり、焚き火の赤が、彼らの影を長くしていった。

ここまで読んでくれてありがとう。

感想・ブクマ・評価が励みになります。

最近ハマってる簡単メシ、よかったら教えてください。ではまた明日11:00に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ