表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/95

第059話 硝光の野

立ち寄ってくれてありがとう。深呼吸をひとつ、今日の体と心を整えていこう。

更新は毎日11:00予定。無理なく、淡々と。

紅礫の坂道を下りきると、地面が急に平らになった。風が止み、あたりの草が淡く光を放っている。“硝光しょうこうの野”。夜の名残を抱いたまま、昼の光を撥ね返していた。帆布は低く、荷は締めて。合図は指で足りる。

「塵なし。鏡なし。……光の匂い」カイが目を細めた。

「坂も霧も過ぎた。今日は光そのものが舌」ライラが掌を差し出し、草の上をなぞる。指先が淡く光った。


 野の中央に、背の高い女が一人。腰紐に藍はない。掌に小瓶を抱えている。

「夜の残り火が草に宿る。風を通せば眠る。……通るなら、列を開けて歩いて」

 ヴォルクは頷き、御者台の商人に視線を送る。「借りる腹は返す足で」

 バルドが草の列を半手ずつ分け、ライラが光の筋を確かめながら通す。

「谷へ二、丘へ一。列は半手あける」女が囁く。

「覚えた」ライラは足跡を残さず進んだ。


 作業の間、ミーナは火を使わない。黒石を布で抱き、木鉢の底に据える。布袋の水を手のひら一杯。“旅酵たびこう”を指の腹だけ落とし、焙り麦の粉をひとつまみ、紅礫の粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。

「“光守りのすすり”。湯気は出さない。温いで止める」

 酸が短く跳ね、光の匂いに溶けた。カイがひと口すすり、頬の力を落とす。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は目尻で笑みを置き、「歩幅を稼ぐ味だ」と短く言った。


 野の中央に古い藍の点がかすかに残っていた。粒は細いが、光に飲まれて見えない。代わりに、草の輝きと影の深さが“話す”。

「粉の囁きは沈む。舌は光」ライラが草の先を撫でた。

「濡れ布の揺れ、なし。目は遠い」カイが肩を切った。「輪になる前に抜ける」


 女が瓶をミーナに渡した。中で草の光が揺れている。「器に垂らせば温が柔らかく続く」

「受け取ります。黒石と重ねる」ミーナが布に包んだ。


 正午前、野の端で短い休止。火は使わず、“光守りの薄”を裂き、光草を指の腹だけ散らして押し戻す。香草は粉。塩は影。

「噛まずに舌で広げる。目が静まる」ミーナが配る。

 バルドが頬に寝かせ、静かにうなずいた。


 午後、野を抜けるころ、遠い肩で黒い点が一度だけ揺れて消えた。鏡ではない。濡れ布でもない。目はいるが、舌は遠い。

「光は眠った。耳は届かない」ライラが囁く。

「良い。歩幅は揃える」ヴォルクは隊列を二列に伸ばし、御者台へ親指を立てた。「合図は指で足りる」


 夕刻、野を背に帆布を張る。灯は一つ。影は増やさない。増やす必要のない夜だ。器に光草を敷き、“薄り”を温いまで起こす。湯気は出ない。酸が喉をやさしく撫で、胸の“種”が息を継いだ。

 御者台で商人が短く書く。「本日の勘定:硝光の野、列開け、光草。歩幅、維持」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」ヴォルクの言葉に、光がひと筋だけ震えた。


 星が出る。野は静まり、道は前へ延びている。

読了感謝。ブクマ・評価が次の筆の燃料になります。

“光る草”や“夜の野原”にまつわる記憶があれば、一つ教えてください。また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ