表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/93

第047話 枯木の影

立ち寄りありがとう。深呼吸をひとつ、今日の体と心を整えていこう。

更新は毎日11:00予定。無理なく、淡々と。

草耳の仕舞いを背に、道はさらに乾き、黒ずんだ枯木が十数本、肩を寄せ合って立っていた。枝は折れ、影だけが地に長く伸びている。“枯木の影”は旅人にとって避け場所であり、同時に目印でもあった。帆布は低く、荷は締めて。合図は指で足りる。

「塵なし。鏡なし。……木の匂いも薄い」カイが鼻で風を撫でる。

「舌は粉でも草でもない。今日は影そのもの」ライラが枝の伸びを測った。


 根元に腰掛ける男が一人。腰紐に藍はない。膝には砥石、脇に小刀。彼は折れた枝を削りながら顎で上を示した。

「枝が唄うと、夜に目を呼ぶ。折れ口を削って眠らせれば静かになる。……通るなら、一本だけ削ってくれ」

 ヴォルクは短く頷き、御者台の商人に視線を送る。「借りる腹は返す足で」

 バルドが折れ枝を押さえ、ライラが小刀を受け取って口を半手だけ斜めに削ぐ。木は低く軋み、やがて黙った。

「谷へ二、丘へ一。影は半手遅れで読む」男が囁く。

「覚えた」ライラは掌で切り口を押さえ、骨に角度を刻んだ。


 作業の間、ミーナは火を使わない。陽石を布で包んで木鉢に据え、胸の“旅酵たびこう”を指の腹だけ落として布袋の水を手のひら一杯。焙り麦の粉をひとつまみ、草の種を爪の先ほど。塩は影。香草は揉んで粉。

「“影守りのすすり”。湯気は立てない。温いで止める」

 酸の香りが短く跳ね、すぐ落ち着く。カイがひと口すすり、頬の力を落とした。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は目尻に笑みを置き、「歩幅を稼ぐ味だ」とだけ。


 枯木の影の根に、古い藍の点がかすかに残っていた。粒は細いが、木の粉で半分は読めない。代わりに、影の伸びと枝の向きが“話す”。

「粉の囁きは沈む。影の線で読む」ライラが地の影を撫でる。

「濡れ布の揺れ、なし。目は遠い」カイが肩を切る。「輪になる前に抜ける」


 男が砥石をミーナに差し出した。「小さくても熱を持つ石だ。器の底に敷けば、冷たさを殺せる」

「受け取ります。夜の息を長くする」ミーナが笑みを目尻に置き、砥石を布に包んだ。


 正午前、短い休止。火は使わず、“影守りの薄”を裂き、草の種を指で散らして押し戻す。香草は粉。塩は影。

「噛まずに舌で広げる。眠りが早く来る」ミーナが配る。

 バルドが頬に寝かせ、静かにうなずいた。


 午後、草の背がさらに低く、枯木が二本、影を細く伸ばす。角度は谷へ二、丘へ一。藍の点は見えない。

「耳も粉も影も仕舞い。次は石か水」ライラが呟く。

「歩幅は揃える」ヴォルクは隊列を二列に伸ばし、御者台へ親指を立てた。「合図は指で足りる」


 夕刻、枯木の影を背に帆布を張る。灯は一つ。影は増やさない。増やす必要のない夜だ。器の底に砥石を置き、息の薄を温いまで起こす。湯気は出ない。酸が喉を静かに撫で、胸の“種”が息を継いだ。

 御者台で商人が短く書く。「本日の勘定:枯木の唄止め、影守りの薄、砥石。歩幅、維持」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」ヴォルクの言葉に、影がやさしく揺れた。


 星が出る。枯木は黙り、道は前へ延びている。

読了感謝。ブクマ・評価が次の筆の燃料になります。

あなたの“眠りを助ける習慣”があれば一つ教えてください。また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ