第003話 廃村の灯
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北へ向かう道は、風が鋭さを増していた。頬を刺す冷気が、鎧の隙間から入り込む。
川沿いの林を抜けると、開けた土地に廃村が現れた。屋根の抜けた家々、崩れた土壁、朽ちた井戸。
「……人の気配はないな」
副団長ライラが視線を巡らせる。足跡も新しい焚き火跡もない。ただ、古い矢じりが地面に突き刺さったままになっていた。
団員たちは手分けして探索に入る。バルドが倒れた物置から薪の束を引きずり出し、ミーナは納屋で乾いた根菜を見つけた。
「カブと乾し魚、それに麦が少し……十分とは言えないけど」
彼女の声に、ヴォルクはうなずく。
「今日はこれで温かいものを作れ。夜は囲炉裏を使う」
廃屋の一つ、まだ屋根の残る家に陣を張る。囲炉裏の灰を払い、薪を組むと、乾いた音を立てて火が燃え上がった。
ミーナは鉄鍋を吊し、川の水を汲んで注ぐ。根菜を厚めに切り、麦と干し魚を加えると、鍋から白い湯気が立ちのぼった。
干し魚の塩気が湯に溶け、根菜の甘みと混ざり合う。ぐつぐつと煮える音が、冷え切った室内に心地よく響く。
ヴォルクは壁際に腰を下ろし、傷の具合を確かめている団員に声をかける。
「寒さはどうだ」
「骨まで冷えてましたが、もう平気です。匂いが……腹に沁みます」
火のそばでは、カイが鍋の中をじっと覗き込み、鼻をひくつかせた。
「これ、明日も作れるくらい残らないかな」
「残るほど作るには食材が足りないわ」
ミーナは笑いながら木匙で鍋を混ぜた。
やがて、スープが黄金色に透き通り、根菜が柔らかく崩れ始めた。
器によそい、口に運ぶ。まず、干し魚の出汁が舌を包み、その後に根菜の甘みが広がる。麦はやわらかく膨らみ、噛むたびにほのかな香りを放った。
冷えた体が、内側から少しずつ温まっていく。
「……戦がない夜は、こうして終わればいい」
カイがぽつりと呟く。ヴォルクは器を置き、短く答えた。
「戦わねば、この夜も続かない」
スープをすすりながら、団員たちは小声で笑い合う。湯気の向こうに、それぞれの表情がやわらいで見えた。
外では風が壁を叩き、屋根の隙間から星がのぞいている。
夜更け、見張りについたライラは、耳を澄ませた。
遠くで、馬の蹄の音がかすかに響く。冷たい風がその音を運び、消していった。
明日の空気に、戦の匂いが混じり始めていた。
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