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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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222/233

第222話 蒼聞の継ぎ目

訪問ありがとう。今日は少し静かな揺れ方を読む回です。派手さはないけど、こういう回も楽しんでもらえたら嬉しいです。

翌朝の風は少し乾いていた。


夜露が薄いぶん、広場の土も軽い。だが、こういう朝ほど人は気を抜く。昨日ひと山越えたと思った翌朝は、腹より先に気が緩むからだ。


だからガラムは、夜明け前に三本の棒を立てさせた。


今日は赤を南壁寄り。

灰を水場寄り。

茶を火場寄り。


昨日と同じ意味で、昨日と違う位置。

場に刻むのは順であって、場所そのものではない。その理屈を腹に落とさせるためだ。


受け取りが始まると、人の動きは昨日より滑らかだった。棒を見て、自分の位置を見て、前後の顔を確かめる。その流れ自体は悪くない。


だがガラムは、何人かの目が妙に早く逸れるのを見ていた。


話が回っている目だ。


しばらくして、水場寄りの列の後ろで若い男が隣へぼそりと漏らした。


「昨日の帳面、やっぱりこの中の誰かのらしいぞ」


小さい声だった。

だが、聞かせるための小ささだった。


ガラムはすぐには割り込まず、その周りを見る。誰が先に反応したか。誰が初耳ではない顔をしたか。


二人いた。

列の少し前の痩せた男と、桶運びを手伝う細目の女だ。


継ぎ目がある。


噂は空から落ちない。

誰かの口から誰かの口へ渡る。その継ぎ目が見えれば、焦りになる前で止められる。


ガラムは水場寄りへ歩いた。


「今の話、もう一度言え」


若い男が肩を跳ねさせる。


「え?」


「誰から聞いた」


周りが静まる。

責める声ではない。だから逃げにくい。


若い男は口ごもったあと、前の痩せた男を見た。

痩せた男はすぐ顔をしかめる。


「俺はただ、そういう話があるって――」


「誰から聞いた」


痩せた男の目が、水場の方へ流れる。

そこに細目の女がいた。


「私は洗い場で聞いただけだよ」


「誰から」


「……昨日の、あの女さ」


やはりそこか、とガラムは思った。


昨日、並びの食い違いを言い立てた中年女。

あの口が、今度は“聞いた話”の形で戻ってきたのだ。自分で見たとは言わない。聞いた、らしい、そういう話がある。その形に変えてあるぶん、昨日より厄介だった。


ガラムは三人を順に見た。


「今から戻す。聞いた順で言え」


細目の女が眉をひそめる。


「戻す?」


「そうだ。誰から、どこで、何を聞いた」


女は少し迷ってから言った。


「昨日の女から。洗い場の裏で。帳面は、たぶん中の者のだろうって」


「たぶん、か」


ガラムは次に痩せた男を見る。


「お前は」


「こいつから聞いた。中の誰かの物かもしれんって」


最後に若い男。


「お前は」


「……町から戻った奴が聞いたって、そう聞いた」


エドが低く息を吐いた。


「一つ増えたな」


その通りだった。

たぶん、が、かもしれん、になり、最後は“町から戻った奴が聞いた”にまで膨らんでいる。


ガラムは広場へ向き直る。


「これが口の食い違いだ。荷と同じで、人の手を渡るたびに勝手に形が増える」


薬草婆が鼻を鳴らした。


「腹より先に話が膨れるってわけかい」


「だから口にも順がいる」


ガラムは地面に短い線を三つ引いた。


一本目。

二本目。

三本目。


「誰から。どこで。何を。三つ揃わない話は、広場に持ち込まない」


細目の女が口を尖らせる。


「じゃあ何も喋るなってことかい」


「違う」


ガラムは即座に切った。


「喋るなら、継ぎ目をつけろってことだ」


その言葉は、思ったより静かに広場へ落ちた。


喋るな、では場が痩せる。

だが継ぎ目をつけろ、なら曖昧な話だけが太れなくなる。


列は再び動き出す。


赤、灰、茶。

棒の位置。

前後の顔。

そして、言葉の継ぎ目。


目に見えないものほど、順が要る。

見えないまま膨らめば、場を削るからだ。


ガラムは南壁の外へ目を向けた。

今日はまだ外は遠い。なら次は、もっと近い口を使ってくるかもしれない。


それでも構わない。


狼は腹で走る。

群れは順で持つ。

そして口は、継ぎ目を見失った時に一番腹を削る。


だから今日も、継ぎ目から逆に辿る。

切るためではない。

場を保つために。

最後まで読んでくれてありがとう。物だけじゃなく、言葉にも順がいるって感覚はやっぱり大事です。次も楽しんで下さい。

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