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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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141/205

第141話 蒼余の波紋

訪問ありがとう。結果は、静かに遅れて追いついてきます。

合流の刻を過ぎたあと、丘の空気は何事もなかったかのようにほどけた。

 風は同じ向きに吹き、草は同じ高さで揺れている。

 だが、世界の底で、静かな波が広がり始めていた。“蒼余そうよの波紋”。


 取引は終わった。

 確認も、再交渉もない。

 それでも結果は、必ず遅れて現れる。

 水面に石を投げたあとの、見えない輪のように。


「塵なし。鏡なし。……音が戻ってきた」

 カイは街道の方角を一度だけ見て、視線を落とす。

「刻は越えた。今日は余が舌」

 ライラは風下の気配を測り、拍が乱れていないことを確かめた。


 丘を下り、街道に合流すると、人の流れが確実に増えていた。

 朝の便、急ぎの荷、昨夜の噂を運ぶ足。

 誰も合流の話はしない。

 だが、速度だけが、わずかに変わっている。


「借りる腹は返す足で」

 ヴォルクは歩幅を一定に保ち、隊を街道の縁へ寄せる。

 中心を歩かない。

 余波は、縁から伝わる。


 すれ違った商人が、視線を一度だけ送る。

 問いはない。

 だが、荷の位置を確かめる目だ。


 ミーナは火を使わない。

 黒石を布に包み、木鉢を据え、布袋の水をひとすくい。

 “旅酵たびこう”を指の腹だけ落とす。

 焙り麦をひとつまみ、合片粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。


「“余守りのすすり”。湯気は出さず、温いで止める」


 酸はほとんど主張しない。

 だが、飲めばわかる。

 身体の奥で、重心がわずかに安定する。


 カイがすすり、肩の力を抜く。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は帳面を開かず、街道の標石を一つだけ数えた。


 昼前、道端の水場で短い停留。

 そこにはすでに、別の隊がいた。

 彼らは荷を下ろさず、互いを見ない。

 だが、同じ方向を向いている。


「早いな」

 バルドが小さく言う。

「余波は、走る」

 ライラは即答する。


 水場の石に、昨日はなかった刻印がある。

 浅いが、新しい。

 合流の結果が、すでに“形”を取り始めている証だ。


 遠い肩で、黒い点が一度だけ揺れ、すぐ消えた。

 鏡ではない。濡れ布でもない。

 目はいるが、舌は遠い。


「余は広がる」

 ライラが告げる。

「なら、先に行く」

 ヴォルクは立ち止まらない。


 街道は緩やかに曲がり、次の標石が見え始める。

 そこから先は、税と規則の匂いが濃くなる場所だ。


 御者台で商人が短く記す。

「本日の勘定:蒼余の波紋、街道変化。反応あり」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」

 ヴォルクの言葉に、波紋はさらに遠くへ広がっていった。


 結果は、まだ表に出ない。

 だが、もう止まらない。

 旅は次の“評価”へ向かって進み始めていた。

最後まで読んでくれてありがとう。何かが変わったと感じた瞬間があれば、それも物語の一部です。

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