表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

127/191

第127話 蒼風の変層

深呼吸をひとつ。流れが変わる地点は、歩みを洗い直す合図。

蒼層の中腹をさらに進むと、風の向きが変わった。

 強さではない。温度でもない。

 “流れ”そのものが、斜面に沿って横へ折れ曲がる。“蒼風そうふうの変層”。

 足場は安定しているのに、歩幅だけがわずかに狂う。山が、別の呼吸を始めた合図だった。


「塵なし。鏡なし。……風が横から押す」カイが肩を落として体を流れに合わせる。

「層は越えた。今日は風が舌」ライラが外套の端をつまみ、風の拍を測った。一定だが、周期が短い。


 変層の要に、淡蒼の外套をまとった“風守ふうもり”が立っていた。

 腰紐に藍はない。掌には、薄く湾曲した“風核ふうかく”。


「ここは風が層を横切る地点。

 逆らえば奪われ、乗せれば進む。

 ……通るなら、この核を“向けて持て”」


 ヴォルクが短くうなずく。「借りる腹は返す足で」

 ライラは風核を受け取り、風上ではなく“斜め下流”へ向けて構える。

 核は抵抗を失い、拍が一段軽くなった。


「谷へ二、丘へ一。向けは半手で」

「覚えた」

 風守は頷かず、ただ流れを示す。


 ミーナは火を使わない。

 黒石を布に包み、木鉢を据え、布袋の水をひとすくい。“旅酵たびこう”を指の腹だけ落とす。

 焙り麦をひとつまみ、層片粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。


「“風守りのすすり”。湯気は出さず、温いで止める」


 酸が短く跳ね、空気の軽さが鼻に抜ける。

 カイがすすり、胸の可動が広がる。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は風の線を指で追う。「歩幅を稼ぐ味だ」


 変層の道には、藍の点が“斜線”となって連なっていた。

「粉の囁きは沈む。舌は風」ライラが斜線の拍を拾う。

「濡れ布の揺れなし。目は遠い」カイが肩を切る。「輪になる前に抜ける」


 風守が薄い“風片ふうへん”をミーナへ渡す。

「器に沈めれば、味が流れを助ける」

「受け取ります。層片と重ねます」ミーナが包み込む。


 正午前、岩陰で休止する。

 火は使わず、“風守りの薄”を裂き、風粉を押し戻す。香草は粉。塩は影。

「噛まずに舌で広げる。体が流れに乗ります」ミーナが配る。

 バルドは歩幅を半拍だけ調整し、隊列を維持した。


 午後、風の向きが再び縦へ戻るころ──

 遠い肩で黒い点が一度だけ揺れ、すぐ消えた。

 鏡ではない。濡れ布でもない。

 目はいるが、舌は遠い。


「風は眠った。耳は届かない」ライラが告げる。

「良い。変層を越えた」

 ヴォルクは二列を保ち、御者台へ親指を立てる。「合図は指で足りる」


 夕刻、蒼風の変層を背に帆布を張る。灯は一つ。影は増やさず、必要のない夜。

器に風片を沈め、“薄り”を温いまで起こす。湯気は立たず、酸が胸の奥で流れを整えた。


 御者台で商人が短く記す。「本日の勘定:蒼風の変層、向け持ち、風片。歩幅、維持」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」

 ヴォルクの声に、風が一度だけ応えた。


 星が出る。

流れは戻り、山は次の“峠”を静かに差し出していた。

読了感謝。横風に身を預けた記憶があれば、そっと教えてください。また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ