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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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第126話 蒼層の中腹

深呼吸をひとつ。中腹は“選択と整理”の章。

蒼嶺の初登を越えると、山は姿を変えた。

 傾きは緩み、道は細く、しかし確かに“層”として積み重なっている。“蒼層そうそうの中腹”。

 空気は冷えすぎず、風は強すぎない。ただ、重さだけが均等にかかる。


「塵なし。鏡なし。……山が段を刻んでる」カイが足場を確かめる。

「初登は終わった。今日は層が舌」ライラが岩肌を撫でる。指先に、重なった拍が返った。


 中腹の平場に、層と同じ色の外套をまとった“層守そうもり”が座していた。

 腰紐に藍はない。掌には、薄く重なった“層核そうかく”。


「ここは層が重なり、歩みが試される場所。

 一段ごとに、余分を落とし、必要だけを残す。

 ……通るなら、この核を“選んで持て”」


 層守は核をふたつに割る。

 ひとつは重い。ひとつは軽い。

 ヴォルクが短く言う。「借りる腹は返す足で」

 ライラは迷わず“重い方”を選び、バルドへ渡した。

 軽い方は、層守の掌へ戻る。


「谷へ二、丘へ一。選びは半手で」

「覚えた」

 その瞬間、層がひとつ、静かに締まった。


 ミーナは火を使わない。

 黒石を布に包み、木鉢に据え、布袋の水をひとすくい。“旅酵たびこう”を指の腹だけ落とす。

 焙り麦をひとつまみ、嶺片粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。


「“層守りのすすり”。湯気は出さず、温いで止める」


 酸が穏やかに跳ね、冷気と重さがほどよく混ざる。

 カイがすすり、背骨がまっすぐになる。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は層の影を測りながら言う。「歩幅を稼ぐ味だ」


 中腹の地には、藍の点が“層線”として水平に並んでいた。

「粉の囁きは沈む。舌は層」ライラが線をなぞる。

「濡れ布の揺れなし。目は遠い」カイが肩を切る。「輪になる前に抜ける」


 層守が薄い“層片そうへん”をミーナへ渡す。

「器に沈めれば、味が安定する」

「受け取ります。嶺片と重ねます」ミーナが包み込む。


 正午前、中腹の岩陰で休止する。

 火は使わず、“層守りの薄”を裂き、層粉を押し戻す。香草は粉。塩は影。

「噛まずに舌で広げる。体が段に馴染みます」ミーナが配る。

 バルドは重い核を背負い直し、呼吸を整えた。


 午後、層がさらに一段上へ続くころ──

 遠い肩で黒い点が一度だけ揺れ、すぐ消えた。

 鏡ではない。濡れ布でもない。

 目はいるが、舌は遠い。


「層は眠った。耳は届かない」ライラが告げる。

「良い。中腹を越える」

 ヴォルクは隊を二列に整え、御者台へ親指を立てる。「合図は指で足りる」


 夕刻、蒼層の中腹に帆布を張る。灯は一つ。影は増やさず、必要のない夜。

器に層片を沈め、“薄り”を温いまで起こす。湯気は立たず、酸が胸の奥で静かに支えた。


 御者台で商人が短く記す。「本日の勘定:蒼層の中腹、核選び、層片。歩幅、維持」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」

 ヴォルクの声に、層がひとつ低く応えた。


 星が出る。

層は続き、山はまだ“核心”を見せていなかった。

読了感謝。登りの途中で何かを手放した記憶があれば、そっと教えてください。また明日。

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