表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/177

第118話 蒼途の広場

深呼吸をひとつ。“形になる前の道”は、旅の転調が始まる場所だよ。

蒼陸の段を下り切ると、前方がふわりと開けた。木々でも草でもない、ひらけた“空間”がぽっかりと道の上に乗っている。“蒼途そうとの広場”。

 広場と呼ぶには静かすぎ、道と呼ぶには形が曖昧。

 土は薄く、風は弱く、しかし“道が息を吸い、吐く”ような拍だけが確かにあった。


「塵なし。鏡なし。……地面が軽いな」カイが足裏の沈みを確かめる。

「陸も縁も過ぎた。今日はみちが舌」ライラが膝をつき、土の振動を聞く。深くもなく浅くもなく、まるで“これから始まる形”を探しているような拍。


 広場の中心には、淡い土色の衣を纏った“途守としゅ”が立っていた。

 腰紐に藍はない。掌には、まだ形になりきらない“途核とかく”がひとつ。


「ここは道が形を変え続ける地。

 歩幅の整いを受け取り、その先の“姿”を決める。

 ……通るなら、この核にひと息を添えよ」


 ヴォルクは静かにうなずき、御者台の商人を見やる。「借りる腹は返す足で」

 バルドが途核を受け取り、ライラが掌で包むようにしてひと息を吹き込む。

 核は淡く光り、広場の拍がひとつ揃った。


「谷へ二、丘へ一。添えは半手で」途守が告げる。

「覚えた」ライラはその揃いを骨に刻んだ。


 ミーナは火を使わない。いつものように黒石を布に包み、木鉢を据え、布袋の水をひとすくい。“旅酵たびこう”を指の腹だけ落とす。

 焙り麦の粉をひとつまみ、陸片粉を爪の先だけ。塩は影。香草は粉。


「“途守りのすすり”。湯気は出さず、温いで止める」


 酸が短く跳ね、土と空気が混じる軽い香りが広がる。

 カイがすすり、胸の中央がゆっくり整う。「軽いのに、腹に柱が立つ」

 商人は何かを測るように地面の揺れを見つめる。「歩幅を稼ぐ味だ」


 広場には藍の点がほとんどなく、代わりに“未熟な線”が道の中心をうっすら描いていた。

「粉の囁きは沈む。舌は途」ライラが線を指でなぞる。

「濡れ布の揺れなし。目は遠い」カイが肩を切る。「輪になる前に抜ける」


 途守が淡い“途片とへん”をミーナに渡す。

「器に沈めれば、味がひらきはじめる」

「受け取ります。陸片と重ねます」ミーナが丁寧に包んだ。


 正午前、広場の影で休止をとる。

 火は使わず、“途守りの薄”を裂き、途粉を押し戻す。香草は粉。塩は影。

「噛まずに舌で広げる。胸がゆっくり歩きはじめます」ミーナが配る。

バルドは広場の拍に耳を傾けながら深く呼吸した。


 午後、未熟だった線がすこし濃くなり、広場が“次の道”へ伸びはじめたころ──

 遠い肩で黒い点が一度だけ揺れ、すぐ消えた。

 鏡ではない。濡れ布でもない。

 目はいるが、舌は遠い。


「途は眠った。耳は届かない」ライラが静かに告げる。

「良い。歩幅は揃える」

ヴォルクは二列に整え、御者台へ親指を立てる。「合図は指で足りる」


 夕刻、蒼途の広場を背に帆布を張る。灯は一つ。影は増やさず、必要のない夜。

器に途片を沈め、“薄り”を温いまで起こす。湯気は立たず、酸が胸の奥にやさしく広がった。


 御者台で商人が短く記す。「本日の勘定:蒼途の広場、息添え、途片。歩幅、維持」

「紙は腹にならないが、腹は紙を運ばせる」ヴォルクの言葉に、地面がひとつ軽く震えた。


 星が出る。

途は眠り、次の景色が静かにその輪郭を結びはじめていた。

読了感謝。まだ形の定まらない道の感触に覚えがあれば、教えてください。また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ