第二羽 be afraid Part1
こちら2話Part 1です!楽しんでください
「よし!無事着いたわね!」
「うん。君はね。僕は3回死にかけた。」
僕は1話で力を使いこなす魔法少女じゃないんだ。あの一瞬でコツなんか掴めないね。
「はぁ~!やっぱ地上はいいわね!欲と不安にまみれてるわ!」
「…ところでさ、ここ何処か知ってる?」
実は僕たち、今とあるお屋敷の植え込みに突っ込んじゃってるんだよね。不法侵入は良くない。
「さあ?でもここに救済すべき人がいるはずよ。レーダーが反応してるわ!」
「そんなモノあるのか…何でもアリだね、君たち。」
確かにレーダーとやらはここを指していた。
「ま、とりあえず中に入れてもらいましょ。」
「何言ってんの!?今不法侵入中だよ!?とりあえず出ようよ!僕は詐欺以外の犯罪に手を染める気はないんだ!!」
僕は仕事熱心なラファエルを引っ張って半ば強引に屋敷内から出た。
「ハァ…それにしてもすごい屋敷だね。誰の家…」
…門をくぐり、表札…いや、看板を見て背筋が凍りついた。
「んー?何固まってんのよ。もしかして読めないワケ?子供ねぇ…。なになに?…【氷龍会】…?子ども会か何かかしら?」
「…メルヘンな発想だね。でもね、天使さん。ここはそんなほのぼのしてないよ。」
「だってここは裏社会最強のヤクザ集団、氷龍会の根城だからね。」
「へぇ。どんなことするの?その人たちって。」
…流石天使。ヤクザを知らない。
「一応説明しておくね。彼らにユスられた人間はまず、家族を失う。」
「ふんふん。」
「そしたら次は仕事を失う。そして最後に命を奪う。」
「へえ…」
「じわじわと、凍えさせ、雪崩みたいに一気に崩す。これが仕事。…ま、噂だけ——」
「面白いじゃない!!ますます助けがいあるわ!!」
「本当に怖いもの知らずなんだね、君。」
思わず呆れて皮肉も言えなかった。
「さ、帰ろうか、ラファエル。」
「は?何でよ。ここに迷える子羊がいるのよ?」
「そんな羊何処にでもいるじゃないか!!ここは危険だ。天才詐欺師とクソガキが来ていい場所じゃない!」
「誰がクソガキよ!?てか、君!生き返りたいんじゃないの!?」
「そりゃあね。でもさ、急ぐ必要はないよ。のんびり、それこそスローライフって感じで———」
「一カ月以内に規定ポイント集めないと死ぬわよ、君。」
……はい?
目の前がホワイトアウトしていく。
そんな制度説明してた?
「あら、言ってなかったかしら?ごめんごめん。」
「…ちなみに…何ポイントいるの?」
「10億4000万。テンシね。」
悪魔みたいな額でしょ。これ。ホントに更生させる気ある?
「ちなみに全人類を救えば3億はいくわよ。頑張ってね。」
「たった3億!?おいおい、3回半も地球を救える奴なんて、野菜の名前の戦闘民族しかいないんだよ…」
そんな絶望的状況を聞かされた矢先、もっと絶望的なことが起こった。
「…テメェら。ここで何してんだ?あぁ?」
ヤクザさんたちのご帰宅。しかも屋敷の前に何台も真っ黒な車が停車し始めた。そして僕らを鮮やかな速さで取り囲む…流石の僕でも足が凍った。
「あら、ここの屋敷の人かしら?ええと…私、氷川零士?って人に話があるんだけど。」
ラファエルの口から意外な人物の名前が出た。氷川零士。氷龍会の組頭の息子で、先月亡くなった父に代わって氷龍会の五代目組頭となった若きギャングスター。性格はtheヤクザってカンジらしい。怖いね。
「…うちの頭に何の用だ?お嬢ちゃん。」
やたら高圧的な態度でラファエルに詰め寄る。
「おーい!!ちょっとぉ!!!氷川零士!!いるんでしょ!?レーダーが反応してるわよ!!」
チンピラをフル無視して叫ぶ。
「気安く呼ぶんじゃねえ!!…まさかテメェ…【紅龍会】の回し者じゃねえだろうなぁ!?」
紅龍会。氷龍会と双璧をなすヤクザグループ。どうやら代替わりで不安定な氷龍会を揺さぶってるみたい。彼らの気が立ってるのも納得だ。
「はぁ?それも子ども会?私は天——」
「騒がしいなぁ?テメェらぁ。」
威圧。物凄い威圧。こんなに重い声、生まれて初めて聞いたよ。空気が凍てつく。耳に霜柱が走ったみたいだ。一際綺麗な車から男が降りてきた。スーツの下からでも分かる引き締まった身体、薄いグレーのサングラス、そして血で染めたみたいに真っ赤に燃える紅蓮髪の——
「俺が氷川零士だぁ。」
「あら、やっと出てきてくれたわね。氷川零士。」
「…俺に何の用だぁ?可愛いスーツのお嬢ちゃん?」
やばい。メチャクチャ怒ってる。心なしか彼の赫髪が揺らいで見える。
「君を助けにきたのよ!さあ、魂を穢す前に…ええと、やくざ?から足を洗いなさい!」
「…5秒やる。俺の前から消えてくれぇ…」
氷川零士はさながら、空中から獲物を品定する猛禽類のような冷たい眼でラファエルを見下ろしていた。
それじゃ、お言葉に甘えて…
「嫌よ。君を助けるのが私の仕事なんだから!」
彼女は悪戯な笑みを浮かべそう返答した。
「あのぉ!!ラファエルさんッ!?」
「…カウントは0だ…恨むなよぉっ!!」
零士は上半身を捻り上げ、爪先でアスファルトにヒビが入りそうなくらい踏ん張り、握り締めた拳をラファエルの顔面に放った。そのスピードはさながら、カタパルトみたいだったよね。
…次は僕の番、みたいだ——
「…やるじゃない、人間の割に。」
僕はラファエルの後ろに隠れてたから、何でヤクザさんたちがどよめいてるのか、何で零士が動揺しているのか全く分からなかった。ラファエルの正面に回ってみて、彼らの心持ちを把握した。そりゃ驚く。
「これだから、人間は面白いのよ。」
ラファエルはチョキの指で零士のパンチを挟み受けていた。チョキじゃ普通は負けだけど、この時は不思議と、彼女が負けてる気はしなかった。