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甘夏ゼリー

作者: 執行 太樹

私は、結婚して2年めになる妻がいる。

私は、ゴールデンウィークの休みに、妻をドライブに誘った。





 妻と、ドライブに出掛けた。

 ゴールデンウィークの中日なかびだった。朝から、暖かい日だった。私たちは、高速道路を走っていた。

 ちょっと、ゆっくりしに行こうか。そう妻に提案した。妻は、そうだね、と賛成してくれた。


 妻とは、結婚して2年めになる。

 私たちは、今から5年前に職場で出会った。彼女は、よく働く人だった。周りから頼まれた多くの仕事を、嫌な顔もせずに引き受け、その全ての仕事を一生懸命こなしていた。そんな忙しい中でも、周りの人への気遣いを怠らなかった。

 彼女は、優しい人だった。私は、そんな彼女に惹かれた。

 出会ってから1年後、私の方から彼女に好意を伝えた。彼女は、初めは戸惑いながらも、少しずつ受け入れてくれた。付き合ってからちょうど2年めに、彼女にプロポーズした。彼女は泣きながら笑ってくれた。


 車を1時間ほど走らせると、郊外にある小高こだかい山のふもとに着いた。この山上に、小さな神社がある。妻と、たびたび訪れたことのある場所だった。

 神社までは、ケーブルカーで行くことができる。だが、良い天気だったので、私たちは歩いて上ることにした。

 神社までの道中は、木々に囲まれた遊歩道となっていた。私と妻は、森林浴をしながら参道を歩いた。木陰こかげの中を歩くと、ひんやりして気持ちよかった。野鳥たちの会話を聞きながら、神社に向かった。

 神社に着いた。手水舎ちょうずやで清めてから、私たちは境内に入った。木漏れ日を浴びた本殿が、荘厳そうごんに映っていた。参拝客はまばらで、とても静かだった。玉砂利を踏む音だけが響いていた。

 本殿に向かい、私たちは並んでお賽銭をした。本坪鈴ほんつぼすずを鳴らし、手を合わせた。私が目を開けると、妻はまだ手を合わせていた。

 少し休憩しようと私は言った。そして、境内のすみにあるベンチに、並んで座った。

「あらっ」

 不意に妻が言った。

 私が妻の視線の先に目をやると、1匹の柴犬がいた。住職にお世話をしてもらっているのか、整った毛並みの柴犬だった。

 向こうも私たちを見つけてか、すたすたと近寄ってきた。

「おー、よしよし」

 妻は、足元に来た柴犬を撫でてやった。柴犬は、気持ち良さそうな顔をしていた。私たちは、笑った。


 麓に下りた後、私たちは山の近くにあるカフェに立ち寄り、昼食をった。

 ログハウスのような様式の店で、店内にはボサノヴァの音色が控えめに流れていた。私はピザを、妻はパスタを頼んだ。

 開けっ放しにされた窓から、時折涼しい風が舞い込んできた。私たちは、しばし時間を忘れて、カフェでゆっくり過ごした。


「楽しかったね」

 帰りの車の中で、私は妻に話しかけた。

「うん、楽しかったね」

 妻は、そう応えた。

 平和な1日だった。

 今、目の前にある時間を、大切にしようと思った。

「大丈夫。焦らずに、ゆっくり行こう」

 私は言った。

「うん、ありがとう」

 妻は少しうつむいて、そう言った。


 帰りの高速道路で、途中サービスエリアに寄った。

 2人でバラバラに、お土産コーナーを見て回った。

 ある場所で、妻が立ち止まっているのを見つけた。私は妻の所に向かった。

「ねぇ。これ、何て書いてあるの?」

 妻は私を見つけるなり、聞いてきた。私は、妻が指差した方を見た。商品の前に置かれた小さなプレートに、″車厘″という漢字が書かれていた。

「ちょっと解らないな」

 だよねと妻は応え、スマートフォンを取り出した。読み方を調べている。

「へぇー。車厘と書いて、ゼリーって読むんだって」

 2人で、ふーんとうなずいた。せっかくだからと、私と妻はゼリーを食べることにした。甘夏の入ったものを2つ選んだ。

 フードコートに行き、空いている席を見つけた。私は妻と対面に座り、ゼリーを食べた。疲れた体に、程よい甘酸っぱさが心地よかった。

 私は目を大きく開いて、美味しい表情をした。妻は、スプーンを口にくわえながら、子どものように無邪気に笑っていた。






お読みくださり、ありがとうございます。


ご感想等ありましたら、よろしくお願いします。

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