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#08 旅行

 祭りの後、俺は答えを出すまでに一週間の猶予を貰った。

 夢を選ぶか、先輩を選ぶか。


 今日は月曜日。

 本来ならバイトに行かなくてはならないのだが、「彼女と祭りに行って風邪を貰って来ました」という嘘で一週間丸々休みを取った。


 今まで彼女が居た気配すら見せなかった男がいきなりそんな連絡を寄越した物だから、最初は電話越しでも分かる程に半信半疑と言った風だったが、俺の名演技と電話越しに僅かに聞こえる先輩の声が信憑性を持たせてくれた。


 交際をしている訳では無いが、祭りに行ったのは本当の事。

 嘘には本当の事を混ぜて吐くのが定石だ。


「どう?お休みは取れたかしら?」


「ええ、大丈夫です。それで、なんですけど――」


 俺はこの与えられた一週間の猶予期間、やろうと思っている事が有った。

 この為の一時保留という選択。


 それだけの期間が有れば、ある程度の事は可能だろう。

 それこそ金銭面の限界が来るまで。


「先輩。旅行、行きませんか?」


「旅行?」


「はい。前に話しましたよね、趣味の話をした時に、偶に旅行に行くって」


 何故俺が突然旅行へ行こうと言い出したのか、思案していたのだろう。

 先輩は一拍置いたあと、やっと得心がいった様子で一言「ああ」と漏らしてから、


「そうだったわね。つまり、その旅行の間に、わたしはキミにアピールすればいいのね?いいわよ、どこへでも行きましょう。」


「アピールなんて、俺は十年も前から高橋先輩に惚れてるんですよ」


「でも、迷っているのよね?――わたしを選ぶか、それとも夢を選ぶか」


 それは言い換えるならば、世界を選ぶか、己がエゴを通すか。

 胸の奥がちくりと痛む。


「ええ、そうですね。先輩の事は好きです、それは本心です、十年経った今でも忘れられていない程には。でも――いや、だからこその、ですよ」


「ふふっ。ええ、そうね。それで、どこへ行くのかしら?」


「行ける所まで、どこまでもです」


 俺の計画、それはこの一週間の猶予期間、俺が選択をするその瞬間までの時間、その中で可能な限り多くの時間を高橋先輩と過ごす事だ。


 行先なんて決まっていない、着の身着のまま気の行くままに、ふらりふらりと旅をする。

 二人で共に時間を過ごす。


 善は急げだ。

 旅行鞄に着替え等最低限必要な物だけを詰め込み、なるべく身軽な荷作りを行い、部屋を出る。


「いってきます」


 誰に言う訳でも無く、無人の部屋へ向かってそう呟く。


 二人が出掛けて行った後のがらんとした部屋。

 残されたのは布団の乱れたベッド、本棚とそこから溢れた本の山、薄い座布団、ローテーブル。

 そして、そのテーブルの上には、ノートパソコン。

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