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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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エピローグ

「おいしい」

 栄養ドリンクを飲み干したフォニーは一人笑みを浮かべた。

 フォニーの精力補給源はベータのみでおおむね落ち着いているが、宴会で魔族一同に評判だったため、味と性能向上目的で時々飲んでいる。

 もちろん、そんな代物を人間界で作っていることは極秘だが。

 あれから2年。

 店は相変わらず流行っていないが、フォニーは薬作りの内職やら魔力の提供やらをするようになり、草むしり士ではなく薬屋の戦力となっていた。

 今日はベータの留守番で、ゴミ回収業者が来る予定。

 なお、相変わらず、ベータはシャイなまま。

 ベータのほうにはフォニーが考えていることがある程度筒抜けだが、相手がテンパっていて頭の中で言葉にもなっていないときは伝わっていないこともあると判明。

 それであの日とかは…と色々思い至った。

 そんな事情もあって、実のところ日中帯の接触はほとんど最初に住んでいたころと変わっていないという…。

 もう少し前に侵入したときのあの夢の再現のようにテンプレな同棲が出来たらいいのにと思うもののそこは自業自得。

 同居再開後三か月にして、フォニーがうっかりそのことを思い出しながら食卓に着いたことによって過去二回の乱行——ベータの夢に侵入——がばれたことにより、頑なに拒否されるようになった。

 ま、通常の反応である。というか三か月バレなかったのが奇跡といえる。

—————でももうちょいイチャついたっていいじゃんよ。

 わざとイチャツキを具体的に想像しながらベータの背後から近づくと、びくびくと後ろを見ながら振り返るが、耳まで赤黒いのだ。

 ぶっちゃけてしまうと、二年経過し、やることは一通りやっている。それでも日中帯はこんなん。

—————夜はもうちょいアグレッシブなのはやっぱり魔族ハーフだから?

 思い出してニヤついていると、業者が裏口にやってきた。出てきたフォニーに、

「よっ、三年目の浮気は大丈夫?」

 フォニーは業者の後頭部をソフトタッチで軽~くしばいた。魔族の『軽く』は人間にはだいぶ堪えたようだ。

 フォニーの存在を知っているのはクレアとこの業者の男に加え、あの宴会の関係者の一部だけに抑えることができていた。

 ちなみにゴーゴルは王宮魔法師の女の尻に完全に敷かれていた。昨年は宴会終わりに酒を飲み過ぎた女を甲斐甲斐しく介抱している姿を見せつけている。

 本当に何があるかわからないものだ。

 魔王——お義父様って呼んでいいよ、って本人からウキウキで言われたけど呼べないでいる——マルタンやらデミダスやら含め、他の魔界面々は相変わらずで、ここ二年特に魔界の勢力図も人間界の勢力図も大きく変わっていない。平和で何よりだ。

 クレアの孤児院には昨日行ってきた。去年ここで育った子のうち二人が働き始め、孤児院を去ったが、たまに遊びに来ているらしい。

 フォニーとはニアミスしないようにしている。思春期の男の子は特にだ。

 そういう時期の男の子がフォニーをじっと見ているのを見つけたベータが、フォニーまでの視線を睨みつけ、何かつぶやいているのを見て慌ててベータに駆け寄って、ベータが術を掛けるのを止めたことがあったから。

—————そんなこともあったわね。

「しみじみしちゃって、どーしたの」

「思い出思い出してる」

「同棲中幸せいっぱいのあなた様にそのようなお暇おありで?」

 フォニーはにんまりした。

「ないけど、ある!」

 ゴミ収集業者は全てのごみを回収しきったところで『ごちそーさーん』といいながら立ち去った。

「ただいま」

 入れ替わりで帰ってきたのはベータ。店のドアをあけ、カウンターに回り込む。

 あの汚いローブを身にまとっていたが、鞄をカウンターに置くとそれを脱ぎ、後ろのあたりの壁のフックに掛けた。

「おかえり」

 一度白シャツで孤児院に向かったら、偶々孤児院前に来ていた何かの売り込みの女——そう、女だ。くそむかつく。ベータに声かける見知らぬ女なんてどいつもこいつも百回ほど死んで魔界の塵と消えればいい——が声をかけてきたそうなので、白シャツはこの家の中だけにしてくれと懇願している。

 ティーンエイジャーを脱しているわけで、これからはもうちょっと中身の発達が伴うことを鑑みると、ああいう小虫どもが寄り付かないようにするのはフォニーの腕が試される。

 これまでやったことがないのでなかなか難しいが。

 ベータが鞄から荷物を取り出している。

 見慣れた瓶。外側に緩衝材を巻きに巻いた状態。

「今年の?」

 フォニーはベータを見上げる。

「ああ」

 ラベルを見なくても中身はわかった。

 今年もまたマンドラゴラ一〇〇の季節がやってくる。

 ベータはフォニーを見て、じっと見て、なにか迷っていた。

 フォニーはベータの手元と瓶を見た。

 瓶の陰に何かある。茶色の包み紙に入っていてリボンがついている。

「これ、開けていい?」

 ベータは顔を背け、黙って頷いた。首筋を揉んでいる。

 照れている姿を見てフォニーはニヤつき、包み紙を開けると、花のポプリだった。前のと違う奴。いい香りが漂う。

「ありが…んっ」

 ベータの唇が軽くフォニーの唇に触れると、ベータはそのままマンドラゴラ一〇〇を棚の奥に仕舞っている。

 仕舞った後、ベータは床とドアとカウンターとフォニーを見た。

 多分フォニーと同じことを思い出しているのだろう。

 だって今日は二人が出会った記念の日なのだから。

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