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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 人間界への入り口をくぐった先は森。

 ベータと暮らしていた時も行き来していた森で、洗濯したり体を洗ったりしていた川のそば。

—————別にその前からずっと使ってたのに、なんで、アタシ、

 と思ったところでガサガサとウサギが飛び出してきたので、その向こうの、人が出てきそうなところから離れた。

 人は出てこなかった。

—————なーんだ。

 知った顔だったらどうしようと一瞬焦った時間を返してほしい気持ち。

 来たところだし、そのままもう街に遠征したほうがいい。

 人間界は夕暮れ時。仕事初めに程よい時間。

 暗くなり、視界が悪くなり、細い細い三日月が覗き始めている。

 飛び立ち、街の屋根を物色してみるか。

 この前行ったホテルはやめておこう。趣味変した大富豪んとこは験が悪い。

 あのあたりの住宅に、随分前だが男の子がいた記憶。もうそろそろ思春期に入っているのでは?

 黒い屋根の下にソロっと入り込む。男の子から男の人の間辺りの、丁度フォニーの主力となりえる年齢層の少年が居るのが見えた。

 他によい家がないかをひと通り回っていく。

 途中、夜勤だったのか休憩中なのか、守衛服のままベッドに横になって眠っている男を発見。

 さっきの少年を置いて、こちらでも少し頂くとしよう。

 鼻提灯を作って眠りこけているので、何の心配もいらなさそう。

 手慣れた手順で夢の中に入っていく。いつもより夢までの道のりが短かったのは、眠りが浅いからだろう。

—————早いとこ片付けないと。

 男は二人の間に挟まれていた。

 一人は男。中肉中背で、色々な職場や町に、何人かいそうな顔。

 もう一人は女。こちらも中肉中背で以下略。

「で、私とのこと、どうするの?」

 当の本人である真ん中の男は、まず女に詰め寄られていた。

 でもなんだか嬉しそう。

「僕とのことは?」

 男にも同じセリフで詰め寄られていた。

 両方が、真ん中の男のそれぞれの腕を両腕でホールドしている。

 真ん中の男は明らかに精力を発散しながらへにゃりと笑うと、

「じゃ、二人とも大事にするよ!」

 両脇の二人はやったぁ! ほんとに! と悦びの声を上げている。このあたりが現実にはあり得ない本人にとってだけ都合がいい夢ポイントだ。

「他にも居たら、みんな一緒に大事にするよ!」

 フォニーは瞬時に悟った。真ん中の男は、

—————バイセクシャル&ハーレム願望ありということね。

 じゃ、フォニーが割り込む隙はあるか。

「アタシも混ぜて!」

 前にででんっと登場したところ、

「あー、ごめんタイプじゃないから」

 三人は固まるフォニーを尻目にそそそっと向かいの建物に消えて行った。

 バタンと閉まった扉。その部屋の中に場面展開する前に、さっさとフォニーは退出することにした。

 こういう時に長居すると本人が起きることがあるし。

 と、言い訳をしながらその家を離れると、いきなり思い切り失敗したことのダメージが広がっていく。

 さらにもう一件、もう一件と通っていくが、胸を見て失笑する男、彼女に一途、性欲が薄いなどなど。

—————ぜんっぜん引っかからないじゃない。

 どういうことだろう。

 あの宴会直後に超狩れたのはラッキーなだけだったのか。

 夜も更け、深夜過ぎてきた。

 もうあの少年のところに戻ってもいい時間。そうしよう。

 もどっていくと、深夜三時。眠っているようだが。

—————今さっきまで起きてた感。

 若者の夜更かしといえば性欲過多と相場は決まっている。

 一押し出来るだろうか。もう何も残っていない可能性もあるが。

—————あたって砕けるしかないか。

 頭の中に入っていくと、奉公先のようだ。

 帰り道だろうか。若いメイド姿の女。歳は同じくらいに見える。

—————キタ! 胸が小さい!

 じゃ、上手いこと取り入るとかもできるかも。

 男は手を取ろうとするが、思い切り引っ叩かれていた。

「キモイ!」

 ぶっちゃけ、顔は確かにいまいちだが、ベータと比較すると清潔感もあり、マトモだと思うが。

 涙目で歯を食いしばり、その女の腕を思い切り掴み上げ、壁に押し付けた。

—————お、こりゃダメだ。ちょっと割って入ろう。

 犯罪の香りを感じた。夢の中でも、青少年の心に傷が残るのはいたたまれない。

「おにーさんー!」

 男は後ろを振り返る。

 フォニーを見る。

「アタシじゃ、だめ?」

「違う! 君じゃないから!」

「でも、もういないよ? 向かいの子」

 さっきまで腕をつかんでいた女は消えていた。

 夢でも、残虐なものはあまり長く見て居たくないものだ。大体すぐに都合がいいようになる。

 だからフォニーも、さっきの女に似た髪色に変えて、服もメイド服にした。

「アタシなら、いいよ?」

 男の顔色が変わっていく。

「ほんとうに?」

 子どものような、大人のような返事。

「うん」

 そっとその手を取り、フォニーの頬に当て、そのまま首筋に、鎖骨に、下に下にとずらしていくうちに、外にいたはずなのにフォニーは部屋の中でベッドに横たわっていた。

 覆いかぶさる男は、そのままフォニーの首筋に顔をうずめて。

—————楽勝だった! よかった!

 安堵した悦び。その後は適度に男の手綱をとる。

 『いいの、いいのよそれで』。

 男は満足気にしていた。

—————結局そういうことだったわけか。

 この年齢でそこまで惚れぬいていることは少ない。性欲とないまぜになった感情は、一度揺さぶると崩れる。

 歳を取ったからと言っても数としては少ないのだが、この年だとなおのことだ。

 『決める』感じで宗教にでも入っているかの如く一人の女に決める男もいるかもしれないが、それはそれで恋愛感情なのか疑わしい気がする。

 人間の欲深で身勝手な『大事にするよ』という建前に隠れて、ひっそりと『でも、飽きたりはするけど』というのがあるから。

 フォニーのような魔族がつけ入る隙があるわけで、喜ばしいこと。

—————なんだけど、飽きたのよ。その状態に。

 アガリが少ないところ、贅沢なことを言ってもしょうがないのだが。

 思いのほか精力が残っていたため、適当なところで切り上げ、明日また来ることにした。

 この年だと、2日くらいなら続けてきても疑われない上、回復する。

 明日は早めに寝ていてくれるとありがたい。そうすると、今日は消費してしまっていた分も含めて刈り取れる。

 十代半ばだと難しいか? いや、期待だけはしてもいいだろう。

 一度切り上げ、その後も他の家を物色したものの戦果らしい戦果は上がらず。

 ほどほどに野宿場所に帰ることにした。

 『HOREKUSURI』の看板のあるあの建物をかすめながら、定宿というにはほど遠いねぐら作りのため、森の奥へと分け入っていく。

—————アタシの家は魔界よ。

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