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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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「ふ~ん」

 子ども向けイベント開催中は特にどうということもなかったのだが、応接室に戻った時にはクレアがニヤニヤしていた。

 ドアを開けた時に瞬時にベータはフォニーを見て、フォニーがその表情を確認することができないほど凄い早さで顔をそむけた。

 効果音を付けるならバビューンとか、そのぐらいの。

「な、なに? なによ」

 何があったのだろう。

「なぁ~んにもないわよ。ね?」

 クレアがベータに話しかけるも、ベータはクレアのほうを向いたきり微動だにしない。

 向かいに座すと、すすす…と音もなく立ち上がり、フォニーに背中を向けた切り部屋から出て行ってしまった。

 ぽかんとベータの背中の残像を見つめると、クレアは、

「あなたが心配してたのよって伝えたら、ずっとあんな感じ」

 ふふふ…と笑いながら、お茶持ってくるわね、と一言して部屋からクレアも出て行った。

 一人残されたフォニー。

—————どうしろと??

 あんな感じ、が帰宅まで続いたらどうしよう。

 一抹の不安をよそに、クレアはお盆からティーカップの紅茶を降ろした。

「でも院長、なんだか大人になったみたいね」

「そうですか?」

 ビッグイベントは済んだが、フォニーはその間、思いもかけず色々マトモな振る舞いが出来ることを発見した気でいた。

 成長の兆しなど、見た覚えはないが。

「ええ。だって今日、言われたのよ。しばらく顔を出さなかった間ありがとうって」

「ええ?」

「でしょ?」

 びっくりだ。あのベータが、お礼を。

「でも、ソレ普通は、フツーです」

「そうね。フツーはね」

 ゴクリ。紅茶を飲み込んだ。

「大きな一歩よ」

 静かになる。その通りだから。

 だがしかし、フォニーにはそういった類の言葉はベータから送られたことはない。

 今の状況もフォニーが自業自得で作っているし、宴会への参加は情けをかけていただいた側。こちらがお礼を言わないといけないところ。

—————でも、お礼言われない状況に納得しちゃダメな気がするのよね。

 ベータとフォニーの間には圧倒的な力の差がある。ベータはフォニーをこの世から跡形もなく消せるだろう。

 でも、上下関係があるわけじゃないと思いたい。

 ありがとうを言ったら、そこで、

—————終わる?

 『THE END』を考えた時、瞬間的にフォニーの頭の中がごちゃごちゃになったので止めた。

 考えないようにしよう。

「大丈夫?」

「え? あ、何が?」

「なんとなく、変な顔してたから」

 流石子どもの表情の変化を日々見つめているクレアだけある。

「大丈夫!」

 サッと立ち上がってティーカップを自発的に片付け始めると、クレアはニヤリとして黙った。

 もうあとは帰宅なので、ベータはおそらくそそくさと出て行って帰り自宅をしているのではないだろうか。

 子どもたちにローブを引っ張られてそのまま引きずられている様子を見つけ、目が合うと、なんとなくそらした。

 あの状態だと片付けは済んでいないものと見える。

 荷物を置いたところに戻り、持ってきた包みを片付け。

 だれも来ない中でベータが広げた布に空いた箱や紙や瓶をくるむ。

 クレアは向こうで片付けをしていたが、その後どこかに移動し居なくなった。

 このまま、だれも、来なかったら?

 ベータが来なかったら?

 フォニーは一人で先に家に帰る、そういうこともあるのか。

 一人で。

「帰るぞ」

「は~い」

 ベータは荷物を手に取り、スタスタと玄関に歩き出した。

「クレアさんは」

「さっき話した」

 部屋での挙動不審な振る舞いの影はさほどなく。

 フォニーもスンとした態度を安心して取れる。

 そのまま行けばいい。分かっていた。

 前と同じように箒にまたがるベータの後ろに跨る。

 ホームポジションに落ち着き、見送りもない中飛びだって、家に帰る。

 この前街から家に帰るのと、同じ辺りを通っている。

 でも、あの時の感じではない。

 一人で家から出て一人で帰るのと、何が違うのだろう。

 帰ってきてからも特に何を話すわけでもない。

 栄養ドリンクを棚から出して飲み干すフォニーに、パンとサラダをつまむベータ。

 早々に食べ終わった後、ベータは立ち上がり、カレンダーにバツを付け始めた。

「そういえば印付けてなかったわ」

「ここで合っていたよな」

「えっと、うん。そう。合ってる」

 クレアの家でカレンダーを改めて見たから、間違いない。あの日から6日。

 ベータがカレンダーを見つめ、

「じゃあ、もうそろそろか」

「え?」

「キースが来るのが」

「なんで?」

「来年の話だ」

 フォニーはげんなりした。

 そういえばそんな話をしていた気がする。

「キースのことだ。人間の時間感覚なども全て計算している。来月までにと言ったら、今週ぐらいだろう」

「アンタ、そんな見込み立てられるのね」

「親兄弟よりもキースのほうがよく顔を合わせるから」

 なるほど。確かに魔界内外のアレコレで忙しそうだったし、隠密に、など出来そうもなかったあの様子、あの方々が頻繁に来たら騒ぎになる。

 合点して手を打ったフォニーを見て静かにうなづいた。

「じゃあちょっと掃除でも」

 フォニーの軽い気持ちの一言に、ベータは考え込んだ。

「なによ」

「屋根の塗り替えをしてもらえないだろうか」

「え?」

「お前なら落ちることはないだろう。適役だ」

「え、あ、うん。まあ、そうね!」

 塗料は明日、用意するから、との言葉。

 何を塗る気なのだろう。例によって家を協力なベータの魔力から守るための何かなのだろうか。

 もう何が来ても怖くない気になっていたフォニーは、

「りょーかい」

 その時ベータがフォニーの顔を見ずに振り返り、さっさと台所の片付けを始めていたことについて、あまり不思議に思わなかった。


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