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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 どんどんと上昇し、街の明かりを星空を見るように眺める。背後を振り返ると、細い細い三日月。

—————アガリを集めたら、納めていなかったものを納めることができて、魔界に…。

「あ。帰れないじゃない」

 そうだった。通行証がない。

 今フォニーはもうすぐ満腹に近い。これ以上、貯めておくことができない。

 ということは、もう一件ぐらいでそれ以上精力を受けてもあふれるだけだ。

 ずっと向こうの森のほう。今日、出てきた方であり、今向かっている方でもある。その向こうを眺めた。

 そこは魔界ではない。なんとかポジティブに。

—————人間界に家賃なしで住めている家ではある。

 そのまま家に帰るのが嫌だったフォニーは、家を通り過ぎて森に向かった。

 明かりがないのは、まだベータが寝ているからだろう。

 川べりに降り立ち、体を洗い流しながらぼんやりと考える。

 魔界なら家賃云々なんて話はなく、適当なところに居つくだけでいい。

 森の中で眠れないフォニーではないし、屋根はあったほうがいいものの、前は野宿したりも全然していた。

 なんてことないのだが。

 家が見えるところまで空に舞い上がった。夜が更けるまではまだ少しあるが。

 ソロっと家に戻って、部屋の中に入るが、静かなベータの部屋は通り過ぎた。

 寝ているところを起こしては悪い。

 階下を見て、特に家を出てから何も変わらないことを見てから自室に戻る。

 何日か戻っていなかったせいか、自室が空っぽに見えた。

 自分の服が転がって、自分のにおいが染みついているのになぜ。

—————分からないけれど、眠れそう。

 物音ひとつしない家で自室のベッドに横になると、瞼が閉じて、予想した通り、眠りにつくことはできた。




***********************************




 あれから2日目。

 まだベータが起きてこない。

 気になってその間、都度都度部屋を覗き見ているのだが、普段よりもやや顔色が悪かった最初と比べ、ほぼ普段通りになった今もまだ起きてくる気配がないのだ。

 フォニーはといえば、絶好調だった。

 これ以上にない、というのはこういうことを言うのかと思うくらいだ。

 今日なんかまだ昼過ぎなのに目が覚めてしまった。エネルギーが有り余っている。

 毎日街に出て男をひっかけるとこんなに気力が充実するものかと、びっくりするぐらい成果が出ていた。

 気力がある→いい獲物を探せる→精力たっぷり調達→体力回復プラスアルファ→気力がある…。

 ループになっているのだろう。

 通行証があったら、溜め込むだけ溜め込めたのではないだろうか。

 そしたら、この家からおさらばして、元のちょっと足りてないけど自由気ままな生活に戻れる。

 思い描いたその生活がどこか色あせている気がしたことは、毎回思うたび、川で汗とともに洗い流した。

 ベータの部屋のドアをそっと開くと、相変わらず眠っている。

 寝相も、2日前にフォニーが出て行った時のまま、一ミリも動いていない。

 寝相がいいのは間違いない。これまでフォニーが起きてきて、部屋でごそごそしている間に物音が部屋から聞こえてきたことはなかった。

 でも、

—————こんな死んだみたいになってたことない…よね?

 フォニーが最初に忍び込んだときも、もうちょっと眠っている感じだった。

 しかし今だって、耳を凄く近づけると眠っているのわかるから。大丈夫、なはず。

 でも、心配。

 なんだかんだティーンエイジャーが夜通しあんな一大イベントに付き合っていたのだから。

 酒も初めてだったわけで。事前準備もフォニーよりも全然やっていたわけで。

 フォニーよりも疲れることを人間の若い子が生身でやっていたわけなのだから。

 ダイジョブなのだろうか。

 しげしげフォニーが眺めている間に、急にぱっちりと目が開く、なんてことがあるといいのだが。

 その気配すら見せない。

—————ゆすったら、起きるかな。

 5日寝っぱなしは人間としてありえるのだろうか。

 こういうの、聞きたいって思ったらやっぱり、

—————クレアさんね。

 時間的にも行ける。じゃ、思いたったが吉日?

 街の衛兵に見つかったらどうしよう、をこれまで考えることが多かったのだが、何故だかその時のフォニーは思いもしなかった。

 サッと飛び立ち、昼間の街並みが眼下に見え、そのまままっすぐ向こう側へと突っ切った。

 急降下して、孤児院のドアをノックする。

 向こう側から子どもの声が聞こえる。

 待つ。

 待つ。

 クレアを待つ。

 待っていると嫌に長い。

 ガチャリ。

「あら。お久しぶり。どうしたの?」

 だいぶびっくりしている様子のクレア。

「ちょっと様子見と、聞きたいことがあって」

 時間はそんなにいらないんですけど、と言おうと思ったが、クレアは例によって部屋に通してくれた。

 ベータが起きてこない話を、

「しばらく大がかりな魔法の検証してたんですけど」

 と大嘘をついて話すと、クレアは端的だった。

「5日はちょっと長いわね」

「やっぱりそうなんですね」

 魔族だと、冬眠する種族ならいざ知らず、5日も眠りっぱなしは危ない。

 その魔族的一般常識が人間にも当てはまるのか分からなかったが、聞いてよかった。

「起こした方がいいですか?」

「う~ん、どうかしら。魔法はよくわからないのよね。

 大きなものを使った後は、半年とか眠りっぱなしっていうのを噂できいたことはあるから。

 院長が何をしたのかによるんじゃないかしら」

 『何をしたのか』なんて一番漏らせない情報を出されてしまうと、もうどうしていいのやら。

 あと、だれに相談したらいいのか首をひねって悩んでいると、

「ほんとに心配してるのね」

 クレアはクスクスと笑い出した。

「え?」

「魔族のあなたが人間の院長のこと心配してるのがちょっとおかしくって」

 言われてフォニーはぽかんとした。気づいてすらいなかった。

「でしょ?

 だって、なんなら院長が死んだ方が色々楽になるんじゃない?」

「そ、そうですね…」

 言いながらもごもごと口ごもる。

 『そうですね』の5文字が、凄く発音しにくい。

 他人の意見に同意するのはこんなに難しかったろうか。

「悪いってことじゃないから」

 笑うクレアは、フォニーの腑に落ちない顔と『そうですかね?』という呟きを見てまた笑った。

 そして『じゃあ、今日はありがとうございました』と言いながら立ち上がる仕草に合わせて立ち上がった。

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