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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 ロールモデルがない十八歳ベータは、思いのほか酒もイけているようだった。

 上機嫌な父親——といってもベータ的にはなじみのない父親の顔だろうが——を横目に、親しく話してくれる兄姉——ベータ的にはそう思うしかないだろう——。

—————実のところどうなんかね、ベータ的には。

 話の中身がほとんどなかった先方までと代わり、魔力飽和後はフツーの飲み会よろしく会話が生まれていた。

「だからあんときスミスがさぁー『ぶっ殺す』って言ってたんだけど多分神がぁー」

「いや、それはあいつなりの」

「神をあいつ呼ばわりできるのはお父様くらいですよ」

「ええー」

「いやさ、あいつは嫌いだけどさ。この会、穏便にやれてるのあいつがOKしてるからってのもあるし」

 『穏便に』というところは多少疑問ではあるが、魔界・神界・人間界での大戦争と比較すれば確かに穏便ではあった。

「どうやってその展開になったのですか?」

 ベータ、思っているよりもガンガン言っている。フォニーも気になってはいた。

 多少飲食のピッチが最初よりもスローになってきているので、今少しその場にとどまっていてもいいだろう。

 魔王はその質問にほほ笑んだ。

「いや、なに。そんな大した話じゃないよ。

 ベスの忘れ形見で、どうしてもと言ったらな。

 『愛やな! そこに愛があるんやな! ええやん! ええ! な! んなっ!』って」

「何なんですかそのノリ」

 フォニーが言いたかったことをそのままベータが言ってくれた。

「なんだろう…。酔っ払いかな?」

「俺たちと一緒か」

「そうね」

「神界って飲酒可なの?」

「そりゃいけるだろ。ワインが」

「「「「「かんぱ~いぃ!」」」」」

 これはこれでいい親子関係なのかもしれない。

「にしてもベータ。お前口数増えたな」

「そーだなどうしたんだ」

 小柄中年はピンときた顔になった。

「女か?」

—————そうなの!?

 と思うも、さっきまで聞き耳立てまくりで手が動いていなかったことによってテーブル上のメニューがなくなりそうに…。

 手を動かしていなかったことを後悔するも、先に立たず。皿を持って外に出て、ダッシュするとマルタンが待ち構えていた。

 何でかさっきより真剣な顔だ。

「様子はどうだ」

「歓談し始めてる」

 マルタンがいよいよといった顔で、フォニーに料理の場所を示唆しながら、

「置いたらすぐに戻ってこい。マンドラゴラ八〇の出番だ」

「なんで??」

 タイミングのはかり方が不明。

「歓談しだしたのだろう?」

「うん。さっき言ったじゃないの」

「昔話とかになるものだ、こういうのは」

 それはフォニーにも想像がつく。というかこれまで延々飲み食いしていたのがおかしかったのだ。

 家族で集まって、食卓に着いたのであれば、昔話とかになる。例えば、

「ベータの母親の話とかよね」

「そうだ。分かっているではないか」

「アタシのことどんだけだと思ってんのよ」

「そうするとな、酒のペースが速くなるのだ」

「あれよりも?」

 マルタンが変な顔で黙り込んでいる。

 最初にスミスと一緒に、マンドラゴラ一〇〇のことを『酒だ』と言い合っていたあの時とよく似た顔だった。

「何なの?」

「すぐにわかる。とっとと料理を持っていくのだ」

 不貞腐れながら料理を持って家に戻ると、

「そっかぁ~そうなのねぇ~!」

 美魔女は思い切りニヤニヤしていた。

 半ば無視するように料理を出すと、さっきよりも多少視線を感じるが、羨望の的になっているわけではないので放置で。

 小柄中年は首を縦に振っている。

 ベータの恋バナを酒の肴にしているようだ。

 そそくさと家を出ると、マルタンが箱をスタンバイしていた。

「落とすなよ。全部マンドラゴラ八〇だからな」

 同じ轍を踏まないようにするため、フォニーは箱を受け取った。

 マルタンがドアまでついてくる。

「何で来るのよ」

「…ドアが風で閉まったりするかもしれないだろう」

 過保護だ。『風で』?

 フォニーのほうこそ『どういう風の吹きまわし?』と聞き返したい気分になったが、箱を落としてはいけない。

 ドアから家に入ったところで、なんだかさっきと雰囲気が違う。

 しんみりしているというか。

 フォニーは足元に箱を置いた。

「最初も、二番目も、三番目も、四番目もケンカ別れだったからなぁ」

「そうね。お母さん、今ごろくしゃみしてるわ」

「俺のも」

「私のも」

 三人が首を縦に振る。言い換えよう。ベータ以外だ。

「だからな、ベスが…ベスとは本当に短い間しか」

 魔王が鼻をすすっている。

 ぎょっとして魔王のほうを向くと、誰かがフォニーの肩を叩いた。

 ベータだ。

 フォニーは声を潜め、

「何?」

「それ、マンドラゴラ八〇か?」

 ベータも声を潜めている。

「そうよ。だから?」

「はやくだせ!」

 フォニーの手はすでに瓶の口のほうの細いところにかかっていた。

 ドアの向こうを見ると、マルタンが蒼白な顔を引きずって踵を返し、拡声器のような何かを魔法で作り上げていた。

「だからなぁ…ベス…ベスは、一年しか…一緒にいられなかったんだ…」

 嗚咽を上げている。

 その手元に、栓を開けたマンドラゴラ八〇をそっと差し出した。

 しかし魔王はそれに手を掛けることなく鼻をすすり続ける。

 フォニーとしてはとりあえずやることはやったので、マルタンとベータの様子が気になった。

 ベータの顔を見ると、必死で口元を動かしていた。

 『は・や・く・そ・と・に・に・げ・ろ』

—————逃げろ?

 まあ、どのみちマルタンに事情を聴かねば。さっと家の入り口から外に出ると、マルタンの声が聞こえた。

「体を丸めて、耳を、ふさげーーーーーー!!!!!!」

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