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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 指がちぎれるかと思ったのは一瞬。

 パカリ、とフォニーの体とともに、魔界の蓋は裏返ってテーブルの下に転がった。

 テーブルの下で仰向けになったフォニーの目の前を、テーブルの天板の裏側のがさついた面が覆う。

 ゆっくりズリズリと体をスライドさせて脱出を図る。美魔女様のスカートの中は見ないように心がけることしばし。

 起き上がったところで、ワーッと背後から拍手の音と歓声が聞こえた。

「セーフ!」

「よかったな。事故起きなくて」

「このままだと圧でやばかった」

 うんうんと小柄な中年が頷いている。

「じゃ、気を取り直して~」

「「「「「かんぱ~い」」」」」

—————あ、あれ…? パート2…。

 体の重さはなくなったが、同時に面々の可笑しな様相もなくなってしまい。

—————あっさりすぎねぇ?

 この蓋を開けたことで何が良かったのか? 換気? 魔界に??

 空いた皿と酒瓶を両手いっぱいに持って裏口から出ると、マルタンが待ち構えていた。

「よくやった」

「褒めてくれんの、アンタだけって残念すぎ」

 マルタンの目元がピクリと苛立ちを見せたが、フォニーはもう怯まなかった。

「で、あの魔界への穴の蓋開けるとなんなの?」

 マルタンはしぶしぶの様子だが、フォニーの成果を認めたのだろう。

「あの方たちはな、魔界の重鎮なのだ」

「そりゃ知ってるわよ」

 魔王とその家族なんだから当たり前だろう。

「魔力も強い。というか強すぎる。

 そんな方々でも酒を飲むとな、魔力を抑えるリミッターがどこかに行ってしまうのだ」

「は、はあ」

 まだわからんのか、という細~い目つきでフォニーをじとじと睨みつける。

「全く、学校で何を学んだんだ。すっかり忘れよって」

 睡眠学習にいそしんでいたフォニーの記憶には全く残っていないが、何か学んでいたのだろう。

「密室に強い魔力が単純に発散されるとな、圧力になる。体を押しつぶすだけの力になるのだ。

 魔族のおまえでも立てなかっただろう。人間はもっとだ」

 フォニーの、『ベータがやばいかも』の発想は間違いではなかったらしい。でも、

「じゃ、ベータはなんで無事だったの?」

「おそらく、あの方がハーフだからだ。魔王様の魔力に耐性があるから」

「で、結局なんで魔界の入り口を開けたの? ドアは?」

 マルタンは怒鳴り声を上げないように押さえていた。

「魔力を魔界に逃がすためだ!

 ドアを開けたのは人間界の空気も入れ替え・取り込むようにしないと、魔力が出ていくときに一方に吸い上げる力が強くなりすぎる。

 リハーサルで見ただろう!」

「ああ、あのたこ焼き!」

「デミタスだ。焼けて悪かったな」

 蛸魔人は会話の脇から料理をフォニーに手渡した。

「元に戻ったんだろう。だったら、料理がなくなる速度も元通りだぞ。急げ召使い」

「ちっ。分かったよ。ったくさぁ」

 悪態をつきながら料理を受け取り、家に戻る。

 背後では、

「もうそろそろマンドラゴラ八〇を出してもいいのでは?」

「うん。次か、次の次あたりか…」

 一歩家の中に足を踏み入れると、全くもってデミタスの言う通り。普通に飲み会が進んでいる。

 あんなに側近たちが大騒ぎしているというのに、事もなしの様相は異様であった。

「どうだ。十八歳は」

 酔っ払い然とした父親のあったかい質問。

「いえ、特に変わりないです」

「そうか…そうだよな。俺は直接は知らんのだが、見た目も十年前からほぼ変わっていないらしいし」

 振り返りたくなる話題だが、フォニーは酒瓶を片付けるのに一生懸命のふりをした。

「発育が良かったのよね、ベータは」

「ハーフだからな。そうなりがちだ」

 そう。発育がいい魔族を受け継ぎ、人間と魔族のハーフも魔族寄りの身体成長速度になりがち。

 ベータは八歳の時からあの見た目で、大人扱い・変人扱いされ続けているのだろう。

「なんでお酒買おうと思わなかったのよ?」

「法律があるらしいと聞いていました。よくわからないからやめておこうと。

 それに、そのころ一緒にいた仲間が飲んでいるところを見て、何がいいのかよくわからなかったから」

 四角い顔の兄がベータの肩を叩き、

「真面目だなぁ、ベータは」

 うんうんと小柄中年がうなづく。

「お堅いのよ~。でもさ~そ~いうのがさ~」

 おねえさまの話を尻目にベータを見ると、さっきよりは少し顔色がいいように見えた。

 胸をなでおろすと、酒瓶やら空き瓶やらをガサガサと並べる。

 ここまでで、荷馬車三台分の酒が消えていた。

 マンドラゴラ八〇投入は近いか。

 魔力が屋内で飽和していた問題が解消され、フォニーの頭にはベータが十八歳問題がぶり返していた。

 じゅうはっさい。

 そういえば、最初に薬屋に来た時に嫌に持論を主張する割には、フォニーの指摘を素直に受け入れていた。

 フォニーへの服がティーンエイジャー向けだったのは、もしかしてフォニーのことをベータ自身より年下、つまりティーンエイジャーと思っていたからか。

 フォニーに何か危害を加えようとしたりしなかったもの、そのへん、こう…若者的な気遣いというのがあったのかもしれない。

 急にキレたり謎行動に出たりしたのも、もしかして。

 今振り返って思い出すベータの行動が、四十歳だとありえないが、十八歳だとわかると、『もしかしてあれってそういうこと?』と思うものがあった。

 大人になったらイケおじに育っていくかもしれない。

 お父様があれなんだから。上手に育成すれば、『フゥ~!!』と刮目・感嘆したくなるようなイイ男に…。

—————育成計画あるかも!

 そんな皮算用を悟られないようにすべく、調理場の方へ向かう。

 蟻の魔族や人間がせっせと何かをしているし、周りでは小競り合いが起きてタンカが行き来しているし。

 結界の縁のほうではボヤも出ていて、王宮魔法使いが水を出して鎮火。

 と、弟子はそのボヤの火元をみて急停止した荷馬車が横転しそうになるのを、魔法で食い止めていた。

—————お祭り騒ぎとはこのことね。

 事前に山と積んでいた毒消しが三割ほど減っている。

「何に使ったのよ…」

「毒消しだ」

 ゴーゴル——お忘れかもしれないが虎の魔人だ——が一言。

「分かるわ。それぐらい。でも、毒なんて」

「あの蟻とか、あの蛸のとかだ」

 げんなりした。なだめる、とは?

「ようは小競り合いの二次被害対策、対応してる奴が毒あるからこんなだったわけ?」

 コクコクと頷く。

「そうでもしないと、あいつらの血の気の多さはどうにもならん」

 わーわー、たおれたぞぉー、とかいう声をBGMにしながら、ゴーゴルの肩を叩くフォニー。

「アンタも大変ね」

「なれなれしいなお前。だが激しく同意する」

「てかさ、もしかして、毎年この調子なの?」

「…ああ。元気がいいことだ。もう少し学習してほしいが、魔族に協調性を求める方が無理筋というもの。致し方ない」

 力なく呟くゴーゴルに、フォニーは心から労いの気持ちが沸いたのだった。

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