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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 夜、つまりフォニーの独壇場。

 魔法使いはあんな自堕落っぽい見た目のくせして朝型とみられ、あのあとちょっとしたら部屋に戻っていった。

 有難い。ここにいても顔を合わせることはあまりないということか! とその後室内などの散策に励んだフォニー。

 ひとしきり部屋の中にあるもので何か今後の足しになりそうなものはないか漁ってみたのだが、本当にきれいさっぱり何もなかった。

 きっと前に住んでいた誰かの持ち物をかたずけたが、家具だけ捨てられなかったか、来客——フォニーのような?——のためにとっておいたのだろう。

 今は日付けも変わって久しい。だから。

 警戒して対策を取られている可能性・そもそも魔法使いが強すぎて夢の中に入れない可能性etc…。考えればきりがないのだが、しそんなことを言っている場合ではない。あの庭の魔力だって、吸ったら減る。

 死ぬよりはまし。

 フォニーは背中の中に仕舞っておいた翼をバサリと広げた。

 サキュバスという魔族は、壁抜けできるうえ、空中も飛べるのだ。ここの敷地の外枠いっぱいに張られている結界のような、魔力の障壁がなければ。

 外出は難しそうだが、家の内部にはそういった仕掛けはないこと、ここ数時間で部屋の中だけでなく家中ふらふらして確認済み。

 何があるかとか置いてあるものを調べる時間はなかったが、自由に行き来できそうだ。今日なら。

 するりと指を壁にはわせると、とろけるような感触。綺麗に壁を抜けられているようだ。

 指が壁の向こう側、魔法使いの部屋に入り込んでいることが分かる。

—————ばれたらばれたでしょうがない。

 頭だけ、壁の向こうに突っ込むと、魔法使いがベッドに横たわっているのが見えた。

 仰向けになり、両手を胸の上に組んでいる。

 羽音を立てないように翼を軽く動かして体を浮かせ、静かに静かに…。

 魔法使いの頭の辺りにやってくると、青白い土気色の顔色が死人のようにも見えた。一応胸のあたりが上下しているので生きている。

 生存確認出来たところで——以前これをせずに何度もトライしたあと、実は…というのがあったことを思い出す——手をそっと魔法使いの額に当て、さらにその中へ入り込ませた。

 体ごと頭の中に侵入していく。

 雑多なもの、物とも人とも風景ともつかないものがごちゃごちゃとフォニーの視界に移りこむ。

 それらが溶け合って、黒っぽい景色になって。真っ暗になって、真っ黒になって。

—————おっしゃ、あった! 入り口!

 見慣れた夢の入り口と通路、その果てに、魔法使いが今見ている夢の景色が見えてきた。

 明るく1点、光が指している。

 フォニーは確信をもってその先に突き進んだ。

「あれっ!?」

 光のあったはずのところの、その先。

 暗くなっている。夢の通路よりも暗い。

—————そんなことあるの?

 夢の通路は、これまでその人が見聞きし歩んできた色々なものが全部一緒くたになって出来ている。だからほとんどの場合、色合いはかな~り黒っぽい。

 夢の中が夜でも、そこまでの色にはならないでしょ! というぐらい、光がない色になるはず。

 そしてその先の夢の中は、本人がいるので明るくなっているはず。

 でも、今フォニーが立っているところはそれよりももっと黒い気がする。

—————出口は?

 一応見える。今来たところよりもぼんやり明るいところと、入り口のほうも見える。

 とすると、やはり魔法使いが今見ている夢がこれということに。

 罠? いや、そんなのできるのか? …できるかもしれない。魔法使いの夢の中に囚われて一生出られないという不安がよぎった。

 ふらふらと辺りを飛んでみるが、行けども行けども真っ黒で、来た入り口が見える以外に名にも変化がない。

 眠りが深いといってもここまで何もない夢は初めて。試しに羽ばたきを止めてみたが、ちゃんと地面はすぐそばにあった。

「何をしている」

 フォニーは瞬速で振り返った。

 魔法使いが立っている。

 今朝見たのと同じ恰好、同じ髪型、同じ顔。

「な、な、何って」

 魔法使いは口を開かず、ジッとフォニーを見つめている。

「あんたこそ何?」

 夢の中に勝手に入っているフォニーだが、もうヤケだ。強気でフンッとふんぞり返った。

「生きているだけだ」

 会話が成立した。現実とリンクした返事ではない。例えば、『お前、こんなところで、』とか。

 ということは。

—————寝てる。罠じゃねぇ。完全に夢だわ。

 魔法使いはぱちぱちと瞬きをするが、それ以外は無反応。

—————これ、アプローチってなんかかけようあんのか?

 絶対的平常心。この男をエロい気持ちにできるのか? いや、やるしか、やるしかないか…。

「お兄さん、最近遊んでないんじゃない?」

 『安っぽ~い(泣)』と自分でも酷さに愕然としつつ、クルルと魔法使いの周りを一周するが、魔法使いはじっと正面を見ていた。

 そもそもお兄さんなのか、年齢不詳過ぎてわからない魔法使い。精力は歳の問題ではないが、個人差がある。

 背後からハグとかしてみるか。魔法使いの後ろに回り込み、色仕掛けの常套手段ボディータッチ。

 思い切り首のあたりから体に巻き付く。

 魔法使いから体温も体臭もないことに、フォニーは焦った。

—————なにこの無感覚な夢。

 夢は、本人の感覚や記憶がありありと現れる。人と接触したら寧ろ普通よりも過剰に反応が出るし、気になるところは過剰に表出する。

 体温だってフツウはみんなあったかい。夢の中だってだ。

 見るに魔法使いの見た目から、多分複数日風呂に入っていない気がする。ということは現実だと、——フォニーはここまで気にする余裕もなかったが——頭のあたりは匂うはず。それがないのは無感覚だからで、助かったことでもあったのだけど。

 何も起きないのでフォニーは調子に乗っていく。魔法使いの両肩から回していた両腕に、少し強めに胸を押し付けるように力を加えてみる。

 無反応。

 お腹らへんを横から触ってみる。

 無反応。

 足のあたりを触ってみても、

 無反応!

 だんだん足の付け根のほうに手を遡上させても。

 やはりっ! 無反応です!

「もうっ! なんか言いなさいよ!」

 フォニーはマッサージ師ではない。こんななら『おまえなんかお呼びでないよ』的に振り払われたほうがまだましだ。

 人を触るのだってアクロバティックにやったら大変、羽ばたくのも疲れる。ただでさえ魔力が減っていてガス欠に近い状態。夢に入るだけでも、体力や魔力を使ってきた。

 その場にしゃがみこんで絶望した。

「こんなじゃ1週間持たないよ」

 唯一フォニーが出られる範囲にいるのがこいつだから、とりまここでなんとかと思っていたのに。

 最後の希望が無くなり、

「このままじゃあたしあと数日の命かも」

 大きく大きくため息をつきながら、魔法使いを見る。

 一応目があった。

 だが、一応だ。それ以上の反応はない。疲れてしまった。魔法使いがではなく、フォニーが。

「もういくわ。じゃ、また現実で~」

 羽ばたいて魔法使いを通り越し入り口に戻っていくフォニーを魔法使いは振り返って見ていた。

 それ以上追いかけてくることはなかった。

 ぬるりと魔法使いの頭らへんから出て、現実の中空に浮かんだあと、魔法使いの顔を改めて見る。

 今しがた夢の中で会った顔と全く変わらない残念めな感じ。

 いや、残念なのはフォニーの成果がなかったからだ。

 プライド云々ではなく、もうこういう夢見の奴なんだろう。

—————ざんね~ん…。

 傷つく余力も残っていない。しゅんとしっぽを垂らしながら、フォニーは魔法使いの部屋をながめたが、先ほど部屋のなかを一回りしていた時以上に興味関心がわかない。

 沸きようもないではないか。望みがなくなったのだから。

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