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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 父上、と言われた者の声がする。

「久しぶりだな」

 魔界ではざっくりしたシルエットの写し絵しか見たことがなかった魔王の声は、ベータの声を少し低く、しわがれさせたような響き。

 もしかすると年を取ったらベータもこんな声になるのかもしれない。

 お姿はどうだろう。ぜひ拝みたい——この後一晩じっくり拝み倒すのだから焦らなくてもいいのだが——。

 だが、その前に入り口のドアが開き、ベータが明けた扉の前に立っているのはナイスバディのおばちゃんだった。

 貫禄のある黒いボディコンに黒いマント。特徴的な鉤鼻。王宮魔法使いよりも魔法使いっぽいかもしれない。お美しい…。

—————あっけにとられてちゃダメじゃん。アタシ。

 フォニーは道を開け、軽く頭を垂れた。

「今年はウエイトレス付き?」

「いや、同居人」

「あら、そうなの?」

 フォニーは垂直に起き上がり、

「コンニチハ、フォニーデス」

 全身が硬直してしまう。

「こんにちは」

 さらりとそのまま適当な席に着いた。たぶんベータの姉のうちの一人だろう。

 魔王の子どもたちの顔を覚えるほど、魔界の習わしに敏感にならなくてもいい超末端のフォニーには誰かわからないのだが。

 また次に入ってきたのはベータとは似ても似つかないガタイのいい四角い感じのお兄さん。魔物というより兵士のようだが、胸元がギャランドゥ☆な感じが牛の魔物である魔王の血筋か。

 で、も一人入ってきたのは、小柄な中年。その辺に居そうだが、片足にまがまがしい黒紫の焔の模様が入っていて、しかもそれが時々うごめいている。

 全員魔王の子どもなのだろうが、全っ然ベータと似てない。もうちょい遺伝要素があってもいい気がするのだが。

 いちいちカチコチになりながらその全員に会釈したフォニーは、ベータが今出て行って向かえに行ったのが魔王であることを確信していた。

 残りもうひと挨拶したら、第一関門クリア。

 二人の足音がゆっくりと近づいている。

 フォニーがゆっくりに感じているだけかもしれない。

 トス、トス、トス、という普段聞きなれない音が、聞きなれたベータの足音に混ざっている。

 今日の日までの回想がゆっくりとフォニーの脳裡をよぎっていく。

 出会って、この店の前で変なポーズを決めるベータ。

 魔法をかけられ、魔界への通行証がなくなったフォニー。

 孤児院の手伝いで子どもたちになんやかんやしたあの日。

 木こりの元にお邪魔したり、国軍の兵士から精力頂きしたり。

 国軍・魔界ともにこの日のためのリハーサルもした。

 全てはこの日に使う、マンドラゴラ一〇〇に始まったのだ。

 感慨に浸り切っていて会釈して下げた頭を上げ忘れていたフォニーに、

「おい、」

 ベータの声がした。

 慌てたフォニーは、

「こんにちは、フォニーです!」

 言いながら真正面にいる、ベータよりも一回り大きいからだを見た。

 思いのほか普通に、紺色のタイトなズボンとピンク色のワイシャツというサッパリした出で立ち。

 肉付きよく、太くもなく細くもなく。

 そのまま頭が上がり切ったフォニーの視界に入ってきた面。

—————ベータそっっっくり!!!!

「…そうか」

「え? あっ、声出」

「ああ、モロにな」

 だってもう、本当に似ているのだ。

 この中にいるだれよりも似ている。

 違うところといえばもっと肉付きがいいのと、目元がアイウェアなしで露出しているところ。

 前に一階だけ見たビー玉でも入っているかのような目が真っ黒で、牛のようなだけだ。

 シャツ・パンスタイルもシャレオツでお似合い。

 ロン毛を後ろでまとめたなかなかのイケオジで、ベータが成功するとこうなるという、見本のようで。

 前に魔界で見た魔王サマのシルエットってこんなシュっとパリっとしとらんかったぞ。別物じゃないか。

 だから、ベータも年取ったらこーんな感じにならんかなーとか思った。一瞬。なんでかは知らんけど。

 頭の中はこんな感じでフワフワだったが、フォニーの体は現状に即して、カチコチにその場に固まっていた。

「いい、いい」

 笑顔で手を振る魔王様。さわやか~な感じ。

 これが数多の敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げし、ここ二百年ほど魔界の玉座についている御仁とは思えない。

 牛っぽさが目らへんしかないのも余計によし。

 と、思いながら仕事をしないといけない。台所にスタンバイされたワインをグラスに注ごうとすると、

「いい、いい、そのままで」

 魔王は瓶に手を伸ばした。

「え? あ、はい」

「そー来ると思ったわお父様」

 美魔女の言葉に、残りの面々も全員頷く。

「我々は普通にグラスで」

 四角い男の言葉に、これもまた全員頷く。

「じゃ、かんぱーい」

「「「「かんぱーい」」」」

 というか、挨拶もそこそこに、料理も何もないのに、速攻で飲むモードになっているこの感じ。

 一家団欒って、こういうんだっけ??

 魔王は瓶に口を付けてグイグイいってるし。

 一気に半分なくなっている。どこぞの国ではワインはどなたかの血だと言われているそうだ。水からも出来るらしい。水なのか? いや、そんなわけはない。

 普通にあのワインのラベルは前にフォニーが精力の源として活用していた富豪の家にあった。高そうな感じで、ワインセラーに並んでいたような。

 あんな安酒の煽り方をする類のものではない。いや、そもそも、あの量飲んだらちゃんと酔えるはず。

 フォニーは次の酒を脇から持ってくる必要があると、裏口に出て、箱から瓶を取り出そうとした。

 すると背後から声が聞こえる。ベータの声だ。

「箱ごと屋内に上げてくれ」

「うん。そのほうが早いよ~」

 ええええええー…。

 飲み会というものは人間の世界で見るばかりで、フォニー自身は群れることなく眺めている側だった。

 まれに酔いつぶれた人間がいい餌になったりするからだ。

 しかし、このピッチは速すぎやしないか。

 だってもう魔王の一本目の瓶が空いている。

 というか、ベータ以外の三人のグラスも、何ならもう空きそうなのだ。

 瓶をサーブし、グラスにワインを注ぎ、裏口から大急ぎで料理を取りに走る。

 皿ができているのが見え、お盆ごと貰いながら、

「ワイン二瓶空いたから!!」

 叫ぶやいなや踵を返すも、背後から魔界・人間界各参加者のどよめきが聞こえる。

「ウォッカ行くか?」

「いや、まだもうちょい前菜だし」

「ラムと、あとは…あとは…なんだ?」

「やっぱりマンドラゴラ一〇〇がないと持たないんじゃ」

 なんだこの宴会は。宴席って空気ですらないまま飲んでるだけの感じ。

 家族で親交を深め、思い出に浸る会じゃないのか?

 フォニーには出だしから酒で何もかもを洗い流そうとしているようにしか見えなかった。

 まだワインがなくなっていませんように。

 祈りつつ皿が落ちないように飛んで帰ると、既に魔王直々に箱から瓶を取り出して自分用のボトルを手元においたうえで、さらにもう一本の栓を勝手に開けて、家族のグラスにワインを注いでいる最中だった。

「ああ、いい、いい」

 爽やか~なスマイルはベータの謎行動と近しい。

 殺意などなくても恐怖をもたらしえることを、フォニーは生まれて初めて知ったのだった。

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