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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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3

 根っこから引き抜くことも出来ない草をぶちぶちとちぎる。

 この庭の草をむしりだしてはや1時間。もう日もくれそうだ。

—————魔力切れてないのだけが良かったけど…

 切れなかった理由はこの庭。

 あの魔法使いが使った残りカスの魔力がそこここに残っていて、その中に何とかフォニーが吸い込めるものがあったから。

 端のあたりに袋に入っているアレ——ゴミのようだが——護符やら呪符やら謎の板やらが、様々な種類の魔力に満ち溢れていて、

「イミフ…」

 呟きながらむしった草を横に放り投げる。

 ブラなしの胸への心もとなさはすっかり消え去り——元々無くてもそんなに困らない大きさなのだから——ひと汗かいたし。

 ガチャリ

 小屋の裏口のドアが開き、魔法使いはフォニーを含めて辺りを見まわした。

「逃げなかったんだな」

「くそむかつく」

 庭には結界が張られている。

 さっきのものよりも強めで、魔物はもちろん、フォニーのような魔族は万が一にもここから出られないだろう。

「暗くなるから」

 サキュバスなので本来ならこれからお仕事。本領発揮の時間なのだが、魔法使いにはそんなことよぎりもしていないのだろうか。

 部屋に入るとさっきまで気にならなかったものがたくさん目についた。

 テーブル、椅子が2脚、台所。ここはダイニングだったらしい。

 先導する魔法使いの向こう側には店に続く扉。そのすぐ隣に廊下が見え、2階に上がる階段がある。居住スペースは2階ということか。

 下の階に部屋が二つあるのなら、2階にも多分二つある。コイツと相部屋ではないと信じたい。

「座っていろ」

 棚から出来合いの何かを取り出し、パンと並べて食卓に。

 カトラリーが二組あった。パンも5つぐらいある。

 食べ物を出す気なのだろうか。太っ腹だが、お礼を言う気にはならない。

「こんなにいらない」

 人から奪い取る精力が主食。喉が渇くことはあるが、固形物はそんなに食べない。

 魔法使いは改めてフォニーの耳のあたりが尖っているのをじっとしばらく見ていた。

「いる分だけとれ」

 水の入ったコップと粗末な食事が並ぶと、フォニーの真向かいに腰かけ、黙々と食べ物を口に運び出す魔法使い。

 古ぼけた木造の家、夕暮れ時の窓から明かりが入り込むものの、薄暗い。

 ランプぐらい付けないと、人間には厳しい暗さになり始めているが、魔法使いは事もなげといった様子であっという間にパン3つと副菜の茶色と緑色の混じった何かを食べきっていた。

 1つだけあったパンを半分だけ契り、端からちみちみと齧って食べ、残りの半分を皿に返した様子を見て、魔法使いは改めて無言でフォニーの目を見、胸を見た。

「食った方がいいんじゃないのか?」

 殺意が沸いた。

「余計なお世話! それにあたしの主食はこれじゃないから。あんた魔法使いなんじゃないの? それぐらい知っててよ!」

「おお、そうか」

 新たな知識を得た、という感じでほぅっとフォニーを見て、黙って頷いた。

—————あたし、観察対象にされてんじゃね?

 餌ぐらいだしてもいいか、魔法使い的にはそーいう心境かもしれない。

 食べていた時間はものの十分足らずだった気がする。速攻で出した皿などを片付け、そのまま台所の片付けをはじめ、マイペースに全て仕舞う魔法使いの背中。

 攻撃したら返り討ちにあうこと間違いなしで、自由な囚われの身フォニーは机のシミや傷を数えるばかりだ。

 まだこの隣に部屋があるらしいのと、足元に床下収納のような蓋を発見したところで、

「来い」

 顔を上げると魔法使いがこちらを向いて立っている。

 拒否権のない声掛けに同行すると、行く先は2階だった。

「ここがお前の部屋だから」

「ずいぶん丁寧なのね。野宿か相部屋かと思った」

 厭味ったらしくいってみた。 

「お前の寝る時間に合わせると生活が狂いそうだからな」

 サキュバスが夜型生活だと知っているらしい。この店に来る前に起きたばかり、これから明け方まで活動して眠るのが普段のルーチン。

「さっき調べた」

「そ。ありがと」

 自分がやった弁償のためにここに居ざるを得ないフォニーだが、ふてぶてしい態度を改めて何かする気は全くなかった。

 魔法使いもそれ以上何か強く言う気はないらしい。フォニーが魔法使いの想定以上に真面目に草むしりに励んだからだろうか、それはわからない。

 わかっているのはそこまで調べている上に睡眠時間まで計算に入れている、つまり長期的にフォニーを逃がさないつもりということだけだ。

「もうちょっと逃げようとするかと思ったんだがな」

「あのね、あんた、あたしのことなんだと思ってんの? 悔しいけど実力差はわかるし命は惜しいのよ」

 ブラジャーなし状態の胸でなんの不便もないことは、本当に悔しい…悔しいけど。

—————絶対なんかやり返しちゃる。

 決意を新たにしたところで、魔法使いはフフン鼻を鳴らした。

 部屋は外からも中からも鍵がかけられる形になっているが、あの魔法使いにかかってしまえばないも同然。

 が、魔法使いは気づいていないようだ。

「今日はこれで終わりにする。明日起きたら呼べ」

「やだっつったら?」

「どうなってもいいんだな?」

 上から下までフォニーの全身を嘗め回すような魔法使いの視線は、明らかに性的ななにかではなく、実験的な何かの実施を検討しているようすで。

「ワワ、ワカッタワカッタ! わかりましたから! 起きたら呼ぶから!」

 冷や汗を垂らしながら半ば叫ぶように魔法使いを静止するようなポーズをとると、満足したのか部屋から出て行った。

 魔法使いは鍵を掛けなかったが、フォニーが自主的にドアに施錠した。

—————怖すぎるんだけど。

 人間相手にビビってどうすると言われればそれまでなのだが。

 部屋の中にはベッド。近寄って臭いをかぐと、ビミョーにホコリ臭いので多分長い間使っていない。 

 他には埃をかぶった大きい布が掛けられた何かが一つ二つ。多分家具だろうから…。

 触ってもダイジョブなのか不安になりつつ、そっと布をどける。

 一つはタンス。もう一つはドレッサーだ。

—————なんで女物の家具があんのよ。

 だいぶ古いように見える。この家が魔法使いの手に渡る前に住んでいた住人ものだろう。

 魔法使いはだいたい縁が薄い。能力や風貌が変なことが多いからで、魔族と距離が近かったり、なんなら魔族の落とし子のようなのもいるからだ。

 この魔法使いももしかしたらそういうのの一人かもしれない。

 箪笥の引き出しの中は一通り何もない。

 カササッと虫がわきだすこともあるかと思っていたのだが、なぜか防虫用の袋だけは入っていて、何なら開けるといい匂いがしたぐらいだった。

 しかし入れる服はない。

 というか魔界に全部置いてきているし。

 あの小汚い黒いローブを、もしかすると洗濯もせずに延々と着続けていそうな魔法使いのこと。服を買ってくるという概念があるとは到底思えず。

—————どうやってこの後着るものを自力調達するかは考えないとね。それに…、魔力も。

 あのマンドラゴラ一〇〇(魔法使い談)の弁済は永久に終わらない気が数。むしろ魔法使いが利息を付けて、終わらなくさせる可能性すらある。

 真っ暗になった部屋の外は、フォニーにははっきり見えていた。

 家の明かりは遠くにぽつぽつと見える程度。この場所はド田舎ではないが、街中でもない。

 まだもう少しの間は生きて居られるだけの魔力はあるが、あと一週間位だろうか。

 殺されはしなさそうだ、という雰囲気を察したフォニーは、近場でやってみれそうな事だけは、真っ先にやってみることに決め、ひとり、店に来店した時と同じように拳を握りしめた。

 それはすなわち。

—————魔法使いの夢に入って精力イタダキ作戦!! てかもうそれしかないし。


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