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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 蟻の魔物が生贄になることを拒否し、こちらに向かってきている。

—————しゃーなし。

 手元の武器の用途ができてしまったじゃないか。

 フォニーは突進してきた蟻の頭に思い切り突き立てた。

 後続の逃げようとしている蟻がおとなしく生贄になっていくのを見つつ、その一匹を蛸の魔族に差し出しながら、

「どーぞ」

 スタスタと裏庭に向かうフォニーの背中を見つつ、武器から引き抜いた蟻を結界に放り投げながら蛸魔族は、

「案外強いんじゃないか」

「ますますすげーよ、御子息は。アレ押さえてんだろ?」

 魔界上層部でのベータの株は一段と上がったようだ。それがベータの幸せにつながるのかはさておき。




***********************************




 その後ベータが裏庭から戻ってきた時には、ある程度配置などの確認が出来、もう当日を迎える準備を終えて撤収に入ったところ。

 真夜中だった。

 フォニーはそれまでの間、時折逃げる蟻退治をしつつむかっ腹をそのままに、ぐるり結界周辺を一周して戻ってきたのだが、その時さっき裏庭に戻って来たと思ったベータはすでに裏庭にすらいなかった。

 ベータが何をしているのか気になる。

 裏庭に戻ってきたベータがどこに行ったのかと、開けっ放しになっている裏口を当然のように覗いた。

 魔族は入れないようにしているのか、無防備なのに全然大丈夫な様相。

 ベータはどうやらダイニングの下にかがんでいるようで、あっちの魔界の通路というか通気口というかを見ているらしく。

 あの穴にも役割りがあるのだろう。フォニーと比較してそれは大事な仕事だろうか。

 かぶりを振って、まとわりつく比較級を払う。

 むいいいいいっと飛び回ると、蟻の残りは次々とスリットから魔界に吸い込まれて行っており、蜘蛛は糸を掃いてゴミやら魔力のカスやらを吸着、丸めてスリットに放り込んでいっていた。

「分別めんどくせぇ…」

「ダイジョブら」

 疲れすぎて呂律が回っていない虎男は、結界に全力投球したからだろうか。黄色く虎模様も透けていた顔が白っぽくなっており、頬辺りは変化が解けて虎になってしまっていた。

 蛸は口らへんだけもう面倒になったのか蛸に戻っている。フォニーが人間の夢の中で見たチューしたい感じの蚊みたいな口元とまではいかないが、その手前ぐらいにはとんがっていた。

 どうやってか声は出ているし喋れているのだが。

「じゃ、あとはあの辺…、あ! ちょっと!」

「ん?」

「ごにょりごにょごにょ」

「もにょにょにょにょ…」

 マルタンとの密談を終えた蛸怪人はスッキリした様子で、最後にぐるりと一回りする気らしく敷地内を裏庭まで回っていった。

 だから遠足はお家に帰るまでだということを、蛸は忘れていたのかもしれない。

「ぐぅ゛アぁあゥ!」

 安堵の感があふれていた薬屋一帯に響き渡る蛸怪人の叫び。

 ミシシッという音は明らかに建物から聞こえてきたので、フォニーは

—————この家倒壊リスクMAAAAAX!

 蛸怪人より家が心配。宴会会場とフォニーおよびベータの住処がなくなってしまうではないか。

 屋内から大事なものの持ち出しができるよう店の入り口のドアをフォニー自ら開けようとするも、ミシミシときしむ。

 蛸の叫びが思いのほか手短で聞こえなくなった——もうそれってもしかして…——のは別のリスクMAXプラスアルファだが、まあ他人事である。

 だからフォニーの対戦相手であるこのドアの建具が曲がって開かない。だけじゃなく、可笑しいぐらいの圧力も感じることのほうがよほど重要時。

 向こう側に飛んでいったら怪人の様子も見れて一石二鳥だったのだが、この時フォニーは思いついてすらいなかった。

「ぐぬぬっ!」

 開こうとする向こう側から、グイっとフォニーをドアごと押す力。

 思い切り良くドアが開いた。と同時に、後ろに尻もちをつく。

「いててっ」

 間もなく、

 スポンッ

 小気味いい音の方を腰をさすりながら見ると、マルタンがドアのほうに駆け寄っていく。

 ドアの向こうではベータが振り返っていた。

 そのはるか向こう、裏口の向こうで、蛸怪人が蛸の形に完全に戻った状態で尻もち…尻? 頭? なにせ斜めに向こう側に倒れ込んでいる。

 顔にドアの枠の形のあとが残っているが、人の形に何とか自力で戻っていくと、その後は顔面のどまんなかに残った。

 赤い顔に、もっとビビットな赤と茶色く焦げたような野が混ざった四角い縦長の枠。

 模様付状態の怪人を一目見ようと、屋内に入ってそのまま店の入り口を閉じようとするフォニーに、

「だめだ! 開けておけ!」

 叫んだ。

 フォニーが止まったのを見て、ベータはダイニングの下の収納っぽい蓋をそっと閉じる。

 で、一息ついて、額の汗をローブの袖でぬぐい、

「入り口、閉めてよし!」

 キリっとフォニーに命令。

 なんかムカついたので不貞腐れた顔で店のドアを振り向いたら、マルタンがすでに扉を閉じた後だった。

 ベータは裏口から外に出て行こうとしているので、

「裏口も?」

 聞きながら裏口に飛んでいくと、道すがら蛸怪人の体液チックなものが部屋に飛び散っているのが分かる。

「いや、いい」

 ぴちぴちと蛸の足が部屋の隅で跳ねるのを見つけてぞっとしながら、家の外に出た。

 ベータの手にはフォニーに与えていた魔族仕様の栄養ドリンクが。

「大丈夫か」

 蛸の目にも涙。ポロリと一粒こぼれて、

「顔痛い」

「足は」

 二本脚は人間なのだが、あらぬところから生えた化け残りの二本のうち一本がちぎれている。

 真っ新だった裏庭の大地に、蛸の切れ目から出てきたジューシーで磯の香と魔力漂う汁が染み込んでいく中、

「足はよくちぎれるから…ただ、人型を保つのは…ゼェ…ハァ…」

 一度は蛸に戻っていたのを何とか人型に戻そうとしたようだったが、スマートだった見た目は蛸の人間の間ぐらいのおデブになっていた。

 瓶のふたを開けて蛸に渡すと、焦ったのか手だけ蛸足に戻っている。

 吸盤にくっつけて蛸の口で瓶の口を覆い、一気飲み。

 瓶の口が削れて二度と使えない状態になったが、蛸怪人はうつむいたままじいっとしている。

「マズい…不味すぎるしクセェ…ゼェ…ハァ…」

 ですよね、と全力で共感するも、蛸怪人の様子には改善が見られない。

 フォニーが最初一口で叫んだあの味と匂いに叫ぶ気力も残っていないのだ。

 痛みか不味さか、どっちが原因かわからない涙をポロリポロリともう二粒程零す蛸を見てベータは、

「やはりこれでは少し弱いか…」

「う…味強すぎ…」

「わかりみ。でも我慢よ」

 蛸の顔の四角い跡ちょっとましになっている気がする。

「あと何本?」

「二本。それ以上は危ない」

「もう…口に含みたく…ねぇ…けど…」

 フォニーは栄養ドリンクを取り出し、二本を蛸怪人に渡した。

 蛸怪人は滝のような涙を流しながら、二本をすぐさま右側の手で受け取る——この時点で右手が四本になっている——と、一気飲みした。

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