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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 迎えた魔族リハーサル当日、のはずだが。

「もう時間なんじゃない?」

「ああ。時間に沿って来ない。予定通りだ」

 ゆっくりと昼食を済ませながら待っても来ない。

 1時間経過。

 来ない。

 2時間経過。

 来ない。

 3時間経過。

 その間も家の中では準備が着々と続いていたが、

「たぶん、そろそろだ」

「なんの基準よ」

「暗さ加減がたぶん、魔族が好きそうな時間だ」

 ベータが店のドアを開けるのに引っ付いて外を覗き見ると、曇っていてもうすぐ雨が降り出しそうな感じ。

 じめじめした空気といい、確かにフォニーもこんな日こそ男漁りにいそしもうかと思うような外観。

 魔族も動物なのかと残念な気持ちになったその時、目の前に雷のような光が差し。

 何もなかった空間にスリットのような切れ目ができ、ずるりと何かがはい出した。

 巨大な蜘蛛の足。

 絶対八本じゃない蛸の足。

「あ、やっべ」

「お前ら何やってんだよ化けてから出ろよ」

 ズバシュっと何かで切られたのか、汁っぽいものが噴出している。

 そのままスリットは一旦、開いたのよりも高速で閉じていった。

 わずかに残ったすき間から、さっきの雷のような色の光がストロボのごとく漏れ出し。

 魔界の門の向こう側でお出かけ前の準備がバタバタと——さっき以上の怪音をともなって——行われているらしい。

 あの汁は魔族から魔族への暴力的かつ教育的指導の賜物か。

 細~い煙やらがすごい勢いですき間からビュシューッと音を立てながら噴き出すと、

「ちょちょちょ!」

「あーそこまだ残ってるっ」

「いける? いっちゃう? いったれ、うん」

「ダイジョブダイジョブ」

「よし、じゃあ気を取り直して…オープンッ!」

 ベタ過ぎる掛け声が隙間から聞こえた後、再び雷のような光が以下略。

 隙間から、ばばーんと黒っぽかったり赤っぽかったりする人の形をした生き物が何人も出てきた。

 集団に混ざっていたマルタンは、上にとびぬけてこちらにやってきた。

「遅くなりました」

「いや、大丈夫」

 遅くなりましたと言っておきながらマルタンが平然としているのも、魔界時間なのだろう。

 そういえばフォニーもこれまで時間を決めて約束などしたことがなかった。

 今はベータにくっついて孤児院に行ったりするときに予定を立てているし、今もカレンダーにバツ印を付けて対応しているのを見ているし、待ち合わせだからと思っていた。

 あれ?

—————アタシ、人間化してる?

 魔界の門から漏れて出てきた魔界の空気がとっても美味しいから、まだ大丈夫、セーフだと言い聞かせた。

 本日のリハーサル魔界編、やることは先週と同じだが、

「結界再付与しろ! 二重にしないと万が一のことがあるからな!」

 赤っぽい色の魔族——少しだけ皮膚がぬめっているのでさっきの蛸なんじゃないかと思う——が指示を出している。

 うっかり生身で出ようとしていたくせに。

 蜘蛛だったとみられるのが糸を張り、そこに虎っぽい顔のが術を掛けている。

 黒い湯気のようなものが立ち上るが、ベータや王宮魔法師が先日アレコレしていた結界周辺で消えていく。

 ベータが消えゆく黒い湯気を見ながら、

「流石ですな」

 呟く。

「側近クラスの魔力を帳消しにできるとは」

 思い出した。蛸と蜘蛛は魔界の軍師、虎は切り込み隊長だったはず。他人にあまり興味がない魔族の性として、名前は覚えていないが、

「本当に最高権力連れてきてるのね」

「当たり前だ。そうしないと言うことを聞かないからな」

 他にわらわらいる蟻のような魔物たちが整列して蜘蛛の糸に突っ込んでいって焼けている。

「…そういうこと?」

 生贄か。マルタンはフォニーの呟きをミュートしているらしく、何事もないように作業にあたっていた。

 人間界最高峰の魔法使いが張った対魔族仕様の結界の一部に人間が入ってこれる扉を付けている。いささか…いやだいぶ狭い気がするが。

 あれで酒を載せた荷馬車は通れるのだろうかと思っていると、グイっとマルタンが左右を広げた。

 おおおっと周囲の何人かからどよめきが上がる。

 魔力をはじく・吸い取る結界を粘土細工の壁のように簡単にこじ開けるなんてとんでもない芸当を目の当たりにしているのだから当然で。

「手を動かすのだ!」

 マルタンの一声で元に戻るあたり、暴力はどんな命令系統より強いのだろう。

 先日の王宮魔法師しかり、周りが読んで動く。

 ベータが言う通り、人の名前どころか親の名前すら怪しくなりがちな魔族では、普通ありえない状況だ。

「あそこのサキュバスは? 生贄にしちゃ強そうだけど」

 マルタンに蛸の魔族が聞いている。

 フォニーは血が凍りそうになった。

—————マンドラゴラ一〇〇の瓶を割った張本人だってことは黙っておいて…!

 マルタンのつるっとした後頭部に念じていると、

「ああ…ごにょごにょ」

「へー! すげー! 使い魔でもねーのに!?」

「ああ」

「どうやって? 性欲で生きてるサキュバスを?」

「やはり魔王様のご子息だからか…」

 蛸と蜘蛛と虎のおおぉという感嘆の声。

 フォニーをピンチに陥れるとマルタン自身が面倒になると踏んだのだろう。嘘をついてくれているらしい。

 が、癪に障るので、

「褒められておりますわよ~」

 隣にいると思っていたベータに声をかけたが、忽然と姿を消していた。

 すっごい恥ずかしい。

「なんか、あの女馬鹿っぽいぞ」

「あれかな、御子息殿、同情したのかも」

「だろうな」

「私が聞いたのは、弱っていたからどうのこうの」

「うんうん」

 こめかみに血管が浮かびそうだが、殴りかかって勝てる相手ではないことぐらいわかるので食いしばって我慢する。

 それに言い返しようがないぐらい、今フォニーは何って仕事もしていないのだ。

 自分で獲物も狩れていないし狩りに行けていない。

 魔族の中でも強い方ということはそれだけ魔力を消費するのも早いから、もっと毎日まいにち男漁りしてなんぼなのに。

 マンドラゴラ一〇〇の件は内密に、おそらく魔王にだけは正直にしゃべるって路線にするんだなと分かってよかったものの。

—————アタシのおバカキャラは確定ね。

 頭が悪いのは自覚しているし、強い方ではあるけどトップ・オブ・トップには絶対叶わない。

 今日だってこの前準備していて今手元に持っている武器を使わないでよさそうで安心しているくらいだ。

—————くそむかつく。

 イライラしていたところだった。

「一匹逃げた!」

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