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ドラッグストアへようこそ  作者: 楕草晴子
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 目覚めてすぐに嗅いだ甘い香り。今日も腑に落ちない気持ちで一日の幕が上がった。

—————あいつ…人生のどこで『付け届け』ってものを学習したのかしら。

 しかも花のポプリという女子受け抜群のお品。

 先週受け取ったその日のうちに開封してドアノブに掛けたことで、今やフォニーの部屋はフローラルな空気で満ち溢れていた。

「わかんねぇ」

 起き上がってベッドの上で胡坐をかいて頭をぼりぼりと掻きむしる。

 嬉しいのは嬉しいが、タイミングが謎。

 それに、ぶっちゃけ『いい香りの袋』を持って来るのであればもうちょい洗濯・水浴び頻度を増やしてもらった方が嬉しい。前よりだいぶましになってはいるのだが。

 腕踏みして首をひねれど、答え出ず。

 ここ一週間栄養ドリンクなしでやれている。が、また飲み始めないといけないかもしれない体力の衰えはひしひしと感じていて。

 だから、昨日からほぼ無言だったことを、今日あたり解消しないといけないかと思っていた。

 でも、

「そもそもこれまでベータと会話とかなかったんだけどなぁ」

 そうなのだ。別にそんなに喋っていないにもかかわらず、今フォニーはベータと関係が悪化しているのを感じており、会話を作らないといけないと思っている。

 我ながら不思議。前後にあった出来事で勝手に無言の時間の内訳を文脈推移して、今を気まずい時間だと決めてしまっているだけなのではないか。

 疑問を晴らすため、着替えて速やかに階下に降りる。

 来客のない店、姿のない主。

 草むしり士復職はしているが、先週は街にも少し物色に行ってみたりした。

 体力のあるうちにと、新規開拓のため娼館の周辺の居酒屋で張り込んだりしたものの、あの軍人ほどの獲物は見当たらず。

 『どいつもコイツも女日照りのくせして選り好みしやがって!』という月並みなぼやき文句が頭を駆け巡るだけだった。

 ベータからはそんな空気が伝わってこないのはなぜか。

 気持ち悪がられるからなのだろうか。

 と、物音が激しくなる。

 荷物が大量に階下に持ち込まれている模様。降りてみると、これは、もしかして、

「今日、孤児院行くの?」

 おはようもなしに会話をベータへと投げる。

「ああ」

 フォニーは思案した。そして、

「あたし、ついてっていい?」

 ベータはジッとフォニーを見て、

「わかった」

「よかった」

 ベータは眉間にしわを寄せている。

「何故だ」

「邪魔だって断られるかと思って」

「…うん、そうか」

 ちらちらと目線をフォニーから外しながら、手元は荷づくりに執着しだしている。

—————そうじゃなくって。

 期待していたのと違う回答ではあったが、拒否はされなかった。

—————期待? どんな?

 またしてもフォニーは自分でよくわからない考えになっていることに気づいた。違うなぁと思ったのに、何と違うのか具体的によくわからない。

—————まあいいか。

 顔を洗って拭いたところで、ベータが台所の水場に何かを持ち込んでいる。

 手持無沙汰だったので、その横に飛んでいくと、葉物の何かを洗っていた。

「薬草?」

 ベータは凄い勢いでフォニーのほうを向いた。

「驚かすんじゃない」

「ごめんなさぁ~い」

 斜め上からベータの頭と手元を見下ろす。

 ベータの顔はフォニーの顔を見るためか上を向いた。

「降りろ。羽ばたいた時の風が作業の邪魔だ」

「やだ」

 渋い顔のまましばらく言い淀んで、

「手元を見たいなら降りたほうが見やすいぞ」

 おお、どうやら見せてくれるつもりらしい。

 しゅるると下降、着地すると、ベータの頭がフォニーの斜め上にきて、ベータの手元がよく見えた。

 土を洗い落とし、根っこをちぎり、それはそれで洗って取って脇に置いている。

「なんでこれ取っとくの」

「この部分を乾燥させて護符を書くときの墨に混ぜると雨でも落ちにくくなる」

「へー」

 思いのほか質問にもすんなり応えてくれるではないか。

 なんとなく溝を感じていたのはどこ吹く風で、フォニーは楽しくなってきた。

 あまり邪魔をしてもなんだから、あとはしげしげ観察することにしよう。

 流し場でせっせと分別された根の水分を取ってほぐし、布の上に広げて乾かすモードにしていく器用で仕事熱心なベータの手は、そのまま仕事の距離でベータの体とともに荷物の荷づくりに移っていく。

 なんとなくその場所を動くのも何で、台所にもたれかかって手伝えることがないらしいこと、フォニーはこういう器用さが全くないので、寧ろ善意を出すと周りが不幸になるとわかっており。

 ただただしげしげとベータの動作を眺めるに過ぎなかった。

 機敏に動いていくその様。あっという間に広がった物が鞄内に収納されていく様。

「どーやって中のものの場所、わかるようにしてるの?」

「手前のほうに取り出せるようにタグをつけている」

「仕舞う前そんなもんなかったじゃない」

「袋に入れるときに普段袋の中側にストックしている奴を付けている」

 ベータがこちらを向いて、袋の中を軽く広げていた。

 寄って覗くと、底がどこにあるのかよくわからない中、ぷかぷか浮かぶように物が散乱している。

 手元には確かに、その物一つ一つとつながったタグと紐。但し、

「これ、魔法でつけてるでしょ」

「ああ。そうしないと絡まってしまうからな」

—————これだよ。コイツ。

 そんな機能性の高い操作ができるものをポコポコ作れてしまうとは。

「どうりで聞いたことないと思った」

「何かあるのか」

「いや、いい、けど…」

 この無限に広がる穴を見て、どうしても床下をチラ見してしまう。

「あるなら聞いてくれ。答えるから」

 じゃあ、お言葉に甘えようではないか。

「あの床下収納、魔界につながってる穴だよね」

「…いや、ふ、袋と同じで亜空間なだけだ!」

「嘘でしょ」

「お前、見たな」

「ええ。見たわ。この距離だし、アタシが見たことも聞こえてるでしょ」

 ベータの目隠しはまだ布のままなのだ。だからこんな近づいたら全部筒抜けのはず。

 案の定無言。

「で? あそこから魔界に帰るとかはできないんじゃないかな~とは思ったんだけど、魔界ではあるよね」

 詰める。と、顔をそむける。

「あ、あれはただの通気口だ。生き物が通るのは難しい」

「魔界に個人宅から通気口通す奴があるかよ」

「必要なのだ!」

「なんで?」

「今は言えない」

 ちょっと前にも聞いたセリフ。てことは、

「あの魔界の穴、マンドラゴラ一〇〇と関係あるの?」

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