第5章
1909年。
ヘビー級の新しいチャンプは、新しい試合を求めて旅していた。
貧しかったジョンソンにとって・・・試合とは、すなわち『収入』・・・俗にいうところの『メシの種』に他ならなかった。
次の対戦相手は・・・なんと、ヘビー級より二階級も下のクラスのミドル級・・・白人の現チャンピオン!
彼、『ミシガンの殺し屋(=アサシン)』こと、スタンレー・ケッチェルは、ミドル級だったが・・・華麗で大胆な男だった。
色白だが、引き締まった肉体、鋭い目つきをした、なかなかのナイスガイである。
だが、体格でジョンソンにはるかに劣るケッチェルは、試合前の合同撮影で、肩パッドの入った大きなコートを着て、しかも、かかとの高い靴(= カウボーイブーツ)を履いていた。
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ヘビー級チャンプ、ジョンソンの初防衛戦だ。
・・・彼は、注目されることが好きだった。
みなに、自分の強さを誇示したかったのだ
先に読者の皆様に紹介した動画の中の彼の肉体を見ると・・・いかに当時のジャックの筋肉が発達していたかがわかる。
まるで『砲丸』のように、大きく、丸く盛り上がった、三角筋(= 両肩)。
膨らんだ上腕二頭筋、三頭筋。
現代のボディビルダーさえも、うらやむパーツである。
彼はいう。
「・・・『黒人対白人、ヘビー対ミドル』・・・こんな感じの王者同士の闘いが好きなんだよ。今度の試合でも、大いに笑ってやるぜ。」
大勢の見物客の中に、ジャックのスパーリングをじっと見つめる、一人の白人の『淑女』の姿。
他に、女性客は、ほぼ見当たらない。
この女性・・・名を『ベル・シュライバー』といい、それ以来、彼の生涯につきまとう女である。