第13章
・・・ジョンソンは、金払いのいい男を尊敬した。
興行師のジャック・カーリーが、『ジム・フリン』との試合の話を持ってきた。
ジョンソンの条件は・・・
ファイトマネーそのものの三万ドル・・・プラス、『映画化権』の結果によりもうかる金のうち、三分の一の金額である。
議会が『試合の撮影』を禁じていたにもかかわらず、である。
ジョンソンの言葉。
「・・・カネが必要だったんだ。」
彼はこのとき、カネだけでなく、体力もガタ落ちしていた。
それはやむをえないことだった。
・・・なにしろ、あの大試合のジム・ジェフリー戦以来、ずっと試合がなかったからだ。
実に、まるまる2年近くも戦っていなかった。
ジョンソンは、体力と試合カンの両方を取り戻そうと、イキのいい若手の白人とスパーリングを開始する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・試合は、1912年。
会場は、ニューメキシコ州ラスベガスだ。
シカゴとカリフォルニアの中間にある、当時、まだまださびれた小さな町にすぎなかった『ラスベガス』・・・。
この小さな田舎町に、農業労働者が、まるで「激流」のように押しかけて・・・
地元の鉄道労働者を驚かせた。
この試合の興行師カーリーは、結局、映画の出資者に契約を破棄され、撮影隊探しに奔走し・・・
『対戦相手のジム・フリンは、白人の希望の星だ。必ず、ジョンソンをぶっ倒してくれるはずだ!!』
と、強く説得してまわった。
・・・そして、地元有力者の協力をようやく得られ、試合が始まったのだ。
ついでに、撮影隊も見つかった。
カーーーーン!!
第1ラウンド。
この日・・・つまり、1912年7月4日は、ジェフリーをKOで葬り去って、ふたたび引退に追いやってから、まる2年後だが・・・
やはり、ジョンソンの衰えは隠せなかった。
映像を見返してみても、全体的に、あきらかに筋肉が落ちてしまっているのがわかる。
しかし、いざこうして観衆の前に立ってみると、また以前のようなチカラがよみがえってきた。
自信を得たジョンソンは、挑戦者フリンに、強打をおみまいし続ける。
「・・・へぇ、思ってたより弱いね、このフリンとかいう小僧。俺のグローブで、しっかり眠らせてやるぜよ。」
左手を伸ばして、余裕でフリンの頭を押さえつけるジョンソン。
フリンは、やがて「士気」をくじかれる。
それにしても・・・
同じジム・フリンが、この5年後に、「マナッサの殺し屋」の異名をとる、あの伝説のヘビー級チャンピオン・・・まれにみるハードパンチャー・・・まだ無冠時代の『ジャック・デンプシー』を、わずか1ラウンドでノックアウトすることになるとは・・・。
嗚呼・・・歴史とは、かくも不透明で皮肉なものなのか・・・。
フリンは、なかなかジョンソンにパンチが当たらないのでヤケになり、ジョンソンのアゴを狙って、反則の「頭突き」・・・バッティングを何度も、しつこく繰り出しはじめた。
映像を観れば、読者の皆様も吹きだしてしまうと思うのだが・・・
クリンチの状態から、ジョンソンに向かって、飛び込むように、わざと頭突きをしているのがわかる(笑)。
ジョンソン談:
「やたらピョンピョンと跳ねおって・・・お前・・・本当はカンガルーだろ!?」
ここでようやくレフェリーが、フリンに注意を与える。
「頭突きは反則だ! やめなさい、ジム。」
試合再開。
「なぁ、ジム君よぉ。せっかくああして撮影までしてくれてるんだぜぇ・・・そうやって反則ばっかやってねえで、もっとまじめに動いてみたらどうなんだい・・・?」
・・・ダメだ。
ジョンソンが挑発すればするほど、フリンはムキになってしまうらしく、しつこい頭突きを一向にやめようとはしない。
観衆もレフェリーも怒る。
「・・・ジム。事前に定めた『クインズベリー・ルール』に従いなさい!!」
・・・9ラウンド開始。
もう待ったなしだ。
いいかげんにしろ。
またもフリンの頭突きが・・・。
反則をやめないカンガルーの執拗な攻撃を、それでもジョンソンはたくみにかわす。
フリンが、また妙な動きを見せる。
・・・レフェリーが、厳重に注意。
両者、棒立ちになって、しばしにらみあう・・・。
このとき、リング内に、誰か乱入してきた。
保安官だ!
彼は、試合の中止を宣言・・・またもジョンソンは、あのトミー・バーンズ戦同様、警察の介入で勝利を収めたのだった・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
・・・せっかくの機会なので、ここでジム・フリンというボクサーを、読者の皆様に簡単に紹介してみたいと思う。
『ジム・フリン』(1879~1935)
アメリカのボクサー。
身長:177cm 体重:85kg
ジャック・ジョンソンに、9回警官介入で敗れた試合が、彼にとって唯一の世界戦だった。
フリンはまた、1917年2月13日に、あの名チャンピオン『ジャック・デンプシー』を、なんと1RKOで破っている。
このジョンソンの試合までは・・・その『負けっぷりのよさ』で、非常に人気があり、あだ名は『ファイヤーマン』・・・すなわち『消防士』。
ボクサーになる前は、彼は消防士をやっていたのである。
生涯戦績・・・54勝39KO23敗15引き分け22無効試合。
m(_ _)m




