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ルームメイト  作者: 帆摘
41/41

41話

噛み合わない不毛な会話に俺は苛立ちながら、柾樹さんの言葉を思い出す。

(いいか、忍、あの手のタイプの女には常に冷静に対処する術を身に付けろ。煽る言葉に惑わされて自分を見失わないようにするんだ。)

「・・目的はなんだ?何故今更俺に付きまとう?」


「あらぁ・・ふうん。少しは成長したのかしら?そうね・・今日はご挨拶に寄ったまでよ。久しぶりに日本に帰ってきたことだし・・」にやにやと信用ならない笑みを浮かべる相手に対して忍はフンと鼻で笑っていった。


「ふざけるな。わざわざ探偵を使って調べてまで来たんだ。何かあるんだろう?」

真弓は今度は意外そうに目を瞬かせて呟いた。「本当に三流ね・・・あの藪探偵もどき・・・まあいいわ。」


「そう・・ね、貴方・・・死ぬ前のユリアから何か預からなかった?」

「・・・はあっ?何を??」突拍子もない質問に面食らう。


(本当に知らなさそうね・・・参ったわ・・今更あんなものが紛失していることに気づくなんて・・万が一アレが表に出たらまずいことになる)


「別に知らないならいいのよ。邪魔したわね。」


「ちょっ、待て!一体何を・・お前、ユリアと一体」


Susserおぼっちゃん・・Misch dich nicht in anderer Leute Angelegenheiten ein. (他人のことに首を突っ込まないことね)」


掴みかけようとした手を払いのけ、真弓はまるで興味を無くしたかのように冷たい瞳で俺を一瞥するとさっさと歩きだした。


「っち、なんだっていうんだ」とっさに追いかけるべきか否か迷ったが、取り合えずは緊急性のないものとしてあきらめ、部屋に戻ると先ほどの真弓の言葉をゆっくりと反すうする。


「・・・死ぬ前にユリアが俺に託したもの?」なんだそれは・・・。付き合っていたといっても短い間であり、手作りのお菓子などは貰って食べたことはあるが、実際に何か形に残るモノをユリアから貰った記憶はなかった。だが、真弓がわざわざ探偵を使ってまで確かめに来た・・というところに引っかかりを感じる。


それにあの言い方・・まるで、生前のユリアを知っていたかのような・・。一時期真弓と付き合っていた頃に同時に体の付き合いのあった女たちを真弓が裏で手を回して排除していたらしきことはゾフィーから聞いていた。だからこそ、ユリアが集団レイプ被害にあったと聞いた時、真っ先に疑いをもったこともある。


・・・それだけではない・・・?ユリアと真弓の間にはほかに何か繋がりがあったのかもしれない。漠然とした考えに浸りながら・・・そういえば実際に自分はユリアがどういう人物であったのか、交友関係や趣味、背景についてほとんど何も知らなかったことに気づかされた。


そして、もう一つ、気が付いたことがあったのだ。なぜ真弓が自分に執着するのか・・・最初に自分が真弓と出会ったパーティーでは、当初、あからさまにあいつ・・俺の親父にターゲットを絞っていた・・・。親父は良くも悪くも亡くなった母の事しか頭にない。あの手この手の色仕掛けは通用しなかった。


だから・・自分に接触してきた?

そうだ・・、何故あの時もっと深く追求しなかった?

 

元々関係がこじれだし、俺が別れを切り出したきっかけは、あいつが 俺の母親について、やたらと探ってきたことだった。母の過去については家族の一種の禁忌タブーであり父親も、生前の母親もあまり話そうとはしなかった。まさかの自身の母親が由緒正しいドイツの大貴族、アウグステン○ルグ家の一人娘であったことを知ったのは母親の葬式の席だった。大恋愛の末に級友で親友であったゾフィーの母親だけに居所を打ち明け、父親と駆け落ち同然に出奔した母。母親の素性についてはほとんど知る者はいなかったはずなのに・・・。


今考えてみると、いくら親父が売れている建築家とはいえ、母が滞在していたスイスの医療施設の高額な医療費を独りで負担していたとは考えにくい。もちろん、親友であったゾフィーの母親も負担してくれていたのかもしれないが・・もしかしたら、母の実家と親父の間で何かしらの取引があったのかもしれない・・・。

当主に結婚を反対され、駆け落ちした娘は世間体はどうであれたった一人の娘だったのだ。病弱であった母を連れだし、苦労させた挙句の果てに早死にさせたと現当主は親父を今でも恨んでいるという・・。


母の葬式に一度だけ、祖父だというアウグステン○ルグ家当主と対面したことがある。確か、あの時、いきなり親父に呼ばれて向かった先で出会った初老の男は憎々し気に親父を睨み付け、ちらりと値踏みするように自分を見て何かを呟いた・・・。すぐに出て行った祖父の事は、親父も口にしないし、俺も取り立てて聞くことはなかった。良く思われていないであろうことは雰囲気で感じられたからだ。


俺は、思考をストップさせるとすぐにドイツ行きの航空チケットを手配する傍ら、親父と、ゾフィーの母親にメールを出した。


***


次の日、真樹ちゃんに見送られて、マンションに戻ると、忍さんの姿はなく、リビングのテーブルに2通の置手紙が残されていた。ひとつは私宛に、そしてもう一通はお兄ちゃん宛てだ。


私宛の手紙を開くと、そこには、しばらく理由があってドイツに戻ること、その間のセキュリティーについてや、お兄ちゃんに、しばらくの間一緒に住んでもらうことなどの提案が書かれていた・・・。


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