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ルームメイト  作者: 帆摘
39/41

39話

思ったより長くなりそうだったので、2部に分けたので、結局後1話追加することになりました。なので、今日の部分はちょっと短めです。いやああ、自分で書いてて暗い展開ですが・・汗)

「しのぶ!」振り返るとそこにはいつもの取り巻きの中の比較的大人しい一人が青ざめた顔で佇んでいた。

「アマーリア・・」

俺の表情を見て彼女はぐっと何か言いたげに眉を寄せると張りつめた糸を切るように早口で喋りだした。

「ユリアの事で話があるの、時間を取れない?」彼女の口からユリアの名前がでてきたのは驚きだったが、真剣な彼女の眼差しに俺はうなずいた。

「ここでは人目があるから出ましょう、どうせその様子じゃさぼるつもりだったんでしょう?」

俺は彼女の後についてそのまま学校を抜け出した。女にしては大柄な彼女は歩くスピードも早い。ぐんぐんと遠ざかる学校を尻目に俺は聞いた。

「いったい何処に行くんだ?」

「・・セントトーマス病院よ。」

その答えに俺ははっとゾフィーの言葉を思い出した。恐る恐る彼女に問いかける。「そこに・・・ユリアがいるのか?」

「ええ・・。」アマーリアは短く答えた。それから病院に着くまでの間、アマーリアがユリアと小学生の頃からの友人で親同士も交流がある事、スクールの俺の知らない所でユリアが一部の女子から陰湿ないじめを受けていた事などを聞いた。気がついた時にはアマーリアがうまく逃がしてくれていたらしいが、まさかそんな事になっていたなんて・・。俺は自分の馬鹿さ加減に嫌気を覚えつつ、一番気になっていた事を口に出す。


「その・・・、ユリアは大丈夫なのか?体とか・・」頭の中で複数にレイプされたというクラスメートの言葉を思い出しながら慎重に言葉を選ぶ。

「忍も噂の事を聞いたのね・・・。容態は比較的安定してるみたいだけど・・・・。」悔しげにつぶやく彼女を俺は無言で見つめ、その続きを促す。

「・・あんな事があったんだもの、どんな女性だって普通の神経で居られるはずはないわ。最初に気がついたのは彼女の弟だった。いつもなら帰ってすぐ居間で弟妹達と遊んであげているのに、部屋に閉じこもって出て来ない彼女の部屋に強引に忍び込んで体につけられた傷を見たみたい。顔も殴られて少し張れてたみたいだし。

それから両親が帰ってきて事情を聞き出そうとしたけど、いっさい話さなくて、様子がおかしい彼女を連れて病院に行き、陵辱が発覚したみたい。


もちろんすぐに警察に連絡が行って事情聴取がされたんだけど、精神的にそれが耐えられるほどじゃなくて、何度も精神不安に陥ってしまって犯人の捜査は難航しているみたい。貴方は知らないだろうけど、彼女のいじめに加わっていたうちの学校の子達も幾人か事情聴取を受けているのよ。でもこの件に関しては白だったみたいだけど・・。少し精神が安定したかと思ったら、ふらふらと病院から抜け出たり、ずっと不安定なままで、今は精神安定剤をずっと投与されているわ。」


病院に着くと、彼女は釘を刺すように俺に言った。「今の彼女を見ても驚かないであげて、・・本当は忍をここに連れてくるかどうか迷ったの。ユリアだって今の状態を好きな人に見られたくないだろうし、でも、彼女が比較的安定している時にお見舞いに行った時、忍の名前をつぶやいていたから・・。」


病室の前まで来たとき、中から悲壮な悲鳴が響いた。「嫌!止めて、離して!」

俺とアマーリアはとっさに顔を見合わせる。急ぎ病室の中に入った俺が見たものは想像を絶するものだった。

手足を拘束され、点滴などのチューブを差し込まれた小さなユリア、ほんの数週前に会った時とはまったく違ったその姿に俺は唖然と固まった。


アマーリアが、ベット脇に行くと看護婦を呼ぶ為のボタンを押すと同時に驚愕にスミレ色の目を押し開く彼女を揺さぶる。「大丈夫、大丈夫よ、ユリア!ここには貴方を傷つける人なんて居ないわ、大丈夫、そう、ゆっくり深呼吸して、そう、大丈夫だから・・・。」それからすぐに看護婦が来て、錯乱状態の彼女をテイケアするため、俺たちは病室を後にした。


病院の待合室で今見た光景が頭から離れずぐったりとうずくまる俺にアマーリアがホットコーヒーを差し出した。無言でそれを受け取りつつも手がカタカタと震えていた。

「・・・今日はあの様子じゃ面会は無理ね・・・。」痛ましいものを見るように彼女が口を開いた。

「なんで・・なんであんな拘束具まで身につけてっ?!」

「ああしとかないと、寝ている間でも無意識に自分を傷つけてしまうみたいなの。何度も自分が犯された時の夢を見るみたいで、最初は睡眠自体もなかなか取ろうとしなかったから・・。」

無意識のうちに強く唇を噛み締めていたのだろう、口の中に鉄の錆びた味が広がった。

「ちくしょうっ!許せない・・・ユリアをあんな目に遭わせた奴を絶対に突き止めてやる!」憤る俺を横目にアマーリアが小さくつぶやく。

「それは、言うまでもなくユリアの家族や私たちが願う事よ。絶対に許せない・・・でもユリアもああいった状態だし、本当に捜査は難航しているみたい。・・・本当に悔しいわ。」


それからしばらくしてから俺は病院を後にして家へ帰った。しばらく何も手に着かず、考える事もできない有様でどのくらいベットの上に居ただろうか、そのまま朝になっても、学校へなど行く気がせず、灰皿の上に溜まって行く煙草の吸い殻を見つめながら俺は立ち上がった。


***

それから、幾度か病院にいるユリアを訪ねたが、大抵は面会謝絶か薬で眠っているやせ細った彼女に会う事しかできなかった。アマーリアからユリアをいじめていたという女達の名前を無理矢理聞き出したが、彼女の報復をしてもユリアは喜ばないという説得と、主犯の幾人かはすでに事情を把握した学校側から処分を受けていた事もあり、いままでつきあってきた彼女らと一線を引く事で落ち着いた。


幾日か後、俺の耳にユリアを襲った犯人の一人が捕まったとの報告が入ってきた。なんでもバーで自慢げに自分の犯した女の話を吹聴していたそうで、それを聞いた客の一人が警察へ連絡をし、逮捕へと繋がったそうだ。

これで、ユリアを犯した他の男達の事も含めて一挙に事件が解決するかと思われたのだが、そうは簡単にいかない事情があるらしかった。


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