表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルームメイト  作者: 帆摘
24/41

24話

レストランの中に入るとこれまた周りからの視線をひしひしと感じる。案内されたのは、窓際の席で、これだと、外からも、中からも注目されてしまう。店内からはこれ見よがしに、「なんであんな子が・・」と言う声まで耳に届くのだからやりきれない。

私は二人に気付かれないように小さくため息を漏らすと外に目を向けた。しばらく外を眺めていると、不意に一人の人物と目が合う。

(うわあ・・外人さんだ〜。綺麗な人だなあ。今日見て来た絵画にでてくる美女みたい。ていうか、なんでこっちをじっと見てるんだろう。)

と考えているうちに、その外人さんは大股にこちらに向かって歩いてくる。どんっと音がして、その彼女が私たちの座っていたテーブルの窓の外から叩いた。その音で、吃驚したように二人が振り向いた。


次の瞬間、傍目にもわかるぐらい忍さんの顔から血の気が引いた。そして呟かれる声。「嘘だろ・・・?」

窓の外の美女は獲物を見つけた猟師のように唇の端をにっとつり上げると、窓から離れ、店の中へと入ってきて、店員さんの止める間もなく、私たちのテーブルまでやって来た。


「見つけたわよ、忍!」意外にもお綺麗な外人さんの口からは流暢な日本語が流れ出た。

「・・・なんでお前がここに居るんだ、ゾフィー。」

「ここで逢ったのはたまたまよ。というか、まさかこんな所で逢えるなんてそれこそ神の導きね。丁度あなたに電話するところだったのよ、忍。」


私と先輩はいきなり現れた美人の外人さんに吃驚しながらも、頭の中では冷静に、なるほど、忍さんの知り合いかというカテゴリーを埋めて行く。

「おい、目立ってるぞ、どうにかならんのか?」先輩がおずおずと二人に声をかけた。

忍さんが気がついたように私たちに視線を戻す。

「すまない。ちょっと出てくる・・。」そういって立ち上がった忍さんを美女が面白そうに引き止める。

「あら、いいわよ別にここでも。忍のお友達?私、彼の婚約者のゾフィー・シュタイナーよ。よろしくね。」


「おい!ゾフィー・・お前と婚約した覚えは一切ないぞ。」

「あら、約束したじゃない。あれは6歳のときだったかしら・・・?」

「いつの話だ!それより俺は何故お前が日本にいるのかと聞いてるんだ。」

「まったく・・そんなに怒鳴らなくても聞こえてるわよ。とりあえず座らせてちょうだい。あなた、隣いいかしら?」

「はぁ・・・どうぞ。」私はとりあえず頷いて横にずれると彼女がとすっと椅子に座った。近くで見ると本当に綺麗だ。美しい栗色の巻き毛にくっきりとした眉と長い睫毛に縁取られた緑の瞳。通った鼻筋とふっくらとした唇は女性の私でもどきっとする。

「ありがとう。で、なんでそんなに怒ってる訳?忍」


「お前が人の話を聞かないからだろう。」

「あら、そんなことないわよ。大体幼い頃から忍のお嫁さんになる為に日本語にいそしんで来た私の努力を認めて欲しいものね。」

「話をすり替えるな。どうして日本に居るのか聞いてるんだ。」

「あなたが日本の大学に進学したから私も追いかけて来たのよ。次のセメスターから留学するのよ。で、一応留学前に視察に来たついでにあなたを驚かせてあげようと思って、おじさまに連絡して住所を聞いたんだけど、まさかこんな所で逢うとは思わなかったわ。」


「お待たせ致しました。あの、A-コースのお客様は・・」とそこで、料理が運ばれて来た。私が頼んだのは夏野菜を使ったリゾットのコースだ。忍さんの婚約者?らしいゾフィーさんが料理を覗き込んで言った。

「あら、それおいしそうね。私も同じのを頼もうかしら?」と誰に聞くのでもなく、ウェイトレスに注文をする。先輩は呆れた様子で、忍さんとゾフィーを見ながらため息をついた。


「おい、いったいどうなんってんだ?痴話喧嘩なら俺たちの邪魔をせず余所でしろよ。」

「あら、あなた達お付き合いしてるの?なかなかお似合いね。それなのに何故忍が邪魔をしちゃってるわけ?」と今度は彼女がちゃちゃを入れる。忍さんの額に青筋が走ったように見えたのは気のせいかもしれないが、ものすごく不機嫌そうだ。

私は彼女の言葉に咄嗟に否定する。「ええ?いや、付き合ってないですよ。二人とも良いお友達です。」あからさまに男二人の表情が変化した事に気がつかず私は墓穴を掘って行く。

「ふうん?お友達・・・ねえ。」二人の表情を見ていたゾフィーが興味深そうに呟いた。


「はい。えっと、ゾフィーさん?は忍さんを追って日本にやってきたんですか?というか、すごく日本語がお上手なんですね。すごい吃驚しました。」

「ふふ、そう?ありがとう。私と忍は幼馴染みで、彼の家とは家族ぐるみの付き合いをしてきたのよ。それで、忍と一緒に幼い頃から日本語を習っていたから。」

「へえ、そうなんですか。」

男二人は諦めたように黙って目前のランチを食べている。私も彼女と話ながら、ゆっくりとランチを楽しみだした。


彼女の話をまとめると、もともと、日本語に幼い頃から親しんで来た彼女は忍さんが日本の大学へ進学すると聞くやいなや、自分の両親を説き伏せ、忍さんを驚かせる為に内緒で留学の手続きをしていたらしい。二人の間には他にも色々な事情がありそうだが、あまりにも男二人が不機嫌になっていったため、せっかくのコース料理もあまりおいしく食べる事が出来なかった。あ、でもデザートの紅茶のアイスクリームはとてもおいしかったが・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ