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ルームメイト  作者: 帆摘
21/41

21話

「私の作品って・・・どのことですか?」

「遥ちゃんが高校生んときにだした奴、ほら、DASのコンペに出したでしょ?俺の親父、あれの審査員やってたんだよね。俺もコネで興味半分一緒についてった日があって、そこで遥ちゃんの作品みたんだ。なんだか其処だけ惹き付けられる様な魅力を持った絵だったからな。

家の親父も感心してたし。先が楽しみだって。」


「え?あれ、見てたんですか・・・恥ずかしい・・それに先輩のお父さんってもしかして沢田・・隆司先生・・?」

「うん、そうだけど・・ってあれ、知らなかったっけ?」

「知りませんでした・・・。日本画家の大家ですよね?」

「まあ・・な。それより最近描いたものってないの?課題以外でさ。」

「いえ、まだ色々と忙しかったものでペイントは始めてないんです。デッサンは幾つか描いたんですが・・・。」

「ふうん、そうなんだ。見せてもらっても良い?」

「どうぞ・・その机の上にあるのがそうです。」

しばらく無言で私のデッサンを眺めていた先輩だったが、そのいつものおちゃらけた感じとは違う真剣な様子に驚いてしまう。思えば大学に入ってすぐから先輩は異様に年下のそれも接点のないはずの私にかまってきていたが、自分の作品を通して知られているなどとは思いもよらなかった。それにしてもなんだろう。すごくどきどきする。


暫くデッサンとスケッチを見た後、先輩が顔を上げた。

「正直、まだまだ未熟な点が多いよね。でも遥ちゃんの絵には独特で不思議な魅力が溢れている。これからどんどんその魅力が引き出されるのが楽しみだよ。」

「はあ、魅力ですか・・。」確かに先輩の言う通り、私はまだまだ未熟だ。とはいえ、やっと念願の美大に入ったばかりなのだ、これからゆっくりと色々な事を学んでいけばよい。自分が井の中の蛙だと言う事を忘れてはならない。本当に美大に入って思った事だが、それこそ、先輩のようにうらやむぐらいの才能にあふれた人達が少なくない。それでも絵を描いて行きて行けるのはその中から、またほんの一握りなのだ。

「ありがとうございます、先輩。私頑張りますね!」

「忍さん、帰って来たよ?」居間でテレビを見ていた真樹ちゃんの声が響いた。「はーい」そういってリビングへ向かった遥の後ろ姿をしばらく見つめていたが、スケッチブックを閉じると俺は立ち上がってリビングへと向かう。アトリエに繋がる遥ちゃんの部屋は恐ろしいほどすっきりと片付いている。というかぶっちゃけ物がないのだ。もう少し女の子の部屋というものに憧れを抱いていたのだが、正直、こちらがあの男の部屋かと思ったぐらいだ。

人は見かけによらないなと感じたのはきっと奴も同じだろう。


***

時間を少し遡る事、20分前、俺は遥のお兄さんの「要望」でありがたくも?彼を駅まで送って行く事となった。断るなよ?ともいうような目で睨まれたらもちろん行くしかない。

遥の方も少し不思議に思ったらしいが、深く追求せずに笑って送り出してくれた。あり得ないだろう・・普通。やはりちょっとどこかねじがずれているっぽい。

部屋を一歩でると、先ほどまでと同じ人物とは思えないほど浮かべていた営業スマイルが消えていて、やはりついて来た事を後悔する。


こいつ、きっとこれが本性なんだろう。兄妹とはいえ余りにも似てなさ過ぎだ。駅に着くまでの7分間は1時間以上に長く感じられた。思っていたよりもかなり手強い兄だ。

絶えず微笑んでは居るが目が完璧に笑っていない。

「と、いうわけで、忍くん、これからもうちの遥を「宜しく」頼むよ?」

「はい。」俺は負けじと微笑みながら、用意していた物を手渡した。

「これは?」

「妹さんから好きだと聞いていたので、ここまで挨拶に来てくれたお礼です。」

訝しげに紙袋の中を確認した兄の表情が変わる。「これは・・・どういうつもりかな?」

「別にどうってわけじゃないです。俺、モデルの仕事してるんで、案外安くで手に入るんですよ。お近づきにと思って。これと遥さんの事は別件なので遠慮せずに貰って下さい。後、その傘も、そのまま使って下さい。どうせ今日は雨止まないと思いますよ。」

「・・・。男に物をもらうのは始めてだな・・」

「俺も男に上げるのは始めてですよ。」目を合わせてにやりと笑う。180以上ある俺の目線とそう変わらない、この男ならたしかにこの服も嫌み無く着こなすだろうと思う。

「・・遥に時間ができたらまた様子を見にくると伝えておいてくれ。」

「お待ちしてますよ。お兄さん・・。」

少しいい気分で帰りかけようとした俺の耳に彼の最後の言葉が届く。

「それと、首筋のそれ、今度くるときまでに始末つけとけよ?」含み笑いを漏らしながら、兄がひらひらと手を振って改札を通り抜けた。

あわてて、首筋に手をやる。自分が痕ををつけることがあっても、まさか自分が付けられているとは思ってはなかった。くそ、あの馬鹿女・・・

だがまあ、とりあえずは良かった・・と言うべきか。ばれたにも関わらずしばらくは様子見だとあの男はいった。俺は首筋を撫でながらため息をつくとマンションに向かって歩き始めた。

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